3話
「暇だ」
「本読めば?」
「今はそういう気分じゃない」
「ここは文芸部です」
「名ばかりのね」
僕たちは文芸部に所属こそしているがそれらしい活動は全くしていない。
そもそも部員がこの二人しかいない部活で何をやれと言うんだ。
よって、僕たちが進級する頃には文芸部は廃部となり同好会に成り下がる。
本好きの不破さんのことだから何かやりたくて文芸部に入ったのかと思えば、
「楽そうだから」
だそう。自分が楽しむ分には好きだが他人に発信することには興味がないらしい。
まぁ、僕も楽そうだから入ったので批判する気はない。
「首でも吊ろうかな」
「やめて。迷惑」
悲しんではくれないのね……。
まぁ、別に? 悲しくないし?! ホントだよ?
「携帯の中のあれでも見ればいい。 おったて始めても上下しだしても気にしないからどうぞ。あ、さすがに液体はトイレで……」
「何言ってんの? 本当に何言ってんの!? しないから! さすがにそこまで変態じゃない! というかそれただの変質者だよ! 不破さんが気にしなくても僕が気にするわ!!」
見られながらじゃ羞恥心で勃つものも勃たなく……ってそうじゃねぇよ!
まず人の前で見るわけないだろ!
「末田くんの部屋臭そう。ナニでとは言わないけど」
「臭くないよ! ちゃんと換気してるから! いきなり貶すのやめてくれます?」
「………」
「あ、投げた」
飽きて本に逃げやがったぞ、この人。
「………」
「くっ……」
しかし邪魔しようにもあの表情を見せられたらやる気も失せる。
「あ」
「どしたの?」
「物理的には死なないけど、社会的に死ねるよ? 末田くん」
え、それはどういう……。
戸惑っていると不破さんは自分の携帯を操作してその画面を僕に見せた。
そこに写っていたのは、
「はぁ!?」
亀甲縛りされた男の顔を僕の顔に差し替えたコラ画像だった。
しかも無駄に完成度が高い。
「これをばら蒔けば死ねるよ? 社会的に」
「い、いや違うから! 僕はそんな死に方望んでない! 物理がいい!」
「そう……。力作なのに」
おい、なんで残念そうにしてるんだ。
さすがにそんな死に方は御免だ。
「お願いだからばら蒔かないでよ!? 本っ当に! 何でもするからばら蒔かないで!?」
「分かった」
ほっ、よかった。
「というかばら蒔くわけない。私がそんなことするように見える?」
「……見えない」
「そうだよ、するわけがない。なのに末田くんは私を疑った」
「ごめん……」
声は平坦なのに何故かそこに哀しさが感じられて本当に申し訳なくなる。
「私は傷ついた」
「本当にごめん……」
「だから今度の日曜日、隣町の古本屋についてきてもらう」
「………え」
ん?
「閉店セールで安い」
いや、ちょっ……。
「私は運がいい」
「ちょっと待って!? なんでそうなるの!? なんでそうなった!」
「なんでもすると言った」
……。
「なんでも」
「……はい。お供させていただきます」
ちくしょう! またか!
そして日曜日、隣町の古本屋に付き添うことになり、そこでまた不破さんは大量の古本を購入。
荷物持ちの僕はその全てを不破さん宅まで背負わされ、両腕が3日ほど使い物にならなくなった。