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末田くんの青春(?)  作者: あろーん
8/10

8話

 家でゴロゴロしていた時、携帯が揺れた。

 画面を見れば、LINEの通知に『不破彩夏』の文字。


「珍しい……」


 不破さんとはLINEは交換こそしているがあまりやり取りはしていない。

 あっても部活の連絡だけだ。

 リアルでは結構話すのになぁ、と密かに残念に思っていた。

 LINEを開いて不破さんのトークを開く。

 そこには、


『祭りに行かない?』


 ………え?









 周りは人だらけで、やはり祭だけあって浴衣が多い。

 しかもカップル率が異常に高い。

 独りの肩身の狭さと言ったら……。

 10組くらい夜の相性が悪くて破局すればいいのに……。

 下品でごめんね。


「末田くん」

「うわぁ!?」


 この子、いつも気配ないな……。

 何なの、忍びなの?


「こんばんは」

「こんばん…………は?」

「何故に疑問系」


 いや、意外だった。まさに驚天動地と言って差し支えないほどの激震が僕の内側で起こっている。

 だって、だって、不破さんが、


「浴衣……」

「そう、浴衣」


 正直、来てくるとは微塵も思わなかった。

 歩きづらいとかで絶対着ないと思っていた。


「………」

「そうジロジロ見ないで」

「ご、ごめん」

「さすがの私も恥ずかしい」


 いや、全く顔色が変わっていないのですが。

 まさにフラット。某冴えないヒロインの如くフラット。

 ん? でも耳が心なしか赤い気が……。

 これは、照れてる……のか?

 よし、試しに。


「不破さん、すんごく似合ってる」

「………」


 あ、赤みが増した。

 よし、もっとだ。


「めちゃくちゃ可愛い! 写真取っていい?」

「……………」

「髪もお団子? にしてるしさ。いつも可愛いけどさ、いつにも増して可愛い! 不破さん可愛い!!」

「………………………ばか」


 あ、そっぽ向いてしまった。

 怒らせてしまったか。

 でも、耳真っ赤だし、先に行く様子もなく待ってくれている。

 そんな様子も可愛いくて、つい焦らしてしまう。


「末田くん」

「ん?」


 あれ、なんか声が冷たいような……。


「心にもないようなことを言うのは良くない。……可愛いとか、嘘って分かってても傷つく」


 あれ?


「いや、嘘とかじゃなく……」

「次、言えば、もぐ」

「………」

「分かった?」

「………はい」


 嘘じゃないのにな……。

 まぁ、自分でも馬鹿みたいに連呼してた自覚はある。


 それからは、ごく普通に祭を楽しんだ。

 頭では、こんなの何が楽しいんだか、と思っていたようなものも不思議と楽しめた。

 何をするかじゃなく誰とするかが重要と知った夏。


「そういえば」

「ん?」

「食べてからでいいよ」


 不破さんは、焼きそばを口いっぱいに入れていた。

 頬が膨らんでリスみたい。可愛い。

 ……今日、可愛いしか言ってないのでは。


「何?」

「いやさ、なんで誘ってくれたのかなって」

「母親に浴衣を着せられたけど、部屋に籠ろうとしたら祭行けって追い出された。どうしようかと思って末田くんに連絡した」

「それで仕方なくってわけね……」


 いや、特別な何かを期待したわけじゃないけど……。いや、年頃の男の子ですから少しは期待したけどさ!

 でも、一番(多分)に頼ってくれたのは嬉しい。


「あ、そろそろ花火始まる」

「えぇー……」


 うわぁ、嫌そう。

 と、それはともかく!


「混んできた……」


 かなり人が混雑し始めている。

 花火の場所取りだろう。

 このままじゃ、はぐれるか。


「不破さん、ごめん。引っ張る」

「ん」


 不破さんの手を引っ張って人混みから退散する。

 途中、流れが強すぎて何度か手を離しそうになったけどなんとか持ち堪えた。


「はぁ、やっと抜けた……」

「疲れた……」


 さすがにあれは人に酔う。

 ちょっと気持ち悪い。


「座ろう」

「ん」


 近くにあったベンチに腰を下ろした。

 目の前では未だに人が忙しなく流れている。

 ぼんやり、しているとドーンと音が鳴った。


「始まった」

「ん」


 空では何度も花が咲いては消え咲いては消えが繰り返されている。

 正直、これまで花火なんてどうでも良かった。

 興味がなかったから見ることすらしなかった。

 でも、


「意外と悪くない」

「ん」


 不破さんも同じ口らしい。


「花火なんて、正直興味なかった」

「うん」

「でも、不思議と今は悪くない」

「そっか」


 それが同じ理由だったら良いな。

 そんな風に思いながら、花火が終わるまで眺めた。

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