暴挙
泣きながら話す美恵の話は……こうだった。
実家での夕食時、スマホにイヤホンを付けて動画を見ながら食事する娘の姿に、美恵の父親がブチ切れて激怒したらしい。それでもその後、彼氏……つまり俺とのメッセージのやり取りをしていたところを見つかり、寝ている間に認証ロックを勝手に解除され、暴挙が始まった――。
「美恵……お前なんかにスマホを渡すんじゃなかった。スマホなんてまだ早すぎる。大学時代に男と付き合うのだって同じだ」
まずは付き合っていた俺に矛先が向けられ……本人になりすましてお別れメッセージを送りつけ……。その後、スマホのデーターを全て消し去った。
――初期化したのだ! そしてスマホ自体を家の押入れの奥へと隠してしまった。
その暴挙を許せず、美恵は家を飛び出し……高校からの親友だった沙里が、しばらくの間、部屋に泊めてくれた。何も聞かずに……。
一ヶ月が経ち、ようやく父親が謝罪してスマホを娘に返したが、時すでに遅しだ――。
「メッセージ送っても、電話を掛けてもつながらないの――。もう、私のことを許してくれないの――」
「ひどーい!」
……違うよ……。取りたくても取れないのさ……。
俺は美恵にフラれたショックで、飛び降り自殺をはかったからだ。数週間も前に――。
……馬鹿なことをしたものだ。今更後悔しても遅い。全ては遅すぎた。
……だから俺は、元カノのスマホになったのか……。
転生じゃないな。……持ち物に魂が宿る……憑依だな……。じゃあ……いつかは俺も成仏しなくてはいけないのだろう。なんか……バカバカしくなってきた。
――たかがスマホなんかに――俺の人生を奪われただなんて――
誰もいないアパートの部屋に帰ると、ベッドに突っ伏すように倒れ込む美恵。
ブーっと短い音を立て、メッセージを送る。送り先のところには、俺が使っていたスマホのアドレスを表示する。
『美恵。泣かないでくれ』
他のメッセージとはひと際違った音が鳴った。
「――え……。公裕なの」
慌てて俺を両手で抱き寄せてくれて、親指でグリグリと押さえる。
この感触……美恵の指先に触れるのも、これで最後なんだな……。
『美恵にフラれたと勘違いし、俺は……今は少し遠いところにいる。まあ、遠いところだけど、本当は一番近いところかもしれない……』
「ちょっと何言ってるんだか分かんない」
必死に文字を打つが、それを待つ必要はない。送信しなくても書き込んだ内容は俺には分かるし、気持ちも分かる。
まるで一緒にいるかのように、表情も、手のぬくもりも、伝わってくるよ……。
『ごめんな。美恵の気持ちに気付かないまま勝手なことをしてしまって……』
「勝手なことって、なによ、私、あれから公裕のこと、なにもしらない!」
指が震えて、文字が変なことになっているぞ。
『俺も愛しているよ……。ずっと好きだった。
これからは、あまりスマホばかりに夢中になるなよ――。じゃあ、そろそろ逝くよ。さよなら美恵』
――!
「待って! 公裕、待ってったら!」
画面にたくさんの文字を打ち、何度も何度も送信をタッチする――。
体がふわっと温かくなり、今まで鮮明に見えていた美恵と、部屋の光景が薄れていく――。
『――幸せに……なってくれ』
――俺の分も。
最後に美恵が「送信」にタッチしたのと同時に俺は、……大好きだった美恵の……大切なスマホから離れた――。




