真理の探究
朝食が終わり、今日これからどうするかを俺は悩んでいた。
ハイ・プリーストとしてニアの冒険につきそうか、衣装を作ってコスレベルを上げておくか。
ニアが食器洗いを済ませたら相談しよう。
そう思った時だった。なにやら思い詰めた顔でアイシャさんが俺に声をかけてきた。
「統也君、出かける前にこの世界について話をしておくね」
「なんでしょうか?」
「世界には色々な種族の人間がいるわ。エルフ、ドワーフ、獣人、龍人、まだ見ぬ種族もいるかもしれない。でも、どの種族も大きく分ければ二種類しかいない」
ダンジョンからまっすぐ帰ったから気がつかなかったけど、そんなに色々な種類の人がいるのか。すごいな異世界。
でも、二種類ってどういうことだ?
「ふふ、こんなにもたくさんの人がいるのに、世界には男と女の二種類しかいないの」
「ふむふむ」
「それについて、私はいつもとあることを考えているの。でも、答えはまだ探しているわ」
「どういうことですか?」
「これだけ多くの種族がいて、違う種族でも愛を育む人達がいるわ。つまりはみんな同じ人、ちょっと外見が違っているくらいじゃ、気にしない世界なのよ」
へぇ、すごいな。何かと種族間で諍いがあったり、ハーフが嫌われたりする物語が多いのに、ここでは意外と仲良くやっているのか。
「つまり、私の求める答えとは、男が女にひかれる要素は何か? 種族を超えた愛とは何か? ということね」
「なるほど」
「統也君、男の子はどんな女の子が好きなのかな?」
「えっと……優しさ?」
「えぇ、それはとっても魅力的ね。お料理が出来たり、世話好きだったりもポイントが高いわ」
そう言いながらアイシャさんは肩をすくめた。どうやら、あまりお気に召す回答じゃ無かったようだ。
「質問を変えるわ。女の子の身体のどこが好き?」
「ぶっ!?」
今度はあまりに直球な質問に思わず噴き出した。
しかも、今朝方アイシャさんの素っ裸を見てしまった訳で、最初に目に飛び込んだ胸を思い出してしまう。
「……胸ですかね?」
「ふっ……。青いわね。それじゃあ、童貞だってばれちゃうわよ?」
「なっ!?」
今度はフッと笑われて首を横に振られた。
そして、俺のリアクションに満足したのか、アイシャさんは自信満々にこう告げる。
「脚よ」
「脚ですか……?」
「えぇ、今私が求める答えはきっと脚にある。それも生脚よ」
「話を……聞きましょう」
「本物に飾りはいらないわ。美しい脚というのはそれだけで何物をも超える美しさがある」
そう言ってアイシャさんは、洗い物をしているニアの方へ視線を向ける。
長いスカートの裾からチラリとニアの白い肌がのぞく。
確かに、あの脚に飾り気はいらない。あの白い脚が全部露わになっていたら、間違い無く目を奪われるだろう。
思わずゴクリとつばを飲んだ。
「飾らない姿、男の子としてどうかしら?」
「それが嫌いな男の子はいませんね」
なんてこった……。俺は印象深かった物だけを見て、大事なことを見落としたというのか……。
いや、違う。俺は知っていたんだ。アイシャさんのはいていたスカートのスリットから太ももを見てしまった時から、答えは既に俺の中にあった!
これが……若さ故の過ちだというのか!?
俺は今朝方仕上げた服を手に取り、わなわなと震えた。
「良いんですね?」
店の主であるアイシャさんに確認を取ると、アイシャさんはとても素敵な笑顔で頷いた。
「真理の探究を始めましょう」
そうして、俺たちは固い握手を交わした。
一時間後、店の中にニアの叫び声が響き渡った。
「は、恥ずかしいってば!? 何でこんなに布地が少ないの!?」
「大丈夫だ! 恥ずかしくない! すげー似合ってるから!」
「そうよニア! 何処に出しても恥ずかしくないわ!」
ニアに着替えさせないよう、俺とアイシャさんは必死に彼女を止める。
ギリギリまで布地を切り詰めたズボンは、お尻が少しはみ出るくらのショートパンツへと変貌した。
まるで日の出の時間に半分顔を出した太陽が、山の稜線を照らしているかのような美しさだ。
まさに飾らない美しさ、自然の絶景だ。
ちなみに、上着のコートもショートパンツと合わせてノースリーブにして、裾も短くした。
手足を完全に出し切って、健康美を堪能できる、だけではない。
「何でこんなに布地が少ないのに、防御力がこんなに高いのよ!?」
「布地が少ないからこそ、防御には気を配ったんだ。これを着ていれば、魔法使いでもガチムチの鎧を着た騎士くらいの固さになるぞ」
「おかしいでしょー!?」
徹夜して服を仕上げたおかげか、裁縫師のコスレベルが上がって特性をさらに強化出来たんだ。どうやら服の改造を重ねる毎に効果がどんどん上乗せされていくらしい。
おかげで、物理耐性がさらに上がっていた。今やダメージの三割を和らげることの出来るとんでもな服になってる。
とはいえ、女の子として露出の高い格好は恥ずかしいみたいで、ニアは必死に着替えようとしている。
「ニア、そんなにあなたは恩知らずだったかしら?」
「お姉ちゃん?」
「命の恩人があなたのためを思って作ってくれた服を恥ずかしいって言うなんて、こんな失礼なことがある? これを着ればもしかしたら死なずに済んだかも知れないんだよ?」
「う……確かにそうだけど……」
「それにニアの心配していることなら大丈夫よ。布地が少なくても皆から嫌らしい目で見られる訳じゃないもの」
「そ、そうなの?」
「ねぇ? 統也君?」
そこで俺に振りますか!?
「嫌らしい目では見ないよ……」
俺はそういって目を反らした。
「統也さん私のことずっとジロジロ見てたでしょ!?」
「ごめん。嘘ついた。かわいくてずっと見とれてた」
はい。嘘です。嫌らしい目でちょっと見てました。仕方無いだろう! 昨日エロカワなんて冗談言っていたけど、こんなに目を奪われるなんて思ってなかったよ!
「……え?」
俺が開き直ると、ニアは逆にもじもじし始めた。
あれ? 何がどうなった?
「えっと、統也さんが私を男の人から守ってくれるのなら……着てもいいですよ?」
「よし、ピッタリ寄り添って歩こうか」
「そこまでしなくて良いですよ!?」
さすがに断られたけど、前向きになってくれたみたいで何よりだ。
「これでニアも準備が出来たみたいだし、今日はどこにいって何をするんだ?」
「あ、昨日のダンジョンの中で採取の続きをしようかなって」
「採取? 何を集めるんだ?」
「宝石とか鉱石ですね。採取クエスト受けているんですけど、納品するには量が足りなくて」
「それじゃあ、俺は今日もハイ・プリーストで手伝おうか」
「はい、よろしくお願いします!」
採取クエストか。良いね! 今日はひたすら後ろから生脚とお尻を堪能出来そう!
そんな下心を必死に隠して俺はニアについていった。