7 ポケットの中に、名前は……
異世界転移生活三日目夜
夕方になり城下町案内を終え、城に戻ったライは早々と召喚者達と別れて、なるべく人に会わないように与えられた自分の部屋へと足を運ぶ。
ライは部屋に入るとへたりこむようにベッドへと倒れこみ、天井を眺めていた。
「僕はみんなとは違うのかな……」
ライはそう呟き、ぼっーとした。数分そのまま何もせずに動くことをしなかったが、喉が渇き、ベッドから腰を上げようとしたとき、ポケットに違和感を覚えた。
そこでふと修練場に向かう前に横道に逸れた先で拾った赤石のことを思い出した。いれっぱにしていた赤石をポケットから出して赤石を観察した。
――そういえばこの赤石なんだろう?
ほんのり温かく、不規則に点滅しているなぁ。
明日にでもシルヴァニアさんに聞いてみようかな?
ライは赤石を一通り掌のなかで転がしたあと、近くのテーブルに赤石を置こうとする。テーブルから転がり落ちないようにしっかりと赤石を置いて、赤石から離れようとした。しかしその瞬間。
カタっ
ライは赤石から変な音がした気がした。不思議に思い、赤石に触れようとした。だが触れる前に赤石に亀裂が走った。赤石の亀裂からは赤い液体がドロドロとマグマのように漏れてきていた。
――なんだこれ!?
赤い液体?
血?
ライは突然の出来事に驚き、赤石から後退りする。その間も赤石からは赤い液体がどくどくと流れつづけていた。
ライはあまりの異常な出来事になにもわからず茫然とした。ライが茫然自失していると、突如赤い液体が生き物のように波打ちながらライへと覆いかぶさるようにして襲いかかる。ライは身体にまとわりついた液体になすすべもなく、徐々に全身を包まれて、身体の内部にまで侵食してくる液体に飲まれていき、意識が飛んだ。
異世界転移生活四日目
――周りが騒がしい。
どうしたんだろう。
「大丈夫か! ライ!」
ぱちん、ぱちん。
レオニードがライの頬をたたく。何度も頬を叩かれたライは痛みにより意識をもどす。ライは意識が戻ったがいまだ頬の痛みが継続していたので声をあげた。
「痛いよ。なにするの!」
「無事か!?」
ライの眼前にはレオニードがいた。レオニードは額に汗を流していた。その姿はまるでライの安否を確認するようであった。
「大丈夫だよ。何ともないよ」
ライはレオニードが焦っているのを安心させるためになんともないことを伝えた。
「焦られおって、床に倒れていたから心配してしまったではないか」
レオニードはそう言うと安堵の息を吐き、首を曲げて体の力を抜いた。
ライはレオニードが部屋に居るわけ、なんで床に寝ていたのかわからなかった。
――床に倒れて?
なんかあったっけ?
あれもう朝?
昨日部屋に入ってからの記憶がないや。
疲れてたから寝ちゃったのかな?
「ごめん。ごめん。昨日は疲れててすぐに寝ちゃったみたいだ」
ライは昨晩の記憶がなかったのでとりあえず無難な返答をしてこの場を乗り切ろうとする。
「……ほんとうに何ともないんだな?」
レオニードは疑うような目線をライに向けた。
「なんともないよ」
ライは記憶がないことをレオニードに伝えると面倒なことになりそうと思ったのでなにも説明しない。
「……それならいい。早くみんなの所に行くぞ」
レオニードはそう言うとライを連れて部屋を出た。ライは部屋を出たとき首筋がチクりと痛んだ気がした。だが直ぐに痛みがなくなったため、首でも寝違えたと思い気にすることはなかったのあった。
ライはレオニードに連れられて食卓向かうと、そこには召喚者達とシルヴァニア達が全員揃っていた。ライは待たせてしまったこともあり少し慌てて自分の席に座った。
「みなさまお集まりのようですね。本日はレオニードさまが言われました三日目となります。しかしみなさまが今後どうするか決められる前に、みなさまを連れて行きたい場所がございます」
シルヴァニアは全員揃うと話をはじめた。
「それはどこだ?」
レオニードは行き先が気になり質問をする。
「先日我が国の神殿長が帰って来られました。そこでステッラ大神殿にて、みなさまのステータスを鑑定いたします」
シルヴァニアは微笑むながら言った。
――おお、ステータスなんか見れるのか。
ライはステータスという言葉に心を踊らせた。
その後ライ達はシルヴァニアと共に馬車で10分ほど揺られ、ステッラ大神殿へと到着した。ステッラ大神殿は神殿というよりは城と言っても通じそうな建物であった。神殿内に入ると荘厳な雰囲気を漂わせる皺だらけの男がライ達を待っていた。
「ようこそおいでくださりました。ワタシはこのステッラ神殿の神殿長をしております『カノール』と申します。皆様方がステータスの鑑定を行えるように加護の授与を任されました。どうか宜しくお願いします」
カノールと名乗った男は、神殿長と付くように落ち着いた雰囲気を漂わせた老齢な男であった。
「加護の授与とはなんだ?」
「みなさまは異世界から召喚されました。そのためこの世界の理から外れた存在なのです。加護の授与とはこの世界の理を適用させるものですわ。普通はこの世界に産まれたときに神から祝福を受け、存在の証明がなされます。存在の証明がなされることにより、魔術による個人の能力が視覚されるようになります」
シルヴァニアはレオニードの質問に、この世界の常識についてを説明していく。
――いまのままだと自分の能力が見えないけど、加護の授与をすると見えるようになるってことかな。
ライはなんとなくではあったがゲームのようにステータスがわかるようになると理解した。
「それでは早速ですが皆様に加護の授与をさせていただきます」
カノールはそう言うと祈りのポーズをとりはじめる。
カノールは10分ほど祈るように言葉をつむぐ。時間が経つにつれカノールさんの周りに光が集まり、カノールさんは神々しい様子になった。カノールの祈りが終わるとライ達の足元に魔方陣が表れる。ライ達はそのまま魔方陣の上に立っていると、ピコーンと頭の中で音が聞こえたような気がした。
「ステータスウィンドウの適用を確認しました。能力を数字化するための演算をはじめます」
どこからともなく無機質な声が頭の中で響いた。
「なるほど、これがステータスか」
レオニードは早くも自分のステータスの確認をしているようだった。
「はい。これからステータスは自己の認識したことにより項目がどんどん増えていきますわ。例えば魔術を知らなければ、魔術の項目はステータスに表示されませんが、知っていると表示されるようになります。今後は自分が使いやすいようにステータスをカスタマイズするようにしてください。ちなみにステータスを見たいときはオープンと頭の中で思えば見れるようになると思いますわ」
ライ達はそういわれて各自ステータスを確認を見始めた。
――そうか、さっそくステータスをみてみよう。
ステータスオープン。
天童頼武羅
クラス:一般人
HP:100/82
攻撃値:20
防御値:18
敏捷値:22
抵抗値:30
魔術回路:0
スキル:無し
天性才能:無し
――なんだこれ?
