2話
「はぁ、涼しい」
図書室は中々にいい場所だ。
朝から、夏なら冷房、冬なら暖房をつけてくれている。
一限目まで図書室で涼むのが夏の僕のライフスタイルである。
勿論図書室なのだから本を読みながら待つ。
そのためにまず本を探す。
「末田くん、図書室に官能小説はないよ?」
「探してないよ!? ……不破さん?」
顔を向けてみればいつの間にか背後に不破さんが立っていた。
まるで気配がなかった……。
「末田くん、図書室に官能小説は……」
「だから探してないよ! 勝手に僕を変態扱いしないで?!」
「お屋形様」
「………」
「ご主人様」
「………」
ごめんなさい。認めます。僕、変態でした。
って朝からなんで辱しめられなきゃいけない!?
「そ、それはともかくとして、不破さんも涼みに?」
「借りに来た」
「不破さん、読むの早いよね。この前のもう読み終わったんだ」
「うん」
それだけ言うと不破さんは自分の本を探し始めた。
さて、僕も探そう。
あっ、これにしよう。
ペラ………。
ペラ………。
ページを捲る音だけが静かに響く。
不破さんはお眼鏡に叶うものを見つけたのかハードカバーの小説を読み耽っている。
不破さんは基本無表情(笑わないわけではない)だけど、本を読むときだけは感情が透けて見えるぐらい表情が豊かだ。
本人曰く、文字は自分の中にすっと入るから楽しいらしい。
僕の読書はというと全く進んでいない。
不破さんの表情に気をとられ過ぎている。
普段見れない表情だけに余計に気になってしまう。
ふと、顔を上げた不破さんと目があった。
「何?」
「あっ、えっと……。き、亀甲縛りって良いよね!」
おい、何を口走ってんだこの口はぁぁ!
「Sに合わせてMも発症するなんて救えないね。変態」
辛辣なお言葉を頂いてしまった……。
以降僕の存在は意識から抹消する方向に決めたのか不破さんは読書を続行した。
しかし、
「あ、不破さん、時間」
「………ちっ」
うわ、舌打ちしたよこの娘。
どんだけ読書したかったんだよ。
「末田くんが変態じゃなけりゃ、あと50字は読めたのに……」
「え、僕のせいですかい?」
「罰として末田くん。放課後、古本屋についてきてもらおうか」
えっ、それって、
「デートのお誘いかな?」
「男女が共に出かけることをデートとするならば、末田くんが去勢すればそれはデートではなくなるね」
「ごめんなさい。調子に乗りました」
「よろしい」
この日の放課後、僕は不破さんと共に古本屋へ行った。
そして40冊あまりの文庫本を背負わされ不破さんの家まで運ばされたのだった。
翌日、筋肉痛になった。