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2-4 この世で一番強いやつ!

〈投稿サイトの動画を観ました。いつも参考にしています。まだ脱初心者を目指している者ですが、よろしければフレンド登録をお願いできませんか?〉


 俺はスマートフォンを差し出す。


「ルナ宛てのメールの文面はこんな感じでどうかな?」


 ところがカリンの顔色が曇った。


「う~ん、イマイチかもしれない。ルナちゃんのプレイ動画を観る限り、ゲームパッドを握っているあいだはずっとハイテンションなのよ。だから、もっと楽しそうな文面にした方がいいのじゃないかしら? キョーヘイくんの文面だとちょっと堅いというか、落ち着きがありすぎるというか」

「そんなにダメか?」

「あんまり定型文じみていると逆に警戒されるかも。大人みたいだし。ちょっと貸してもらってもいい?」


 カリンがぽちぽちと作文する。


「これでどうかしら」

「どれどれ……」


 俺はぎょっと目を開いた。


〈さっきの動画、超感激しました☆☆☆彡 鳥肌ものデス! よかったら真剣優さんとお友達になりたいな~、なんちゃって!>< 迷惑ですかね(*^-^*) あ、さっきの動画というのはヨトゥン討伐のやつです!^o^/ お返事お待ちしておりまする~♪〉


「うわ、どぎつい!」


 俺なら適当にあしらいそうなメールだ。

 面倒くさそうな雰囲気、いや危険なオーラがぷんぷんしている。


「誰だよ、これ! なんかお花畑みたいな顔文字ついているし! いくら女の子を装うといってもやりすぎじゃないかい?」

「わかってないわね、キョーヘイくん。このくらい弾けた方がいいのよ。相手はあのルナちゃんなのよ。一日に一本くらいのペースで動画をアップしている配信者なのよ。このくらい刺激的じゃないとスルーされる恐れがある」

「しっかしなあ……弾け過ぎだろう」

「まあ、反応を見てみましょう。世の中はトライアンドエラー。失敗の積み重ねの上にいまの現実世界がある」

「おい! こら! 勝手に送るな!」


 カリンの指が〈送信する〉のボタンを押してしまった。


「なんてこった! 毒まんじゅうみたいなメールなのに……」


 ルナにユーザーブロックをされてしまったら今までの苦労が台無しだ。

 あの可愛い《エルフちゃん!》がお役御免になる事態だけは何としても避けたい。


「あとは返信を待ちましょう。きっと色よい返事がくるから」

「くぅ……ここはカリンちゃんのいうことを全力で信じるよ」

「ルナちゃんがFKCをプレイ中であればすぐにメールに気づくのじゃないかしら」

「あ~、返信がくるまでドキドキしてきた~」

「ほら、もう返信がきた」

「えっ! マジで! 早くない!」


 十五秒しか経過していないことが逆に俺の不安をあおる。

 問題となる中身は、


〈おめえ、面白いな!〉


 という良いとも悪いとも受け取れないものであった。


「なんだ、こりゃ。拒否されたわけではないということか?」

「当然よ。もうちょっと待ってみましょう」


 次のメールは五分後に飛んできた。


〈悪い、悪い! 取り込み中だったからフレンド申請送るの遅れたわ!〉


 俺はフレンド一覧の画面を開いた。

 受信ボックスのところに新着を示す《!》のマークがついている。

 送り主はもちろん《堕剣士・真剣優》であり、俺は思わずガッツポーズを決めた。


「やったじゃない、キョーヘイくん。ルナちゃんの方からフレンド申請を送ってくれたようね」

「よし! これを取り込めばいいのか。ぽちっとな」


 一覧のリストに、


《レベル180》

《堕剣士・真剣優》

《エロフ商会》


 が追加された。


「これでやっとルナとつながれた!」

「わたしの作文のお陰ね」

「それは否定できない。いや~、カリンちゃんがいてくれて本当に助かったよ。俺ひとりだと絶対に無理だった」

「このままルナちゃんにアポを取ってみるのはどうかしら?」

「アポ?」

「レベリングに付き合ってもらうのよ。三十分とか一時間とかパーティーを組んでもらって経験値を稼ぐの。《エルフちゃん!》も強くなることだし、キョーヘイくんとしては悪い話じゃないでしょう」