とくに特徴のないステータスだ。
まだ自分が認識してないからか?
カスタマイズしていかないとこんなもんなのかな?
というかやっぱりこれには本名で表示されてるか。
頼武羅って名前痛すぎるから嫌いなんだよなぁ。
ピコーン。
「名前の項目が変更されました」
天童ライ
クラス:一般人
HP:100/82
攻撃値:20
防御値:18
敏捷値:22
抵抗値:30
魔術回路:0
スキル:無し
天性才能:無し
――おっ名前の表示が変わった。
これがカスタマイズってことか。
名前を変えれるって偽名しまくりなんじゃないか?
「みなさまご自身のステータスをご覧になられてどうでしたか?」
「このスキルというのと天性才能というのはなんだ?」
レオニードがシルヴァニアにステータスについてを質問する。
「スキルというのはその人がもつ特技や特徴を表します。私は棒術を使えるので棒術:中級と表示されています。天性才能というのはその人がもつ可能性です。特定のスキルを所持することにより神の恩恵のクラスを授与することが出来るようになります。私は治癒術と解毒術を持っているので治癒術士のクラスをもっています。クラスをもっていると様々な効力がありますのでみなさん手に入れることをお奨めしますわ」
「つまり俺たちは神の恩恵のクラス勇者を手にいれることを目標にしろということか。しかし俺の天性才能には勇者など無いぞ」
「勇者のクラスは特殊で条件があります」
「その条件を解除するのが初日に言っていた儀式ということか」
「理解が早くて助かります」
シルヴァニアはにっこりと笑った。レオニードの理解の早さに感心をしたからだ。
「わかった。このあと召喚者のみんなで今後をどうするか話し合おう」
そういってレオニードは召喚者達の顔を見渡した。
「よきご返事をお待ちしていますわ」
シルヴァニアはここ一番の微笑みをレオニード達に向けた。
このようにレオニードとシルヴァニアがお互いを牽制をしているとき、ライはのどかに早乙女に絡まれていた。
「ライくん、ステータスどうだった」
早乙女と軸原が楽しそう顔をしながらライに話しかける。
「攻撃値とかのこと?」
「そうそうそれ、俺は攻撃値80でさあ、早乙女が92でさぁ負けちまったんだよ」
「でも敏捷値はそっちは101、うちは84で武志が勝ったじゃない」
「男なら攻撃値だろう。で、おまえはどうなんだライ?」
早乙女と軸原は互いのステータスについて語り合っていた。
「……20……だよ」
ライは早乙女達のステータスを聞いて苦虫を踏んだ顔をしながら答えた。
「えっ……まじで」
「ほ、ほらっ、ライくんは防御とか敏捷が高いんだよ」
慌てて早乙女がライのフォローに入ろうとするが。
「他も同じぐらいの数値だよ」
「あ……、えっと、なんか、ごめん」
「別にいいよ。気にしてないから……」
早乙女は聞いてしまったのを後悔したのかこのあとステータスについて聞いて来ることはなかった。
召喚者達は互いのステータスを確認するためにひとつに集まって情報交換を行った。その結果はライにとって現実に戻されるには十分なものであった。
――僕の能力はみんなより低い。
それも圧倒的に低かった。
みんなの平均80ぐらいだった。
小学生のネネちゃんでさえ40を越えるのがあった。
さらにみんなは僕とは違いスキルが最低でも4つはもってた。
レオニードにいたっては既にクラスが4つもある。
つまり僕はこのメンバーの中で一番下。
ライは思った。異世界転移しても僕には楽しい人生の幕開けなんかなかった。城への帰り道、気分がふさぎこみ、一人になりたい気持ちになっていった。
そしてライは城に着くと中庭でひとり空を見上げてぼんやりとした。ただ時間だけが過ぎる。
ライは城の中庭で考え込むが何もいい考えが思い浮かぶことはなかった。そして早乙女がライに声をかけるまで静かな時を過ごした。
9月29日改稿