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第八話

この小説はリレー形式で掲載していきます。


作者 仲間梓

 ついにそろった三人の仲間を見まわす。


 現役弁護士。口撃力の高い戦士『ダンジョン』

 いろんな意味で回復力がありそうだが、引きこもりなヒーラー『ワンド』

 そして、公務員にして一般成人男性以下の打撃力を持つ勇者、俺こと『ヨシピコ』


「……」


 これは駄目だろ。いや何が駄目って……駄目だろう。


 

「ぜふぼうふぇきばな」


「ふぉんとですね。ふぉうしまひょうか」


「そこの二人、口にポテチ突っ込みながらしゃべんなよ。さっきまでのシリアスはなんだったんだよ……」


 口いっぱいにポテチを詰め込んだダンジョンとワンドがこちらに目線を向けてくる。

 二人そろってリスみたいだな。手を前にちょこんと出していたり、こっちを見ながら口をもぐもぐと動かし続けているところとかそれっぽい。いや、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく、この先どうするか考えないと。


「仲間は集まったけど、これからどうすんだ? 早速殴り込みに行くのか?」


「あふぉふぁおまえふぁ。いふぁもおふぇふぁふぁぃが」


「いふぁもふぁたふぃふぁふぃ」


「いや、さっぱりわかんないんだけど……真面目に話せ」


 二人は頬に貯めていたポテチを飲み干すと、怪訝そうな目を俺に向ける。


「前から思っていたが煩い奴だな……。魔王よりも先にこいつを始末したほうがいいんじゃないか?」


 いやいやいや、冗談ですよねダンジョンさん。眼鏡が光ってて眼が見えないから、冗談に聞こえないんですが……。


「まだ若いのにそんなカリカリしてたら駄目ですよ。……禿ますよ、勇者なんとかさん」


「禿ねぇよ! ついに名前呼ばれなくなった!」


 ワンドに『まだ若い』とか言われたくない。ワンドの方が絶対に若いよな。背丈から見て明らかに年下だろ。


「勇者なんとか。つっこみなら静かにつっこめ」


「お前もかよ! 無茶言うな!」


「『無理無茶無謀を乗り越えるからこそ、人は強くなれる』ってお婆ちゃん言ってましたよ。その程度で諦めてどうするんですか」


「なんかいいこと言ってるけど、こういう場面で使う言葉じゃない!」


「おい、煩いぞ! ポテチのパリパリ音が聞こえなくなるじゃないか!」


「そこ!? ダンジョンそういうこだわりあったのか!?」


「ああ。ポテチに関しては少しうるさくてな。……ちなみにのりしおが好きだ」


「聞いてねぇよ!」


 ああ、もうこいつらまともに話が通じない。これまで何度も思ってたけど、どうしてこの二人が勇者の仲間に選ばれたんだ……。もうポテチの話とかどうでもいいから魔王討伐の話に戻したい……。



「だがこれはコンソメだな。実は俺、コンソメが嫌いなんだ」


 

 呼吸が止まった気がした。


 なんで嫌いなものをがつがつ食っているんだ? とかそんな些細な疑問はどうでもよくなるくらいのことを、ダンジョンが言ったような気がする。……いや、言った。こいつは明らかに言った。


 ……ポテトチップスの……コンソメが……美味しくないと……!

 

「コンソメは………………………おいしいだろ!」


「そうですよ! コンソメの素晴らしさをわからないとは……嘆かわしい! 恥を知りなさいダンジョン!」


 俺とワンドが、同時にダンジョンを勢いよく指さす。

 おお、初めてワンドと意見があった。ちょっと泣きそう。


「ふん、貴様らがいくら足掻こうとも、のりしおの絶対的人気には敵わん」


 ダンジョンはポケットティッシュで丁寧に手を拭き、人差し指で眼鏡の位置を直す。

 途端、クーラーを超える冷気が、部屋中に充満していった。全身の動きが鈍くなり、膝が震える。

 その冷気は別名「殺気」。源は間違いなくダンジョン。眼鏡からわずかに覗く瞳は、今まで見たことがないほど鋭く尖っていた。

 俺とワンドは震える足をなんとか動かして、ダンジョンから距離を取る。

 ダンジョンさんマジ怖い。なんだよあれ。まともな人間が出せる殺気じゃないだろ。

 肌は危険信号を察知して鳥肌が立ちまくり、恐怖で胃と心臓が握られているかのように痛い。


「へへ、久しぶりですね、この感じ……」


 隣を見ると、掻いてもいない汗を拭う、ワンドが見えた。

 強がっているが、俺と同じように足が震えている。 

 そうか、ワンドは魔女裁判の時に、こんな殺気に晒されていた。そんなトラウマもんの場面に出くわしておきながら、こんなに小さい両足で必死に立っているんだ。

 

――勇者の俺がひるんでたら駄目だろ!


