きっとひとりでもいきていけると
ユーフォリアは夜中に目を覚ました。
呼吸が荒い。頭がくらくらする。寒気が止まらない。
これもすべて、夢のせいだ。
生まれ故郷を――親を、兄を、全てを亡くしたときのことを、見た。
あれから毎日だ。毎夜毎夜、夢はユーフォリアを苦しめる。
震える身体を抱きしめ、必死に呼吸を整えようと深呼吸をする。
ここは寂れた村の、安宿の一室だ。彼女が住んでいた、豪華絢爛な洋室ではない。
もう、あの頃のことは忘れたはずなのに。否――
忘れようと、していたのに。
(大丈夫……落ち着いて。わたしはもう、失くすものはない)
この生命以外、何も。
きっとひとりでも生きていけると思っていた。
それがなんだ。このザマは。
結局は過去に捕らわれ、逃れられないではないか。
(いいんだ、それで……)
過去は忘れない。
忘れず、抱えて、そのまま還す。
そう――復讐だ。
忘れてはならない。この痛みを。悲しみを。
「ふぅ……」
枕元のグラスの水を一口呑むと、窓辺に寄りかかる。
カーテンすら引かれていない窓から外を見る。
月が美しく輝いていた。
「どんな時も、月は穏やかにそこにいるのだな」
昔は大陽の光が好きだった。
煌々と照らしてくれる明るい光は陽気で、幸せの象徴だった。
だけど今は嫌いだ。
炎を思い返す、あの強い光が苦手だ。
それに比べて、月は穏やかに、いつもそこに静かにいる。
満ちたり、欠けたり、様々な姿を見せてくれる。
「…………」
静かに、月を眺める。
心に到来するものは、いつも複雑で、でも単純だ。
「みんな――待っていて」
誓いを新たにすると、ユーフォリアは静かに呟いた。