4話
そろそろ日も短くなってきた頃、それまで本に没入していた不破さんが口を開いた。
「末田くんって自殺したいと言うわりには首吊りしかレパートリーがないよね」
「ん? なんで批判されてるの?」
「死にたいと言うわりに本気で死のうとしないよね」
「んー、これは病気みたいなもんだからなぁ」
自分でもなんで死にたくなるのかいまいち分からない。
自分ではこれが思春期なんだろうと適当に納得している。
「リストカットは?」
「え、痛いのやだよ」
「睡眠薬」
「生き残った場合の後遺症が怖い」
「毒」
「苦しいのもいや」
「身投げ」
「落ちるまでが怖い」
「……贅沢な」
なんだこいつみたいな目で見られた。
答えただけなのに……。
「だってどうせ死ぬなら一瞬がいいじゃん。その点首吊りはすぐ落ちるから優秀だ」
「ふーん」
うわ、もう興味失せてる。
しかし、ふと何かを思い出したようにまた口を開いた。
「末田くん、そろそろ文芸部らしい活動をしようと思う」
「え、うん。不破さんがいいならするけど」
まぁ、二人だからやれることなんて高が知れてるけど。
不破さんがやるってんならやろうとも。
「18禁と全年齢、どっちがいい?」
ん? 何か不穏な単語が聞こえたような……。
「あの、18禁って?」
「末田くんの好きなようにしていい。主従だろうがアブノーマルだろうが」
「いやいや、おかしい。ちょっと待って。何故18禁が選択肢にあるの?」
そんなの生徒に売ったら先生から苦情がくるし、僕が社会的に殺される!
「コミケで売るため」
「ちっがーーーう! まずそこからおかしい!」
「どこが?」
何その、一体何が間違ってるんだっていう顔は。
間違いだらけだよ! 1から10まで!
「高校の文芸部はコミケに参加しない!」
「え」
うわぁ、初めて知った驚愕の事実って顔してるよ……。
いや、そもそも、
「いきなり文芸部らしい活動しようとか、どうしたの?」
「先生が、やれって」
先生の入れ知恵か……。
どうやらその先生は大学の文芸サークルがコミケに参加しているのを見て誤解したらしい。
いや、普通する?
「じゃあ、何をすれば……」
「不破さんは、文芸部の活動がしたいの?」
「………」
結局、するかしないかは不破さんに委ねているのだ。
「どちらかと言えば、死ぬほどめんどくさいからしたくない」
……それ、きっぱり言っちゃってるやん。
どちらかと言えばもくそもないやん。
「ので、文芸部の活動は今後一切発生しません。おしまい」
「はーい」
僕としてはこれまで頑張ってきた先輩方に申し訳ないという気持ちが湧いてこないことも…………いや、一切湧かないな。
読書してる不破さんを見てたらどうでもよくなってきた。
僕としては不破さんがよければそれでいいのだ。