5-1 闇神さんを食っちゃえ!
俺がその動画の存在に気づいたのは、《KoF》の一回戦と二回戦が終わり、しばらくのインターバルに入ったときだった。
かつて《闇神》が運営ブログ《黒の騎士団のチラシ裏》で予想したように、
《ダークナイツ》 ワールド《メテオワーム》
《殺戮舞踏会》 ワールド《オメガ》
《麻雀クラブ》 ワールド《ティターン》
《エロフ商会》 ワールド《ネビリム》
の四ギルドがここまで勝ち上がってきている。
波乱らしい波乱はなし。
順当といえば順当。
王者とそれを追いかける三ギルドが力の差を見せつけたような内容である。
対戦動画は専用サイトに続々とアップロードされており、再生数のカウンターがものすごい勢いでカウントアップしている。
やはり一番人気は最強ギルド《ダークナイツ》だ。
しかし対抗ギルド《殺戮舞踏会》の方も負けないくらいの勢いで再生数が伸びており、もしかしたらトップに躍り出るかもしれない。
「さすがにルナは強いな。今日は特に動きが冴えている」
俺がチェックしているのは《ダークナイツ》と《エロフ商会》の二ギルドである。
本当はすべて観戦したいのだが、いかんせん時間がそれを許さない。
「というか、《闇神》さん、メチャクチャ上手いじゃねえか。誰だよ、軍師タイプとかいったやつ。相手の攻撃がほとんど《闇神》さんに当たってねえし。逆に《闇神》さんの攻撃はゴリゴリ命中しているし。あの人だけですごい撃墜数を稼いでいるぞ。むしろ豪傑タイプじゃねえか……」
《闇神》の愛用キャラクターは金髪の女エルフである。
職業は《アマゾネス》。
メインウェポンの弓とサブウェポンの短剣で戦う、ロングレンジでもショートレンジでもこなせる戦闘スタイルだ。
まさに敏腕ハンター、密林の美しきアマゾネスといったところか。
その代わり魔法は使えないので《エルフちゃん!》とはまったくの別物である。
《闇神》と交戦したプレイヤーは手も足も出ずに狩られていく印象だ。
「エルフでも技の威力が高いんだな。やっぱり職業が違うと別キャラみたいだ。というか攻撃力が高すぎじゃねえか。うわ、えげつねえ」
《闇神》が決め技として使っているのは《弓技シルフィードアロー》。
風のオーラをまとった弓矢が五方向に放たれて、押し寄せてきたプレイヤーを一網打尽にしている。
至近距離からもらうと五段ヒットする仕様のようであり、これが鬼畜なくらいの火力を叩きだすのだ。
もちろん《闇神》のプレイヤースキルがあるからこそ使いこなせる技だろう。
他を寄せつけない、という意味ではルナの《堕剣士・真剣優》も同様だ。
こちらはバリバリの接近戦タイプ。
相手が二人だろうが三人だろうが突っ込んでいき、プレイヤースキルの差でねじ伏せている。
メインにしている技は《大剣技グランドクロス》。
これは一瞬にして二連撃を叩きこむリーチとスピードに優れている技だ。
サブエンジンとして《大剣技セイクリッド》だろうか。
七回の斬撃エフェクトが飛び出すシーンはいつ見ても爽快感がある。
相変わらず《優先順位》の理解はあやしい。
しかし技と技がぶつかったときに《堕剣士・真剣優》の方だけ無傷なので、ジャンケンに連勝しているということだろう。
ルナほどでないにしても接近戦を得意とするプレイヤーが《エロフ商会》には数名いる。
だから相手ギルドも《堕剣士・真剣優》だけに集中することができない。
ルナを潰そうとすると周りが、周りを潰そうとするとルナが、二刀流のように攻めていく。
ド素人の頭では《エロフ商会》の攻略法を生み出せそうにない。
「観ているだけでも疲れるな~。中の人たちはすごい集中力だ。これを一日で最大四戦もやるなんて、並みの人間だったらプレイに必ず粗が出る。誰かに観られている、というのがプラスに作用する人たちばっかりなんだろうな」
俺はレモンティーをちびちび飲みながら動画投稿サイトへとアクセスした。
FKCの新着動画を探していると、
〈《謝罪報告》一部メンバーの規約違反と本大会における参加資格について《殺戮舞踏会》〉
というタイトルが目に飛び込んでくる。
浮かんだのはパンドラの箱という言葉だ。
開けたら良くないものが飛び出してくるような気がする。
そんな不安を抱きつつ、指がマウスをクリックしそうになる。
「ちょっと、待った。レモンティーをおかわりしてくるか。まだ準決勝まで時間があるし」
一度席を外した俺は、深呼吸してから三分ぽっちの動画を再生した。
アカウント凍結の話がFKCのニュースリリース一覧にあったはずだ。
ワールドは《オメガ》。
プレイヤー名は《セヴェルス》。
そしてギルド《殺戮舞踏会》が所属しているのもワールド《オメガ》。
このふたつはリンクしている、と考えるのが自然だろう。
「推理、と呼ぶにはお粗末すぎるか……」
