4 異世界の醍醐味、僕にチートは……
午後になり、シルヴァニアは召喚者たちを引き連れて城内を案内していた。
「こちらは魔術を研究する施設です。我が国の民は魔術を誰でも使うことができます。そのため魔術の研究の分野では他国よりも我が国は優れています」
魔術という分野に興味深々の召喚者たちは目の色を変えてあたりを見ていた。そんななか、レオニードだけは周りのことよりもシルヴァニアとの対話を優先していた。
「魔術は誰でも使えるのか?」
レオニードが当たり前のように先頭に立ってシルヴァニアと応対する。昨晩から、今日の午前中もいまもレオニードを中心に召喚者は行動していたのであった
。
――ああ、やっぱりレオニードが僕らを代表してシルヴァニアさんと話してる。
うらやましいなぁ。
でも僕には最後尾がお似合いかな。
ライはそんなレオニードの姿を見て羨ましいと思っていた。普段であるならば悪態を吐くライであるが、午前中の騎士との件をいまだに引きずり、気持ちはへこんでいるのでそんな気力はなかった。
へこむライとは関係なく、シルヴァニアは質問に対して答えていっていた。
「魔力さえあれば魔術は誰でも使えますわ。もちろん異世界召喚されたみなさんも使えます。ただし異世界の方々は強大な魔力回路を保有しているそうなのですが、魔力回路を起動させるための動力を持っていないんだそうです。その動力を得る方法のひとつに勇者の儀式を行い、勇者になるというのがありますわ」
シルヴァニアは魔術の説明をしながらも、勇者になるメリットを添えていく。
「なるほど、俺たちは勇者にならなければ、魔術を使えない能無しになる可能性があるわけか……」
レオニードはシルヴァニアの失言を誘うように言う。
「能無しだなんて……そんな言い方はしなくてもよろしいのではありません? みなさまはわたしが責任をもって生活させますわ」
シルヴァニアはレオニードの思惑に乗らないように巧みにかわそうとする。
「ふん……そういうことにしておくか」
レオニードはシルヴァニアが乗ってこないのがわかるとすぐに引き下がった。
――レオニードはなんでシルヴァニアさんに強くあたるのかな。
なにか気にさわることでもあるのか?
それともただ単に嫌味な奴なだけか……。
ライはレオニードの態度が気に食わなかった。
シルヴァニアは一通り魔術研究所を案内すると、召喚者たちを奥の部屋へと入るように案内した。その部屋には大きな水晶が鎮座していた。
「みなさまの魔力回路を調べることはいまでも出来ます。魔力回路は人それぞれ個性があって、熱を扱える回路、大気を扱える回路など、千差万別ですわ」
シルヴァニアは魔術の魅力をライたちに伝えようとひとつひとつ丁寧に説明しようとする。
――魔術回路か……ゲームとかである属性のことかな?
熱の回路は火や冷気とか温度と関係がある魔術。
大気の回路は風とか電気に関係がある魔術かな?
僕はどんな魔術回路なんだろう?
すごい魔術が使えるのだといいなぁ。
ライは自身の魔術回路がどんなものなのか興味深々で、ワクワクするのを抑えきれないでいた。
「ここにある魔術回路測定器は、まだ魔術を刻まれていない魔術回路の数と種類を調べることが出来ます」
シルヴァニアは目の前にある水晶を指差して言った。
「魔術を刻む? なんだそれは?」
レオニードは刻むという言葉が引っ掛かり質問した。
「魔術は魔力があればどんな魔術でも使えるわけではありません。魔術を使うには魔術回路に適合する魔術をあらかじめ刻んでおく必要があります。
例えばわたしの熱の魔術回路には火炎球の魔術が刻んであります。火炎球の魔術を魔術回路にあらかじめ刻んでいるため、わたしは火炎球を発動させることが出来るのです」
シルヴァニアは魔術の話をしているとき目を輝かせていた。きっと魔術のことを話すのが好きなんだとライは思った。
「魔術を刻むか……」
「ここから先の話は魔術を使えるようになったときに詳しく説明いたしますね」
シルヴァニアは話足りなそう顔をしていて、我慢をするように言う。
「……なんで魔術回路測定器とやらに案内をしたんだ?」
レオニードはシルヴァニアの目的を測るために聞いた。
「みなさまじは自身がどのような魔術を使えるようになるのか知りたくありませんか? みなさまはこちらの世界にきたばかり、魔術回路には何も刻まれていない状態です。ここでいま調べておけば魔術を刻むとき、楽に選べるようになります」
シルヴァニアは早くライたちの魔術回路の結果を知りたいのかウズウズしながら答えた。
「……俺から調べろ」
レオニードは魔術回路を調べる順番の一番手に名乗りを挙げた。
――シルヴァニアさんは僕たちのことを大切にしてくれてるんだなぁ。
それなのにレオニードは終始しかめっ面か。
王子さまってやつはこういう奴ばかりなんだろうか?