「そうだな。よし、やってみるか」


 俺は恐る恐るメッセージを送った。


〈どこかでレベリングに付き合ってもらえませんか? お勧めのダンジョンがあれば教えてほしいです!><〉


 わずか三十秒後に返事がくる。


〈いいよ~。《エルフちゃん!》のレベルなら《ジョボ平原》あたりかな~。ていうか《エルフちゃん!》て面白い名前だな! 可愛らしいし覚えやすいし、なんか悪くねえな~。はっはっは!〉


 あのルナから可愛らしいといわれ、俺は思わず赤面しそうになる。


〈待ち合わせはいつにしよっか? 日によっては朝方に寝ているけれど、夕方とか深夜は大体オンラインしているから! いつでも都合のいいときで構わんぜ!〉

〈じゃあ、今度の土曜日とかどうですか? 十三時くらいから〉

〈おう! 十三時ね! 一時間くらいは予定を空けておくよ~! 《エルフちゃん!》もFKCを頑張ってね~!〉

〈ありがとうございます! 当日はゲーム内で待っていま~す!〉


 俺は一抹(いちまつ)の後ろめたさを感じながらFKCの画面を閉じる。


「やっちまったぜ……」


 味わったことがない興奮のせいで思わず口元がニヤニヤしてしまう。


「ねえ、キョーヘイくん。《KoF》でルナちゃんが勝ち進んだとして、誰が最大のライバルになるのか興味はない?」

「つまりルナの対抗馬か。確かに気になるな」

「ルナちゃんがどのくらいの位置にいるのか調べてみたのよ。すると《闇神(やみがみ)》というプレイヤー名がやたら登場してきたの。プレイしているワールドは《メテオワーム》。そしてギルド名は《ダークナイツ》。誰もが認めるFKC最強プレイヤーのひとりらしい」

「なんか強そうなプレイヤー名だな、《闇神》というのは」

「その人はルナちゃんみたいに動画配信をしていないのだけれど、FKCに特化したブログを開設しているみたい。そして最新の記事がこれ」


 カリンに見せてもらったのは《黒の騎士団のチラシ裏》というアットホームな雰囲気のブログであった。


「この《闇神》という人は昔からMMORPGの有名プレイヤーだったみたい。いま一番力を入れているタイトルがFKCなのよ。だから根強いファンも多いと思う。ゲーム雑誌の攻略記事を書くことがあるくらいだから、かなりの実力の持ち主と思った方がいい」

「そんな人とルナは勝負しないといけないのか?」

「そして《闇神》による考察がこれ。前回の《KoF》で優勝しているから、今回は連覇を狙っているそうよ」


 カリンのスマートフォンに、


〈勝つのは誰だ! 《KoF》は大混戦? どの有力ギルドも苦戦は必至!〉


 という記事の本文が表示される。


        ※        ※


 みなさん、こんにちは。

《ダークナイツ》のギルドマスターをやっている《闇神》です。

 およそ三日ぶりの更新でしょうか。


 さて、もうすぐ《KoF》の予選が始まりますね。

 というわけで大会の展望について勝手に予想してみようと思います。


 まず優勝の本命について。

 ずばり《ダークナイツ》です!

 あ、ごめんなさい!

 石を投げないでください!

 お願いですから嫌いにならないで!


 いや、本当にすみません!

 ですが前回の《KoF》で優勝している《ダークナイツ》がやはり本命でしょう。

 主力メンバーも残っていますしモチベーションだって健在です。

 これで無残にも敗退しようものなら《闇神》の無能論が浮上してもおかしくないです!

 ユー・アー・ファイヤー!(お前はクビだ!)

 ね、ね、だから《ダークナイツ》が一番優勝しそうな気がしませんか?

 あれ? 違います?


 ……。

 …………。

 さあ、次だ! 次だ!


 そんな《ダークナイツ》の《闇神》が恐れている対抗ギルドは三つ存在します。

 いずれも皆さんがご存じの有名ギルドばかりです。


 ずばり《殺戮(さつりく)()(とう)(かい)》、《麻雀(マージャン)クラブ》、《エロフ商会》です。


 まずは《殺戮舞踏会》から。

 一言でいうとハンパない廃人プレイヤーが複数名在籍しており脅威です!

