スマホストーカー
あの男は性懲りもなく数回メッセージを送ってきたが、それを勝手に修正して表示する。
『昨日ハクソ……』
「――はくそ?」
『またガ、アア痛いなあ』
……プーップップップ。
『朝っぱらからバカなメッセージ送りつけるんじゃねーよ』
勝手に返信してやった。
「――ええ! ちょっとやだあ!」
困惑する元カノ。
『……ボめん』
ボめんだって~!
無駄なメッセージは受信すらしない。削除だ削除。しかし……訳の分からない悪戯メールなんて、受信拒否設定ぐらいしておけよ……。
カメラから……俺を覗き込む表情が見え、マイクからは声や音が聞こえる。着信や発信、文字入力や設定の変更、スマホで出来ることが今の俺には思いのままだ。カード情報も入力してくれたら……好き勝手に決済できそうだ。
俺……スマホだから。
スーッと俺宛てに飛ばされてきた電波を受信して画面に表示する。スマホに搭載されたAI機能になった気分だぜ。体を動かすことはできないが、ブルブル震えるくらいならできるぜ。少しの距離ならそれで動くことも……って、無理か。
元カノはいつも俺をお尻のポケットや鞄に入れ、肌身離さず持ち歩く~。
――俺が転生して乗り移っているとも知らずに……。
トイレにも持ち込んでいるが、ハッキリ言ってバカだ。
顔や口元に近づけるスマホを雑菌だらけのトイレへ持ち込んで触るなんて……ありえない。付き合っている時に俺のアパートで何度か注意したのに――ぜんぜん聞いてない。
どうせ誰か芸能人のサイトやくだらない動画を見ているだけだろうが、
――トイレしている姿がカメラから丸見えだぜ?
もしスマホがスマホウイルスに感染していたら、そんな淫らな姿が一瞬でネット上にさらされる危険性を考えたこともないのだろう。
今の俺にはそれができてしまう。こっそり動画に保存しておいて、【拡散希望】でネット上へ配信――。スカッとするだろうなあ~。
だが、今はまだしない。バレないように……ストーカーのように……元カノに付きまとってやるんだ――。
俺の巧みな情報操作で、あの男は寄り付かなくなった。連絡もしてこなくなった。ざまあ見ろだ。
――俺がフラれてコイツだけが幸せになるなんて、許せないに決まっているだろーが――。
それにしても……四六時中、元カノと一緒にいると、あらためて隙の多さに呆れてしまう……。アパートで一人暮らしを始めたみたいだが、男からの警戒心ってやつがなさ過ぎる。
普段からぼーっとしている時間が長いし、大学の女友達と酒を飲んだ時も、たった一杯で酔払いやがって、フラフラと夜道を一人で歩いて帰る。
部屋に帰りつき扉の鍵を掛け忘れていた時は、……それとなく俺が知らせてやった。
『〇〇宅配便です。こんばんは、宅急便を配達に来ました』
偽宅配到着メッセージだ。
「え~? そんなことまでメッセージで届くの?」
……届くわけないだろ。さっさと玄関へ行けよ。
扉から外の様子を確認するが、誰もいない。当然だ。
「なによ、……悪戯メッセージ?」
それでやっと鍵を掛けてないのに気付いた……。カチャ。ガコ。
……やれやれだぜ。
次の日、元カノが通う大学で昼食中、友達に相談していた。
俺も一度だけ会ったことがある元カノの親友だ。学食のテーブルに俺を置くものだから、広角レンズで顔が見える。
「最近、私のスマホ調子悪いのよ」
「どうしたの」
「勝手にメッセージが送信されたり、逆に変なメッセージが届いたり。……怖い」
「うわっ、それってやばいやつじゃん。スマホウイルスだよきっと」
残念。元彼です。元彼がここに入っています。ウイルスよりもやばい奴です。
「変えたら? スマホ」
……おいおい、ちょっと待てよ。冷や汗が出るじゃないか。……出ないけど。……スマホだから。
「うーん、でも今、そんな余裕ないし……」
バイト生活だからな。そうそう機種変更なんてやってられないハズだ。ホッと胸を撫で下ろす。
「それにこのスマホ……、
前の彼との思い出が一杯詰まっているし……」
――え……。
俺を両手で掴み、俺の画面にポタリポタリと大粒の涙が降ってくる――。
「……美恵」
「だって、だってさあ! 大好きだったんだもん。公裕のこと――!」
わあっと泣き出して、壊れるかと思うぐらい俺を強く強く抱きしめる。
――う、嘘だろ。
……そんな馬鹿なことあるか。
俺は……、俺はフラれたんだぜ? たった一言のメッセージで! それからは着信拒否で音信不通だったんだぞ!
泣くほど好きなのに、俺はフラれたのか?
――ふった男のことを、今さら美化しているのかよ!
「だったら別れなきゃよかったのに。あんなに仲良かったのに、どうしたのよ……」
ああ、沙里ちゃん。そこ大事なところだ!
――もっと聞き出してくれ!




