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第五話

この小説はリレー形式で掲載していきます。


作者 仲間梓

「本当にヒーラーから連絡来るとはなあ」


「ああ、でも好都合だ。しかも相手から居場所を教えてくれるとは……」


 昨晩、ヒーラーになった少女から事務所あてに電話があったらしい。らしいというのは俺とダンジョンは直接電話を取れていないからだ。なんせ着信時間は午前零時、常識的に考えたらその時間誰もいないことぐらいわかるだろうに。


 『あえて誰もいないタイミングで連絡したのかもしれない……』と俺たちは当初疑った。

しかし、


 『同一電話番号からの着信が五十件もあること』


 や、留守電が


 『………………』(声が小さすぎて雑音しか聞こえない)

 『勇者ヨシプリよ、私がお前の探していりゅh』(中途半端なタイミングで切れている)


 と、そういう状況から鑑みて……ああ、言いたくない。言ったら現実になってしまいそう。あと、ヨシピコな。いつから俺はプリクラ撮影機になったんだ。


 とにかく、途切れ途切れの情報を組み合わせて、ようやく伝言の内容が理解できた。


 『自分がヒーラーであること』と『今から言う住所に来てほしい』とのこと。指定された住所に向かうと古い鉄筋コンクリートのマンションが建っていた。部屋の番号は三〇二号室で、俺たちは今、その部屋の扉の前に立っている。昼間なのに暗く感じるのは、路地裏にある建物故の、立地の悪さだろうか。


「やっぱり、俺たちのこと探してたんだな」


 ダンジョンはメガネを中指で引き上げながら「作戦通り」と呟く。メガネの向こうに見える瞳は相変わらず冷たく透き通っていた。


「ねぇ、いつも思うんだけどさ。メガネキャラがやるその仕草って何なの? みんなやるよねそれ」


「問題はヒーラーがどんな奴かということだが……」


「聞けよこら」


「俺に言わせてみれば、使えなければ使えない奴ほどありがたいんだがな。魔王を倒される確率が減る」


 無視かよ。んでさらっと勇者の味方らしくないこと言いやがったなこいつ。


 俺が睨みつけていても素知らぬ顔で、ダンジョンは三〇二号室の呼び鈴を鳴らした。


「……」

「……」


 もう一度、今度は俺が鳴らす。


「……」

「……」


 指定された場所の指定された時間通りに来たはずだ。誰もいないはずはない。


 試にノブを回してみる。ガチャという音がして扉が少しだけ開いてしまった。鍵がかかっていない……。


 嫌な想像をして、背筋が一気に凍りつく。それはダンジョンも同じようで、息を飲む音が聞こえてきた。



「もしだぞ……」



 自分の声が、震える。


「もし、魔王が俺たちの行動をずっと監視していたとしたら……?」


「なんだ? 珍しく頭が切れるじゃないかヨシピコ。俺も同じことを考えていた。俺たちを追い詰めるなら、有名なってしまった俺たちを直接狙うんじゃなくて、これから仲間になりそうなやつを狙うだろう。しかも……」



 ――もしヒーラーの情報を特殊能力で入手していたとしたら……



 カッと頭に血が上り、三〇二号室の扉を勢いよく開けた。


 感じたのは腐臭。鼻を刺すような強烈な臭いに、思わず眉間に皺を寄せる。鼻から通って肺まで侵されてしまうような気がして、俺は急いで手を口に当てた。


 見た目はごく一般的なワンルームなのだろう。玄関から入るとすぐにキッチンがある。だが、このキッチンしばらく使われていた形跡がない。壁の塗装は剥がれ、シンクは所々錆ついてしまっている。


 フローリングの通路には大量のごみ袋が中身一杯の状態で置かれており、もはや床も見えない。


 そしてその奥、ヒーラー少女が普段過ごしているであろう空間にそいつはいた。


「ひぃっ……」


 カーテンを閉め切った暗い部屋にパソコンのディスプレイの灯りだけが見えている。

 その光に照らされたのは小さな素足を天井に向け、上半身がごみ袋にすっぽりとはまった、



 ――まさしく、怪物だった。



 俺は、思わず後退する。するとその気配を感じてか、ゴミ袋から出た足が蟹股でわしゃわしゃと動き出した。


「ぎいやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「犬神家だな」


「きやあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の叫び声に追随して、ゴミ袋の中からも悲鳴が上がった。


 ――って、なんでお前はそんなに冷静なんだよ、ダンジョン!!


「だ、誰かいるのですか!? はまってしまって動けません! 助けてください!」


 間違いない、あの中にいるのがヒーラーの少女だ。急いで助けないと……!

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