命の充電
ブー。
メッセージが届いた時の、独特の短い振動音を聞いた。
ゆっくり目を開けると、今度は美恵ではなく……白い服を着た若くて綺麗で……まるで天使のような女性が待っていてくれた。
ここが、天国なのだろう――。
その女性は、俺が思い描いていた憧れの女性の服装……看護婦さんのコスプレ衣装を着てくれている……。
「ああっ、気が付いた! すぐに先生を呼んできますね!」
「……?」
体が……痛い。痛くて動かない――。
首をなんとか起こし、体を見ると、……まるでミイラ男のように包帯でグルグル巻きにされているではないか――。
パタパタと廊下を走るスリッパの音と、サーっと部屋の前で横滑りしながら止まる音。
「うおっ奇跡だ! いや、ミラクルだ、まさか本当に気が付くなんて!」
「ええ! ええ!」
先生と看護師の女性。口元を押さえて驚いている。奇跡もミラクルも同じだろって言いたくなる。イテテ。
「すぐ家族に連絡をしてくれ!」
「アイアイサー!」
……大丈夫なのだろうか。この先生と看護師さん。
白い部屋の壁を見上げて、思い出していた。
俺はあの日……、美恵に突然フラれ、何度も連絡を取ったが通じなかったことに焦りと怒りを覚え、どうしていいのか分からないくらいに悩んだ。美恵の住んでいる実家は知らなかったし、俺とは違う大学に通っていたから、直接会いに行くこともできなかった……。
俺は――美恵と結婚まで考えていた。周りの友達にもそう言いふらしていた。美恵も笑って答えてくれていた。
なのに、急に一通のメッセージの後、連絡が一切途切れてしまったのだ。
――それが父親の暴挙によるものとも知らずに――。
あの日、俺を慰めてくれた友達と泥酔するまで飲んだ。胃から何度も苦い胃液を吐き出しても、それでもまた酒を飲んだ。
そして――早まった。
十三階建てアパートの屋上から身を投げたのだ――彼女に対する怨念を抱きながら……。
生きていて……本当によかった……。
痛む首を横に向けると、液晶に大きくヒビが入ったスマホに白色のケーブルが差し込まれ充電されていた。
白い充電ケーブルは、俺の腕に刺ささっている点滴の細い管のように見える。
看護師さんか、俺の家族か友達か……。見舞いに来てくれた誰かが充電してくれたのだろう。それでメッセージが……、美恵のスマホからのメッセージがやっと受信できたのか……。
ギブスでグルグルに巻かれた右腕で、なんとかそのスマホを手に取り、タッチしてロックを解除する。
……美恵に、なんて説明したらいいだろうか……。
怒っているだろうか、悲しんでいるだろうか……。ちゃんと気持ちが伝わるだろうか……。
スマホには、美恵と揃いのストラップが揺れていた。
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