8 召喚者の会合、場外に……
異世界転移生活四日目午後、城の集会場にて
「さて、いままで俺が勝手に交渉役として話を進めていたが、今回は各自で意見を出しあい、今後俺たちはどうすべきか考えようではないか」
レオニードがそう言うと各々意見を出しあう。
「ぼくは勇者の儀式を受けてみようと思ってるよ。勇者になったらステータス上がるっていってたしね」
「あたちも儀式受ける。魔術回路がたくさんあるっていわれたから、魔術をバンバン打ってみたいの」
「わても受けてみはりまっか、わてのこの体がもっと磨かれるなら受けて損はないでっしゃっろ」
ほとんど召喚者は勇者の儀式を受けるのに賛成していた。
「ライくんはどうするの?勇者の儀式を受けるの?」
早乙女の問いにたいしてライの答えは決まっていた。
「ぼ、僕も受けるよ。ただでさえみんなより弱いんだから、勇者のステータスアップに期待するしかないじゃないか」
「そっか……。うちはチョット恐いからどうしようか迷ってる。勇者になるってことは魔物と戦わないといけないってことでしょ」
早乙女がそう言うと軸原が話しかけてくる。
「美樹はならなくてもいいぞ。俺が勇者になって美樹の分までがんばってやるからさ」
ーあまーい。
ー軸原の奴やっぱり早乙女とできてるのか!?
ーリア充は爆発しろ!!
ライは相変わらずの早乙女と軸原の仲の良さに悪態を吐く。
このようにそれぞれの召喚者達の意見を全員述べたあとに、レオニードが話をはじめた。
「わかった。みんなの意見をまとめると賛成7、保留が3、反対が1ということだな」
「おいおい、反対って誰のことだよ?ぼくらの意見でそんなこと言った人がいたか?」
「俺が反対だ」
レオニードは相変わらずのしかめっ面で言った。
「なんで反対ですん?訳聞かしてももろてもいいでっか?」
ユートとカルがレオニードに理由を聞こうと詰め寄っていく側でライは思った。
ーレオニードの奴、なんで反対なんだろうか?
ーもうあんなにたくさん恵まれているからもういらないとかか……。
ー妬ましい。
ライは逆恨みとわかっていてもレオニードのことが気に食わなかった。ライが心の中で毒を渦巻かせている間にもレオニードとユート達は話し合いをしていた。
「俺はこの三日間でこの世界のことを知れるだけ調べてみた。この世界には勇者が溢れている。俺が聞いた話しによると、世界に勇者は1000人以上いることがわかった」
「それが何か問題でもあるのか?勇者になって強くなれるならいいじゃないか」
「勇者の生存率を知っているか?」
レオニードは問いかける。
「……知らないね。どのくらいなんだよ」
「……一割だ」
レオニードの発言にユートはドキリとするが、それが本当かわからないのに勇者という魅力ある言葉を否定しようとは思わなかった。
「……それは弱いからだろ!?俺たちのステータス見たかよ。城の騎士でさえいまのぼくらと互角なんだぜ…ここからさらに強くなれるならそう簡単に死にはしないさ」
ーそう、この城の騎士達の平均ステータスは90ぐらい。
ーステータスは50を平均男性の能力くらいと言っていた。
ライは修練場で聞いた話を思いだしながら思考する。
「お前の意見ももっともだ。聞いた話によると勇者のクラスになったと同時にステータスは最低でも2倍から3倍にも上がるそうだ」
「そうだよ。2倍以上になるなら、ぼくたちはそう簡単にはやられはしないさ」
ユートは自分がいってる理由は正しいと信じて言う。
「……勇者になれればそうだろうな」
レオニードは含みのある言い方をした。
「なんだよその言いかた、ぼくたちは勇者になれないって言いたいのか?」
ユートはレオニードが何を言いたいのかわからなかった。
「さっき言った勇者の生存率だかひとつ問題があった。ここの城の奴等はこのことを言うと俺達が勇者にならないと思い言わなかったのだろうな」
「……問題ってなんだよ……」
ユートはレオニードの言うことに耳を傾ける。
「……勇者になったと同時に死ぬと言うことだ」
「……勇者になったら死ぬ?」
「ああ、先程言った生存率は勇者になれる確率でもある。勇者になったものは強靭なステータスをもち、そう易々と死ぬことはなくなるそうだが。勇者になったはいいが、勇者のクラスに体が耐えられなくて大抵の者は死ぬそうだ」
レオニードが言った瞬間、召喚者達は信じられないと言う顔をして唖然とする。
「なんやて、そならわてらは死ぬかもしれへんクラスに成れって言われてましたんか!?」
「……他にも何かあるのかよ」
ユートはレオニードがもっと自分達が知らないことを知っていると思い聞いてみた。
「……そもそも勇者とは何か。勇者とは魔物を喰らいし者を言う。魔物の体内にある『魔核』を勇敢に喰らい生きる者、それがこの世界の勇者だ」
「まじかよ」
「この世界の勇者は、よくある物語の主人公がなるクラスの勇者ではなく、なろうと思えば誰にでもなれるクラスだ。しかし成るには死を克服しなければならないというリスクがまとわりつくがな」
「待って、シルヴァニアさんは私たちを勇者の卵って言っていたわ。それはどういう意味なの?」
レオニードが場を支配しているなか、すみれはシルヴァニアをまだ信じたい気持ちで聞いてみた。
ーそうだよすみれさんの言うとおり。
ーシルヴァニアさんは勇者の卵って言ってた。
ー僕たちは勇者になれる人たちじゃないのか?
そしてライもシルヴァニアが言わなかったのには何か理由があるからだと思った。しかしレオニードは言う。
「勇者の卵とはこの世界に昔異世界召喚された者により生まれた言葉だ。異世界召喚された者は体内に魔力の動力を有しないため、魔核を受け入れやすい体質が多かったそうだ。つまり魔核を受け入れやすい体質のことを勇者の卵と呼んでいる」
「……受け入れやすいってどのくらいだよ?」
「……三割程度だ」
「「……………………」」
一同は静まりかえった。
「いまいちど、みんなの意見を聞きたい。今後どうするかを」
レオニードはもう一度意見を聞こうと促す。
ライたちはどうするかを考える。死ぬかもしれない。その言葉がライたちの胸に重く苦しく突き刺さる。そんななか、レオニードが言っていることが正しいと思いはじめたライだったが、レオニードにたいして疑問が浮かんだ。
ーん? そういえばレオニードはなんでこんなに詳しいんだ?
ー誰かから聞いたのかな?
ライはとりあえず聞いてみようと思い質問をする。
「あ、あのさ、レオニードはその話をどこで知ったの?」
ライがそう言うと、レオニードは顔を強張らせた。
「……それはだな……」
レオニードは顔を下に下げ、言いにくそうにした。
ーレオニードにしては歯切れが悪い。
ライたちはレオニードの言葉を聞こうと待っていると、静かになっている集会場に音が聞こえてきた。
ドォーーン
ドォーーン
ドォーーン
城外からけたたましい音が鳴り響く。鳴り響く音に引きずられるようにして城内にも人が行き交う音で溢れはじめた。そしてライたちがいた部屋の扉を騎士が力づよく開ける。
「召喚者様方。急いで地下のシェルターにご避難ください。魔物が攻めて来ました!!」
ライが知っている騎士一号は恐怖に染まったかのような青ざめた顔で言った。