5話
「文化祭の実行委員を決めます」
あぁ、ついに来てしまったのかこの時期が……。
と言っても実のところ高校の文化祭は初めてなわけで、楽しみな気持ちはある。
しかし、それはあくまで受け手としてである。準備する側に自分からなりたいとは思わない。
「クジで決めます」
うわぁ、運ゲーや……。
この類いの賭けは負け続きなので止めていただきたい。
「えっと、不破さん!」
「(ちっ)」
うわ、小さく舌打ちしたよあの娘。
しかし、ざまぁ! 頑張ってくださ……
「次、末田くん!」
……い。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
しまった。油断した! いや、してもしなくても関係ないけども!
「ん?」
不破さんがこちらに向かって口を動かしている。
読めってことか。
えっと……、『ば』、『ー』、『か』。バーカ。
あの娘はぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ちくしょう! 読むんじゃなかった!
そんなこんなで放課後突入。
「末田くん、どんまい」
「おい、ルビがおかしい」
小憎たらしいなぁ!
無表情からも嘲りが伝わるってすごいな、おい。
「そういう不破さんもどんまいっ!☆」
できるだけウザくやってみた。
すると無言の腹パンを受けた。
「ぐふっ……」
理不尽だろ……。
気がすんだのか不破さんは澄ました顔で本を読み始めた。
「実行委員めんどくさいなぁ……」
「うん」
「やりたくないなぁ……」
「私もやりたくないので全て末田くんに押し付けようかと」
「いやです」
はぁ、憂鬱だなぁ。
実行委員って絶対遅くまで残らされるじゃん。
部活は不破さんの匙加減で長さが決まるからいいんだよ。暗くなる前に終わるし。
「はぁ……」
「末田くん、溜め息をつくと婚期が逃げるよ」
「『幸せ』! 別にいいよ。結婚願望ないし。そもそも初恋すらまだだし」
「よっ、新品」
「息をするように貶すのやめて?」
「末田くん、行ける歳になったらソープ通いしそう」
「し、しし、しないよ!? そ、そういうお店、興味? ななな、ないですし?」
「まぁ、私も人のことは言えないか。初恋はともかく」
え。
「不破さん、誰かに恋することとかあるの……?」
本にしか興味なさそうなのに……。
「ん? さすがの私でも初恋くらいはある。まぁ、まだその一度きりだけど」
「へぇ……」
言って思い出したのか不破さんは昔を懐かしんでいる顔をしていた。
だけど、僕はなんだか心中穏やかじゃなかった。
なんだろ、なんて言えばいいんだろ。
なんだか物凄く、ムカムカする?
そんな言い様のない不快感が腹の底に溜まっていた。