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ニートの異世界転生 ご都合主義全排除譚

作者: コケモモ

異世界転生ものです。

ある日の事、引きこもりでニートのこの俺山田海男は、久々に外に出てエロ本を買い、その帰りに車に轢かれて死んだ。その車は信号無視だった。

 気が付いたら、俺の目の前に見慣れぬ女がいた。

「これはまさか、噂に聞く転生か。ついに俺の、モテモテな異世界での生活が始まるのか」

 俺は眼前の女に朗らかに声をかけた。

「あんたが女神様だろう? さあ、俺にチート能力を授けてくれ。俺の第二の人生がここから始まるんだ」

 俺の言葉に、女は思いっきり顔を顰めて――。


「……何か勘違いしてないか。お前」


 恐ろしく底冷えのする声で、そう呟いた。

「はっ……えっ……」

 思考が追いつかない。だって俺はあの車に轢かれて死んで、ここはどう見てもそういう所で、どう見たってこの女は女神だ。

 普通ここは、“私達の手違いで貴方は死にました。せめてものお詫びに、貴方には転生権利と特別な力を授けましょう”という所ではないのか。

 俺の思考を遮るかのように、女はさらに言葉を続ける。

「確かにお前は死んだよ。車に轢かれてな、即死だった。私が女神だという事も合っている。……だがな、私がお前に転生の権利だの、特別な能力だのを授けてやる義理が何処にあるんだ?」

「あぅ……ぅぅ」

 女神の言葉に、俺は何も言い返せないでいた。

 確かに女神の言う事は尤もだが、それにしたって、もう少し位は優しくても――。

「何でも高校を卒業してから、ずっと自分の家にこもって親の脛を齧って生きてきたそうじゃないか。暴君の様に喚き散らかし、散々人様に迷惑をかけ、死んでからも身の程を弁えずチート能力が欲しいなどとほざく――実に面の皮の厚い事だ。恐らくお前には、恥と言う概念など無いのだろう。……実に幸せだぞ? 私も数多くの人間を見てきたが、お前のようなゴミは未だかつて見た事が無い」

 眼前の女の言葉に、俺はどうしようもない苛立ちを覚えていた。

 こいつの言っている事は全て事実で。

 こいつの言っている事はどうしようもなく正しくて。

 こいつの言っている事は、俺にとってはあまりにも耐えがたい現実だった。

「うるせぇっ! 俺だって俺なりに一生懸命生きてきたんだ! てめえなんかに何が分かるっているんだ!」

 激昂した俺の言葉に、女神が大笑いした。

「はっ……ははははは! 一生懸命生きてきた、か! 笑わせないでくれよ! 一生懸命生きてきてそのザマだと言うのなら――お前、本当に価値が無い存在だったんだな」

 女神が否定する。

 俺を、俺の人生を、俺の生きてきた――これまでの全てを。

「まあいいさ。恥知らずのお前を特別に転生させてやろうじゃないか。泣いて喜べ」

 俺の身体が光に包まれる。

「ちょっと、待ってくれ! 肝心のチート能力は何だよ! 転生より先にそっちをくれよ女神様ァ!」

「ハ――何を言い出すかと思えば」

 俺の言葉を、女神は。


「――甘えるのも大概にしろ、ゴミ」


 一言で、切り捨てた。



 目が覚めると、俺は全く見知らぬ場所にいた。

 取り敢えずは街を探さねばならない。周囲を見渡すと、丁度街らしきものが目に入った。

 街はそれなりに賑わっており、喧騒に包まれている。

「ファンタジーっぽい世界だな。よし、まずはギルドに行こうか」

 街を散策していくと、お目当てのギルド酒場が視界に入った。

「さあ、俺の冒険者人生の始まりだ」

 俺はギルドで手続きを済ませ、冒険者となった。

「さて、さっそく美女を仲間にしよう。おーい、そこのお姉さん」

 たまたま近くにいた美女に声をかける。

「……………」

 その美女は露骨に顔を顰めて、どこかに行ってしまった。

 それから何十人と声をかけるも、皆が皆同じような反応で俺の視界からは消えていった。

「……ハッ、いいさ。この辺のモンスターなんざ一人でもどうってことはないだろう」

 武器を買う金も無かった俺は、そのまま町の外へと飛び出した。

 さっそくモンスターが現れる。

 うねうねと動く、アメーバ状の身体。

 間違いない、RPGにおける雑魚の定番、スライムだ。

「うおおおー!」

 掛け声とともに殴り掛かるも、軟体に打撃攻撃がきくはずもない。

「うっ、うわっ!」

 俺は逆にスライムに取り込まれ、呼吸をする事も出来なくなった。

「ぐっ……くくっ……苦しい」

 息ができない。

 だが、俺の脳は冴えわたっていた。

 こういう時には、先達の冒険者が手助けをしてくれると相場が決まっているのだ。

 大抵は美女で、魔物を一撃で倒しそこから一緒に戦ってくれる――ああ、成程。つまりこの苦しみは、ハーレムの為の第一歩と言う訳か。

「…………」

 来ない、いくら待っても来ない。

 おかしい、美女はどうした。仮に美女でなくても、誰かが助けてくれるんじゃないのか。

 苦しい、苦しい、やめろ、離せ、放せ、ハナ、息が、息ガ、息を、イ、

 酸素が失われていく。

 視界が暗くなり、何も見えなくなった。


 そうして、俺の異世界転生は終わったのであった。


ご都合主義をすべて排除したら、こうなるんじゃないかと思います。

楽しんでいただけたでしょうか?

本編には出てきませんでしたが、女神の名前はアルザレックです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よく見る異世界ものとは違う物語で面白かったです! [一言] 生前の行いが大切だとわかりました。
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