 粒ぞろいという意味なら《ダークナイツ》以上でしょう。

 もし穴があるとすれば個人プレーに頼るあまりチームプレーがちょっと弱いところですかね?

 そこは()()集団の宿命といえます。

 とにかく一番怖いギルドです!

 個人的には戦いたくないです!

 でも《KoF》で優勝したい!

 なのに戦いたくない!笑


 次は《麻雀クラブ》について。

 ここのメンバーにリアルの知り合いがいるのですが、サラリーマンで構成されているギルドのようです。

 なので資金力(課金額!)という意味では一番リッチなギルドです!

 特に突出したプレイヤーはいませんが層が厚い印象を受けます。

 サラリーマン同士という団結力もあるでしょう。

 弱点があるとすればリアル状態異常の二日酔い、過労、休日出勤でしょうか?

 知り合いがいるという意味で戦いたいギルドですね。

 負けませんよ、○○さん!


 最後に《エロフ商会》です。

 ここは《ギルドマスター》の《堕剣士・真剣優》さんが有名ですよね。

 僕はいつも動画を観ていますよ。

《いいね》ボタンを押している一人は僕です!笑

 あのコミカルな語り口が病みつきでして……。

 きっと仲がいいギルドなのでしょうね。

 メンバー同士の連携がものすごく上手いイメージです。

 そこら辺は《堕剣士・真剣優》さんの人望も関係しているのでしょう。

《麻雀クラブ》とは違った意味で対戦してみたいギルドです。


 いかがでしたか?

 どのギルドと《ダークナイツ》が対戦することになっても熱戦は必至です。

 本戦まで残り一か月を切りました!

 最後の追い込みとして徹底的に装備を強化しています!

 ぜひみなさんも《KoF》をご観戦ください!

 そして《ダークナイツ》を応援していただけると幸いです!


 ではまた次の記事でお会いしましょう。


(!ここから追記!)


 みなさんは技の《優先順位》をご存じでしょうか?

 FKCの対人戦において駆け引きのキモとなる要素なのです。

 プレイヤーはもちろん、《KoF》の観戦者にも意識してもらいたいキーワードです!

 いつかブログで解説しようと思いますが……時間があるかな……。


《堕剣士・真剣優》さんあたりが動画のネタとして採用してくれるかも!(願望)

《闇神》なんかより明るくて楽しい解説をしてくれるはずです!(確信)


        ※        ※


 およそ千文字の記事はそこで終わっている。


「どんな怖い人かと思ったら、意外と優しそうな人だな。すごく低姿勢だし」

「有名プレイヤーだからね。ユーザーのヘイトを溜めないように気をつかっているのでしょう」

「しかし、《ダークナイツ》を含めると有力ギルドが四つというわけか。意外とルナは上位にいるんだな。これなら《KoF》の優勝に手が届くかもしれない」

「そうね。きっとルナちゃんを応援している人も多いと思う」

「ルナには優勝してほしい。しかし、この《闇神》という人もすごく強そうだ。他に名前があがっていたギルドも」

「知れば知るほどルナちゃんのことを応援したくなっちゃう」

「ああ、カリンちゃんの気持ちはわかる。俺だってそうだ」


 ルナには学校に通ってもらうのか?

 あるいはFKCに集中できる環境を用意するのか?


「ルナ自身に決めてもらおうと思う。学校を病欠したければ病欠すればいいさ。少なくとも《KoF》の大会が終わるまでの一か月、俺はルナの味方をするよ」

「そうね。賛同するわたしも褒められた人間じゃないけれど」

「カリンちゃん、この後はどうする?」

「今日も新田家にお邪魔していいかしら?」

「きっとルナが喜ぶよ。帰ったら夕食をつくるから一緒に食べていきなよ。動画の存在を教えてくれたお礼をしないといけないし」

「今日は餃子が食べたい気分」

「餃子ね。りょ~かい、お客さま」


 俺とカリンはほとんど人がいなくなった校舎をあとにする。

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