9話
因みに、9,10,6,7,8の順番に書きました。
そういえば夏のエピソードなかったな、と。
「なぁなぁ、末田」
「何?」
話しかけてきたのは飯島くん。
隣の席だったのがきっかけで話すようになった友達だ。
飯島くんは愛想良く礼儀正しく、おまけに顔まで良い好青年であり、僕は見かける度に心の中で拝んでいる。
顔良くて性格良いとか神やん?
「たしか不破さんと部活一緒だよな?」
「そうだけど?」
「不破さんってかわいいよな」
「………は?」
いきなりなんだ。
可愛いのは否定せんけど。
「いきなりどしたの?」
「いやさ、これまで全然目立ったりしなかったから気づかなかったけど見てみるとかわいいなって」
「はぁ」
まぁ、不破さん、基本完全ステルスだしな。
足音は消すし、おまけに気配まで消してくるから、そりゃあ、気づけんわな。
文化祭の実行委員になって前に立つことが増えたせいか。
「彼氏とかいんのかなぁ」
「……さぁ」
あぁ、まただ。
なんかムカムカする。
なんだろうか、この言い様のない不快感。
「ん? 末田どしたん?」
「何もないよ?」
それからずっとイライラが止まらなかった。
そのせいで授業は上の空だし、当てられたところが答えられないしで散々。
本当になんだこれ。
「末田くん」
「………」
「末田くん」
「………」
「末田くん」
「イテッ!?」
なんか蹴られた!
脛に鋭い何かがぶつかった!
「末田くん」
「……不破さん?」
蹴ったは不破さんか。
それしても容赦ない。
「どうしたの?」
「部活、行かないの?」
「え……」
あっ、もうHR終わってた……。
どんだけイライラしてんだよ……。
「行く」
「じゃあ、行こう」
そして不破さんに続いて部室へ向かう。
着くと不破さんはすぐさま本を取り出し、適当に置かれた椅子に座って読み出す。
僕もそこらに散らばる椅子を一つ取って座る。
「………」
「………」
改めて不破さんを観察してみる。
肩ぐらいまでの黒い髪は見たところ傷んでる感じが全くなくツヤツヤで多分掬ってみたらサラサラするんだろうなぁ……。
身長は170ちょうどぐらいの僕より10cmちょっと小さい感覚。
顔は、アイドルほど可愛いかと言われるとさすがにそうじゃないけど、クラスに数人はいるような整った顔。造形は語彙力ないから可愛いとしか言えない。
化粧は……しているのだろうか。そこら辺は疎いからあまり分からないけど、僕が見た限りだとしている感じはしない。なんかすごい色白だけど、本ばっかりで外出ないからだと思う。
体型は、
「末田くん、警察って110番だっけ?」
「急にどうしたの?」
「何やら体を嘗め回すような視線を感じたので」
「そんな目で見てないよ!?」
「末田くんとは言ってないよ?」
あ。
「末田くん、そういうの視姦って言うんだよ」
「そういう目で見てない!」
「じゃあ、どういう目?」
「ええと……」
なんだろう。
至極冷静に覗き込んでくる目に、まるで奥底まで透かされているみたいで落ち着かない。
これはなんと答えたら正解なのだろうか。
正直に、体型について考察してましたと答えたらどうなるだろうか。
……軽蔑の眼差しで見つめられる未来しか見えない。
「不破さんってさ、可愛いよね!」
「………ん?」
こうなれば褒めて押しきるしかない。
この人が照れる様子が全く想像できないけど。
「いきなり、なに?」
「いやさ、今日飯島くんがさ、不破さん可愛いって言っててね」
「誰それ」
おお、あの好青年と(僕の中で)名高い飯島くんを知らないのか!
いや、不破さん、クラスメイトやで?
「不破さん、最近矢面に立つこと増えて人に見られるようになったからさ、そのせいかな」
「ふーん……」
うわぁ、興味なさそう。
まぁ、誤魔化せたからいいけど。
「あ、もう時間だけど」
「ちっ」
舌打ちこそすれど、時間なら仕方ないと不破さんは本をしまって立ち上がった。
扉に向かうその背に僕も従い、不破さんが鍵を閉める。
それから不破さんが職員室に鍵を返すのについていく。そこから駅まで同じだったり違ったりがいつもの流れだ。
「ん?」
不破さんが靴を下駄箱から取り出すのと同時に何かが落ちた。
「封筒?」
不破さんはその封筒をしばらく見つめると、中身を取り出した。
中身には一枚の紙が入っていて、不破さんはそれを無感動に読み切ると、
「末田くん、ライター持ってない?」
「持ってないよ!?」
「マッチでも可」
「だから持ってないって!?」
燃やす気か!? 燃やす気なのかこの子!
「燃やしてしまえば読んだ事実も……」
「やめたげて!」
発想が酷い!
「それ、なんだったの?」
「ラブレター(仮)」
え。
「え、なんて?」
「ラブレター(仮)」
「ら、らららラブレター!? 見せて!」
「こういうのを勝手に見せびらかすのは良くない……って」
「ごめん! 僕が勝手にしたことにしておいて!」
渋る不破さんから強引に手紙を奪い取って、見る。
そこには、
『明日の放課後、校舎裏の階段の下で待ってます』
とだけ書かれていた。名前はない。
「……行くの?」
なにしてんだろ。
人のラブレター(仮)勝手に見て。
人の事情に勝手に首突っ込んで。
そんなことを思いながらもどうしても聞いてしまう。
「行くよ」
その答えに一瞬くらっとした。
なんだろう。物凄くイライラする。
「なんて答えるの?」
うわぁ、どこまで聞くつもりだよ。
「告白ならお断りする。今は恋愛事に興味がないから」
「そっか……」
それを聞いて凄くホッとした。
イライラも嘘のように治まる。
けど、ちょっと悲しい。
それが何故か、なんて言う気はない。
鈍感系主人公じゃあるまいに。
「じゃあね」
「うん、また明日」
不破さんの背が遠ざかっていくのをぼんやりと見つめる。
僕、不破さんが好きなんだな……。