7話
「暇だ……」
夏休みが長いと嬉しい。
分からないわけじゃないんだけどね。
でもその間に何の予定もなかったらただただ虚しいだけなんだよなぁ。
宿題はとうの昔に終わってしまった。
暇なんだもの。
友達と遊べ?
いや、さすがに友達がいないとは言わないけど、遊びに行くほど仲の良い友達がいないというか。
向こうも、こいつ誘っていいのかな、って困ってると思う。いや、そうでいてほしい。忘れられてないよね? そうだと言って!
「はぁ……」
こんなんだと、基本ハードモードの不破さんとの会話でさえ愛しく思えてくる。
思えばあのやり取りを楽しんでる自分がいるんだよな。
言っておくが僕はドMではない。決して。いや、多分。
あ、なんか不破さんに会いたくなってきた。
いや、ドMじゃないよ?
「不破さん……」
「誰それ?」
「うわっ!? ………なんだ姉さんか」
「なんだとはなんだ」
これは僕の9つ上の姉、香苗。
上下ジャージに寝癖のままの、現在独身。先月までは彼氏がいたが振られた。本人は、自分が振ってやったんだ、と頑なに認めない。
「なんか失礼なことを考えてる気がする」
「なんで分かった」
「どうせ彼氏がどうとか考えてたんだろ!? そうだよ! いねぇよ! ていうかあんな奴、振ってやったんだ! ………うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「ただのオウンゴールやん……」
そういうところが愛想尽かされる要因だと思う。
「ところで『不破さん』って誰?」
切り替えはや。
「誰でもいいじゃん……」
「良くない〜。姉として弟が♂×♂なのか♂×♀なのかを知らなくては!」
「弟の性的嗜好を知って何が楽しいわけ?」
「弱味なら、なんでも」
悪魔か。
「『不破さん』って誰? あっ、もしかして好きな子? さっき、切なげに『不破さん……』って言いながらズボンの中に手を……」
「やってねぇよ! 捏造すんな!?」
「その子に♂はある!?」
「そういう下品なところのせいで振られたんでは?」
「……ち"か"う"も"ん"ーーーー!!! あ"い"つ"か"、あ"い"つ"か"ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふぅ」
まためんどくさく泣き喚く姉をそっと外に押し出して、扉を閉めた。
しばらく暴れる音がしたがやがて階段の方に降りていくのを聞き取ってベッドに仰向けになる。
まったく……。女は上書き保存と言うがあの姉に限っては当てはまらないらしい。高校の時の彼氏も進路の関係で別れたが、未練を断ち切るのに5ヶ月ほどかかった。
今回は何ヵ月かかるだろうか。
それに費やされる苦労を考えると今から思いやられる。
早くあのめんどくさい姉を嫁に貰ってくれるような懐の広い男性が現れてほしいものだ。ユーラシア大陸ぐらいあれば多分足りるが、それは無理ゲーかもしれない。
グッバイ姉の婚期。
「不破さんどうしてるかな……」
気になるのは主に宿題とか宿題とか宿題とか。
あの子、ちゃんと終わらせられるのだろうか。そもそも終わらせる気があるのだろうか。
不安だなぁ……。
いや、顔を見たいとか思ってなくもないけど……。それはついでであって……。
誰に言い訳してるんだろ、僕。