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知らぬ間に勇者になりました。ー天秤の勇者になるまでの軌跡ー  作者: 九渡
第1章 チャブター1 ー異世界転移ー
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5 安らぎは布団の中、夜中の訪問者……

 異世界転移二日目、夕方


 ライはベッドの中で布団に包まっていた。 


 ――ベッドの中は幸せだ。 

 僕に安らぎを与えてくれる。

 ベッドというのは決して他人が犯してはいけない領域なんだ。


「ねぇ、もう拗ねるのやめたら?」

 早乙女はひとり部屋で塞ぎこんでいるライを心配して部屋を訪ねていた。


「う、うるさい早乙女さんに僕のいま気持ちがわかるのか」

「そりゃゼロは笑えたけどさ。まだ希望は残ってるんだから機嫌直しなよ」

 早乙女は布団の上からポンポンと叩いて、ライにちょっかいを出していた。


 ――この押し掛け女(さおとめ)はなんなんだ。

 突然僕が寝てる部屋に入ってきて居座ってさ。

 僕はいま部屋で一人でいたいんだよ。

 こんなみじめな僕をひとりにさせてくれよ。 


 ライは亀のように布団に篭り、嘆いていた。こんな情けない姿を人に見られるのが恥ずかしいと思い、一刻も早く早乙女を部屋から追い出したい気持ちであった。


「早乙女さんも早く自分の部屋に帰りなよ。僕なんかと話しても得られるものなんて何もないよ」

 ライは拗ねた声色で早乙女に言った。

 ――そう魔術回路がない。魔術がつかえない男となんて関わってもいいことないさ。


「ん~じれったい」

 早乙女はライの布団を勢いよく引っぺがす

 ――な、なにすんのさ僕の布団を返してよ。


 早乙女の行動になすすべもないライはベッドの上で小さく丸々しかなかった。


「シルヴァニアもあのあと言ってたでしょ。たとえ魔術回路がなくても、道具を使って魔術を使ったり、勇者になれば能力が全体的に向上するから魔術回路も増える可能性もあるってさ」

 早乙女は胸を張りながらライを励まそうとする。

 ――そんなこと言ってたの?

 ライはゼロが衝撃的過ぎて、あのあと言われたことを覚えていなかった。


 ライはひょっとこのような顔をしてぼっーとしていた。

「きみさぁ、その顔、話聞いてなかったでしょ」


 早乙女は変な顔をするライに肩を落としながら言った。

 ――こいつ心を読むのか!?


「そ、そんなことよりなにか用事でもあるの早乙女さん」

 ライはこのまま話をつづけるとまたガミガミと言われそうな気がしたので話を変えようとした。

「はぁ、まあぁいいけどさ。ライくんここに召喚される前に、飛行機に乗ってたりした?」

「乗ってたよ。アメリカ行きの便に」

「やっぱりそんなんだ。うちと武志もアメリカ行きの飛行機に乗ってたの。なんか見たことあるなぁと思ったのよ。飛行機内でうちの前座ってたのライくんだったんだね」

 早乙女は手を叩く、思っていたことが当たったのが嬉しいのだろうとライは思った。


 ――なんだ。あの座席の後ろに早乙女いたのか。


「他にも飛行機に乗ってた人とかいるのかな?」

 早乙女はさらに質問をした。

「乗ってた人? みんないたんじゃないの? レオニードとかカルは飛行機に乗ってたし」

 ライは何となくだかそうであると考えた。

 ――レオニードは飛行機の墜落原因の王子。

 カルは僕の右斜め前の席に座ってたな。あまりにガタイがよくて印象に残ってる。


「そうなんだ……ありがとう。その話を聞きたかっただけなの。また明日もあるし部屋に帰るね。じゃあね」

 早乙女は知りたいことが知れて納得したのか足早と部屋から出ていった。その後ろ姿は少し悲哀さを帯びていたがライは気づくことが出来なかった。


 ――やっと帰ったか。

 なんで僕に話しかけたのかわかったよ。

 飛行機内で見覚えがあったからなんだな。

 ならもう早乙女は僕に構ってくることもないかな……。

 少し寂しい。


 ライは早乙女が部屋から出ていき、部屋でひとり、少し寂しく感じた。しかし物思いに更ける間もなく。

 ゴンっゴンっゴン

 誰かが部屋を訪ねてきた。


 ――なんだノックか?