「行くぞ、ワンド」


「ええ、ダンジョンさんにコンソメの旨さを思い知らせてやりましょう」


 ダンジョンは俺たちを見て不敵に笑う。

 両手を広げて大げさに「かかってこい」とアピールしてくる。


「二対一だろうが関係ねえ……のりしおの絶対的力……見せてやる」


「魔王を倒す前に、この戦争に決着をつけちぇやぅ!!」


「あ、噛んだ!」


「つけてやる!!」


「言い直した!」


「行くぞおおおおおおおおおおお!!」


 俺はワンドの支援を受けて飛び出し、ダンジョンのスカした顔面に向けて、拳を大きく振りかざした。




 ……三十分後。




「何か言いたいことあるか、勇者なんとか」


「ちょーしのりましたごめんなさい」


 ほんと、もうダンジョンさん強すぎませんか、マジで……。口撃力だけじゃなくて、攻撃力も高いとは思わなかったよ。


「勇者なんとかさん、そんなところで伸びてる場合じゃないですよ! ファイトです!」


 フローリングに突っ伏している俺の後ろ、ワンドは物陰に隠れてこそこそ応援してくれていた。


「そんなんで、魔王を倒すだなんてちゃんちゃら可笑しいですね!」


 ……いや煽ってるだけだった。


 ダンジョンは妙なところ紳士だから、決してワンドに手は出さないみたいだし……。


「はぁ……」


 腹にフローリングの冷たさを感じながら、息をつく。


 しかし、こんなところでダンジョンの戦闘センスや、ワンドの能力を体感できた。たぶんワンドの支援がなかったら、カップラーメンが出来上がるよりもはやく俺はダンジョンの一撃に沈していただろう。

 ダンジョンは手を払うと、いつものように、眼鏡を人差し指で持ち上げる。


「さて、そろそろ話を戻すか。勇者なんとかのせいで、全然話が進まなかったからな」


「本当ですよ全く、ポテトチップスの話とかどうでもいいじゃないですか」


「いや話の発端はダンジョンだし、なんでワンドはダンジョン側についているの意味わかんないし……」


 二人は悪戯じみた笑顔を浮かべながら、動けない俺を見下ろしてくる。

 俺をからかうことがそんなに楽しいのか?


「楽しいな」「楽しいですよ」


 二人とも即答ですか……。ああ、はいはいそうですか。そりゃぁ、ようございましたね。


「勇者なんとかさんだってそうでしょ?」


「えっ?」


 言われていることが理解できなくて、思わず聞き返してしまった。

 なにそれ、俺がからかわれることが好きみたいな言い方。

 ワンドが俺の方に手を伸ばして、頬に触れてくる。


「だってほら、笑ってるじゃないですか」


 そんな馬鹿なと思い、手で頬を触る。口角が盛り上がり、唇が横に広がっているのを感じた。

 

 ―――笑ってるんだ、俺。

 

 笑顔で見下ろしてくる仲間たちと、笑い返す自分。

 俺が考えているよりも、俺は二人との生活を、悪くないと感じているのか……。

 いや、もしかしたらそれ以上に……。


「そっか……」


 この仲間なら、魔王倒すことだって、存外簡単なのかもしれない……。

 俺は二人の視線を感じつつ、静かに目を閉じた。これから心の中だけで言うことを悟られないように。




『これからよろしく。頼りにしてるよ』





***


「誤魔化してるけど、今回ろくな話がないな」


「しーっ! いくら本当のこととはいえ、そんなこと言っちゃだめですよダンジョンさん!」


「ワンドさん、速くヒールを……ヒールを……」


***


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