少しはシルヴァニアさんを見習って欲しいよ。
ほんと。
ライはシルヴァニアとレオニードが同じ王族なのに、なんでこんなに差があるのか疑問に思った。
ライがいらぬ考えをしている間に、魔術回路測定器の使用準備が済んだのか、レオニードとシルヴァニアが水晶の前に立っていた。
「それではレオニードさま。そちらにあります球体の水晶に触れてみてください」
シルヴァニアの言われたとおりに、レオニードが球体に触れると水晶はキラキラと光り、水晶に文字が浮かび挙がる。その浮かび挙がってきた文字を見たシルヴァニアは驚愕した。
「すごいわ。レオニードさまは魔術回路が百種以上あります。こんなに魔術回路が有る人は世界を探しても10人もいませんわ」
シルヴァニアは自分のことのように大喜びではしゃいでいた。
――レオニード……まさかよくある異世界転生の主人公キャラか!?
現代の世界で王子、この世界ではチートキャラ……。
こいつ恵まれすぎだろ。
レオニードは自身の魔術回路の結果を知っても微動だにせずに立ち尽くしていた。そしてわずかに唇が動く。
「……な…………起き……いか、いや気……かない可能性も……」
――ん? レオニードの奴なんか呟いてる?
ここからだとよく聞こえないや。
ライはレオニードがつぶやいたと思わしき言葉を聞き取ることが出来なかった。
「それでは、他のみなさまも調べてみてはいかがでしょうか?」
シルヴァニアはレオニードの結果により、他の召喚者の魔術回路も期待が持てそうと思ったのか、顔が喜びに溢れている。
「はい、はい、つぎあたちやりたい!!」
次に名乗りを挙げたのは召喚者の中で唯一の小学生の『古井里ネネ』であった。ネネは元気よく手を挙げ、水晶を触りにいく。
「なにがでるかな、なにがでるかな」
ネネは結果が出るのを楽しそうに待っていた。
――うむ、小学生を見てると和むなぁ。
まて、決して僕がロリコンだからではない。決して。
ネネの魔術回路の測定が終わるとまたもシルヴァニアが声をあげる。
「あら、ネネちゃんもすごいわ。魔術回路は88個、レオニード様には届きませんでしたけども、我が国の宮廷魔術師の二倍はあります。それに珍しい魔術回路もお持ちですよ」
「わーいやったー」
ネネは結果がよかったのを純粋に喜び、ぴょんぴょんと跳ねていた。
――無邪気に喜ぶ少女……いい!
まてはやまるな、僕はロリではない、決して。
「次の方どうぞ」
このようにして召喚者たちは順番に水晶を触り、自分の魔術回路の数と種類を調べていった。そして次は最後尾にいたライの番にさしかかる。
――さあ真打ち登場といこうじゃないか。
先程の騎士との件の汚名返上だ。
ライはここでいい結果を出して、シルヴァニアに褒めてもらおうと淡い期待を描いていた。
「それではライさまで最後ですね。どうぞ水晶をおさわりください」
ライは緊張の面持ちで水晶へと触れる。
――さあぁどんな結果だろう。
胸がドキドキするよ。
シルヴァニアさんが近くにいるからじゃないぞ。
この距離なのにいい香りがするとかそんなことでドキドキしてないぞ。
魔術回路が気になってるだけだからな。
ライはわくわくしながら水晶に触れ続ける。そして測定結果が徐々に水晶に浮かび挙がった。
「こ……これは……」
シルヴァニアは結果を見て驚いた。
――ん? シルヴァニアさんが口に手をあてて驚いている!?
まさかついに僕にチートが!
「ライさま」
シルヴァニアはライに静かに語りかける。
「は……はい。なんでしょうか?」
ライは緊張し過ぎて心臓の鼓動の音がドクドクするのを感じた。しかしライの緊張とは裏腹にシルヴァニアの顔色は悪くなっていく。
「……ライさまの魔術回路の数は……ゼロです……」
――えっ……。
ライは最初、何を言われたのかわからなかった。そのあともシルヴァニアがライに話しかけていたが、ライの頭の中にはゼロという衝撃の言葉しか頭の中に残っていなかった。
9月17日に改稿しました。辛口感想お待ちしています。