 また誰か来たのかな?

 放置すると早乙女みたいに強引に入ってくるかも。


「どうぞ、勝手に入ってください」

「失礼する」

 返事をしてすぐに部屋に入ってきたのはレオニードだった。


 ――あれ? レオニード? 僕になんのようだろう?

「夜分遅くにすまない。お前に渡しておきたい物があったので立ち寄った。いま時間は空いているか?」

 レオニードは右手に袋を持っていた。

 ――渡したいもの?

 なんだろうか?


「空いてるけどなに?」

 ライはなんなのかわからないがレオニードの言動が気になった。さっきからレオニードは天井や床下を視ていたからだ。


 ――なに?

 なんか部屋に変なところでもあるの?

 えっ? ちょっと!? 近い近い! なんでそんなに近づくの!?

 耳に息をかけないで!


 ライが考えてをまとめる前に、レオニードはライに近付き耳元で囁いた。

「……護身用にこの短剣ダガーを懐にいれておけ。魔術回路を調べたあと、周りの奴等はお前に対する見る目を変えた。万が一があってはならんからな」

 ライは言われたことがわからなかった。


「……それってどういうこと?」

「……弱いモノはこの国には必要ないと判断され、処分される可能性があるってことだ」

 ライは処分と言われて、心臓がキュっとなった。


「でもシルヴァニアさんは責任をもって生活させるって言ってたじゃないか」

 ライはレオニードの言うことが正しいのかわからなかったが、自身を安心させるために声に出して言い聞かす。


「……その責任とはなんだ? お前は気づいてなさそうだが、俺たちの周りを監視してる奴らがそこらじゅうにいる。さらに昨日の夜中に隠れて城内を調べたが、この国では魔術の高さが身分の高さと比例しているようだ。もしお前が勇者になって魔力が扱えるようになっても、魔力が低ければ奴隷にされるかもしれんないぞ」

 レオニードの口から出てくる内容にライは冷や汗を流す。

「ど……奴隷」

「そうだ。この国には奴隷制度がある。俺がもしこの国の王族ならば、お前を奴隷にして、責任をもって奴隷として引き取り、生活をさせてやる、という考えが浮かびそうなものだ」

「そんな、まさか……」

「あいつらの――この国の人の言葉を表面だけで信じるな。この国はいま三つの派閥に別れているからな。その中のひとつの派閥が少しきな臭い。まだ不確定だが勇者という言葉も俺達が思っているのと少し異なるかもしれん」

 レオニードはしかめっ面に、さらに深くシワをきざむ。

「……わかったよ。気をつける」

 ライは唾を飲んで相づちをうつ。


「……さすがに俺一人では行動できる範囲が狭くてな。何かわかり次第、お前にも話す。お前は男だろう? 自分の身くらいは守ってみせろ。だが危ないと感じたら俺をすぐに呼べ」

 レオニードはそう言い残すと、僕の部屋からすみやかに出ていった。


 ひとり部屋に残されたライはレオニードの言葉を胸の中に飲み込んで、現状を考えた。

 ――レオニードは色々考えて行動してたんだな。

 ただ単に嫌味な奴じゃなかったのか。

 周りの気配りを欠かさない、頼りがいのある男。

 それにここに来てからまだ一日だぞ?

 どんだけ調べたんだよ。

 奴隷? 派閥? シルヴァニアさんはいい人だよね?

 くそ。

 考えても僕にはわからないよ。


 初日の夜とは違い、ライはぐっすりと眠ることは出来そうになかった。二日目の夜、懐に入れた短剣の重みを肌で感じとりながら夜は流れる。


 ライの異世界転移二日目は不穏な空気と共に過ぎていった。



9月18日に改稿。辛口感想受付中。

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