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第二話

リレー形式で掲載していきます。


作者 仲間梓 

金属が擦れる重厚な音と共に、俺は檻の中に閉じ込められた。一定間隔で隙間がある金属の壁を挟んで、俺をここまで連れてきた警察官と向き合う。サングラスをつけた剛腕なおっさんだった。威圧感が半端ではない。


「いやー、重い音がずしんと響く、趣のある鉄格子ですね。白色の塗装がところどころ剥げてて、いい感じに時代を感じるというか~」

「はっはー、そうだな。なんせお前のようなやつを閉じ込め続けて百年近く経ってるベテランだからなぁ。ここに入れられて死刑になった奴を俺はよく知ってるぞ」

「……」


 ――なにそれ、どう受け止めればいいの。


「そ、そうなんですか~。そういえば腰に下げてる拳銃も、光りを受けて輝いて、かっちょいいっすね~」

「そうだろ、お前がいつ逃げても撃てるように準備万端だぞ」

「……」


 またまたまた~。井戸端会議する母親たちみたいに口に手を当てる。


「あははは~。そういえばそのグラサン超かっこいいっすね。似合ってますよ~」

「そうかぁ?」



 ――お前のような『ゴミ』を直接見たくないだけなんだがなぁぁ。



「あは、はははは、はははははははは」

「わははははははははははははは」

 俺と警察官の乾いた笑いが木霊する……。


 おいまじかよ。超こえーよこの人! サングラスの奥に微かに見える目! 笑ってない! 目見開いてやがる! 一度だけ町のヤクザに睨まれたことがあったけど、警察官の睨みは比にならん! ダイレクトに見ていたら、間違いなくちびってた。


「あの……」

「なんだ?」

 耐えきれずに、思わず話しかけてしまった。あーどうしよう何も考えてない。


「娘さん、おいくつ――」

「ざけんなクズ」


 口汚く罵って、警察官は俺に背を向けた。……ってクズ!? 言っていいことと悪いことがあるんじゃないか!?

 抗議しようと口を開くが、諦めた。警察官はもうこちらを気にしてもいないようで、近くの椅子に座っていた。俺は吸いっぱなしだった空気をゆっくりと吐き出す。


「この後、どうすっかな……」


 思い出すのは、ダンジョンのことだ。

 弁護士はみんなあんな感じなのか……。用件だけ伝えて、あとはきりきりと動いて去っていくみたいな……。少しはこっちのフォローもしてほしい。

ドラマで見た弁護士はあんな感じじゃなくて、なんかもっとこう……。やさしくて、俺のことをもっと心配してくれて、説明もしっかりしてくれて、


 ――『大丈夫! 一緒に戦いましょう!』


 弁護士ってそんな感じなのかと……。

 でも、そういうわけじゃないんだな。ダンジョンを見てよくわかったわ。


 切り揃えられた黒髪の短髪にスーツ姿でノーフレームのメガネ。キュッとネクタイを締めていて、いかにもお堅い人おイメージそのものだった。コクセンベンゴニンって言ったっけか? うん、いかにもそれらしい。

 ……いや、なにが『らしい』のか全く分からないけど。っていうかコクセンベンゴニンって何だ? 『国選』? 国に選ばれてるんだろうし、弁護士の中で相当すごい人ってことか?


 だとしたら、俺は絶対にダンジョンとは仲良くなれない。


 地方公務員の最下層にいる俺とは住む世界が違う。

 きっと、超絶エリート様なのだろう。俺なんかよりも十二分に勉強ができて、色々なことを知っているのだ。頭脳は難関国立大学レベル、大学では甘いマスクでモテモテだったに違いない。学歴という優秀な味方も付けて、弁護士試験 (……たぶんそんなんがあるんじゃねぇかな)にも受かって……万々歳。将来安泰。やりたい放題。

 そんなに頭いいのか!……なのに!

「やってること俺と変わらねぇじゃねぇかあああああああああああ!!」

 目の前にある鉄格子をがしゃがしゃ揺らす。


 用件だけ伝えて、『はい終わり!』なのは、俺の仕事ぐらいだと思っていた! 裏切られた! 頭良くて、給料多くて、いい所にも住んでるはずなのに、やってる仕事の一部が被っていたなんて信じらんない! もっとサボっとけばよかった!


 そもそも俺は、ダンジョンの言ってること、何一つ理解できてない。

 魔王って何? コウモリを操る力って何? 俺何にも聞いてないし、何にも知らない。

勇者って言われても実感なんてないし、そもそもそういうのは田舎の青臭い青年が成る者であって、生まれてこの方都会っ子の俺には縁遠いはずなのに。

 でもこういう時、俺は不思議と心が躍ってしまう。楽しいと思ってしまう。留置所にいることは楽しくないけど、俺を惹きつけているのは『勇者』という言葉だ。


「なっちまったもんは、しょうがないか。勇者……俺が勇者だってよ……へへへ」


 『勇者に選ばれた』なんて、自慢し放題じゃないか! 魔王を倒して世界を救えば、それこそ一攫千金間違いなし。地位も名誉も確立されて、働かなくてもよくなる。歴史上の人物として俺が載るんだ。サインの練習とかしといたほうがいいかなあ。

そうだ、今の俺には大事な問題がある……


「なあ、ポリスメン」

 厳つい身体をした警察官が顔を上げ、「なんだ? バッドボーイ」と返してくる。

 声が震えないように腹筋に力を入れた。親指をぐっと自分に向ける。


「俺、勇者になったんだぜ! 今のうちにサインとかしといてやるよ!」

「寝言は寝てから言え、このゴミクズ」


 うはぁ……『ゴミ』プラス『クズ』だってさ。勇者でも人なので、暴言には弱いんですよ、ポリスメン?

 目力で異議を唱えるが、警察官は一瞥も目を向けてもくれなかった。

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