動画の再生が始まり、酒場のような空間が映し出された。
右上には《殺戮舞踏会のギルド本部》という文字があり、たくさんの《レベル180》が詰めている。
中央に立っているキャラクターに俺は既視感があった。
狼のようなシルバーの短髪に、猛禽類のようなゴールドの瞳をしている、超絶イケメンのダークエルフである。
黒い肌はロッククライマーのように引き締まっており、戦うことに特化したような体つきだ。
《レベル180》
《神食いにゃん子》
その表記に気づいたとき「あっ」と声を上げてしまった。
そりゃ偶然の名前被りはあるだろう。
しかしユニークすぎるプレイヤー名がその可能性を吹き飛ばす。
「もしも~し、マイクテスト、マイクテスト、あ、あ、あ、あえいうえおあお~。大変失礼いたしました。ギルド《殺戮舞踏会》の《神食いにゃん子》です。FKC運営サイドの許可が下りたため、このような動画をアップロードいたしました。短い時間ではありますがお付き合いください」
これは驚くどころの騒ぎじゃない。
ヘッドホンの奥から聞こえてくるのは明らかに女声だ。
「すでにご存じの方も多いとは思いますが、当ギルドの《ギルドマスター》であった《セヴェルス》が規約違反によりアカウント凍結される事態が発生しました。具体的には他ギルド、他プレイヤーに対するFKC内外での誹謗中傷行為です。この度は関係者のみなさまに多大なるご迷惑をおかけする形となり申し訳ございません。ギルド《殺戮舞踏会》を代表して謝罪いたします」
俺はこの声に覚えがある。
「特に執拗な被害に遭われた《ダークナイツ》の《闇神》さま、《麻雀クラブ》の《大三元》さま、《エロフ商会》の《堕剣士・真剣優》さまには深くお詫びのほど申し上げます。その他にも多くの方々が不快な思いをされたことと存じます。誠に申し訳ありませんでした」
三秒くらいの沈黙が入る。
「本来であればギルド《殺戮舞踏会》は《KoF》へ参加すべきではありません。《セヴェルス》個人がやったこととはいえ、《ギルドマスター》という立場にいたのですから、ギルドを解体するのが筋だとは考えています。ですが《セヴェルス》以外のプレイヤーに非がないのも事実です。そして全員が《KoF》の優勝を目指してコツコツと頑張ってきました。今日という日を心待ちにしていました」
この動画をルナも観たのだろうか。
「大会を辞退すべきか、否か、FKC運営サイドと相談いたしました。その結果、《セヴェルス》を除くメンバーで《KoF》を戦ってほしい、という温かいお言葉をいただきました。本音をいうとわたしも《KoF》をずっと楽しみにしてきました。FKCというタイトルが大好きです。いまのメンバーで最後まで戦いたいです。こんなところでギルド《殺戮舞踏会》を終わりにしたくはありません」
どうして君なんだよ、と俺は突っ込む。
「つきましては《KoF》に継続参戦すべく《サブギルドマスター》であるわたしが《ギルドマスター》へ昇格するという措置を取らせていただきました。ゆえに《神食いにゃん子》が本日より《殺戮舞踏会》の代表という形となります」
俺がメチャクチャ恥ずかしいじゃねえか、と。
「これは《殺戮舞踏会》のメンバーへ向けたメッセージとなります。どうか力を貸してください。新米の《ギルドマスター》を支えてください。《神食いにゃん子》のことを信じてください。逆境だからこそ一致団結してください。そして一緒に栄冠をつかみましょう! わたしたちの力をすべてのFKCファンに披露しましょう!」
だって《殺戮舞踏会》がこれから戦うのは……。
「こほっ……こほっ……すみません、興奮して話すあまり咳き込んじゃいました。駆け足とはなりましたが、謝罪報告と本大会の参加資格についての説明を終わらせていただきます。動画を視聴していただきありがとうございました。引き続き《KoF》をお楽しみください」
ぷつ。
断線するような音がして動画は終わる。
「できるじゃん……三分のスピーチ。このくらい話せるんだったら、絶対に生徒会長になれただろ……なあ……やっぱりあの所信表明はおふざけかよ……」
動画に寄せられているコメントの大半はポジティブなものだ。
当然だ。
こんな優等生のようなスピーチを聞かされたのだから。
最後に咳き込んだのだって「恣意的な演出かよ!」と突っ込みたくなるような親近感があった。
〈にゃん子さんは悪くない!〉
〈頑張れ! 《殺戮舞踏会》!〉
〈《オメガ》民じゃないけれど、俺はにゃん子を応援するわ!〉
〈にゃん子さま、やっぱり女性だった!〉
〈にゃん子! にゃん子! にゃん子!〉
〈《KoF》で優勝してくれ!〉
〈《闇神》さんを食っちゃえ!〉
〈にゃん子さまに食べられたい!笑〉
いよいよ《KoF》の準決勝が幕を開ける。
《殺戮舞踏会》 vs 《エロフ商会》




