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知らぬ間に勇者になりました。ー天秤の勇者になるまでの軌跡ー  作者: 九渡
第二章チャプター1 ー勇者殺しー
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45 ライという男、呪いとは……

 バニラ食堂二階個室、ハルカがベッドで健やかに寝てる横で作戦会議が行われようとしていた。


「ライさん。事件を今晩で終わらせるとはどういうことでしょうか」

 エリィはアマラの前なので丁寧な口調でライに詳細を聞こうとする。


「うん。勇者狩りを捕まえるための方法を思いついたんだ」

「勇者狩りを? どういうことでしょうか?」

「ちょっと詳しいことは言えない部分もあるけど、必ず勇者狩りが僕を襲う方法があるんだ」

「ライさんを勇者狩りが襲う? すみませんがライさんは勇者ではありませんよね? それなのに勇者狩りがライさんを襲うなどありえるのでしょうか」

 エリィの疑問はもっともであった。いままで勇者狩りの被害者はすべて勇者のみだからだ。


「勇者狩りはどうやって標的を絞ってたかエリィさんはわかる?」

「そうですね。勇者の方々はハンター協会や商業ギルドなど、どこかに所属していることが主なのでそこから探したのではないでしょうか」

「うん。僕もそう思う。でもそれは最初だけだと思うんだ。勇者狩りがこの街に出没してから、誰が勇者のことを調べていたか、とかをハンター協会はもちろん把握してた。でもその中に犯人と思わしき人はいままでいなかった、だから現在も犯人が誰かまったくつかめていないんだ」

 ライの言ったとおり、ハンター協会では誰が勇者のことを調べていたかを把握していた。しかし怪しい人物に行き当たることはなかった。


「だから僕は他の可能性を考えたんだ」

「他の可能性ですか? それは犯人が相手を鑑定する能力を有しているということですか?」

「エリィさんの言う可能性もあるけども、それだったら犯行が一時期収まったのが説明できない。また相手を鑑定するほどの能力をもっている人はごくわずか、そんな人は勇者狩りなんかしないと思うんだ。僕が思う犯人像は無名な人だから」

 ライは自身を持って言葉を発する。エリィはそんなライを見て、さっきアマラから聞いた話を頭の中によぎらせる。


「犯人は当初知っている勇者だけを襲ってた思うんだ。でももう襲えそうな人物が少なくなって困った犯人はある犯行を計画した。それが神の目プロビデンスを盗むこと」

「まさか、二つの事件の犯人は同一犯ということ?」

「うん。犯人はプロビデンスで人を鑑定して標的を探しているんだ。だから、最近の勇者狩りの標的はなりたての勇者や、弱い人ばかり、襲いやすくしとめ易いからだと思う」

「そうね。それなら説明はつくわね」

 エリィはライの言っている内容に一理あると感じた。


「待てアーよ。プロビデンスを使って鑑定したとしても問題があるぞ。ステータスの鑑定で能力などははっきりと見ることが出来るかもかもしれない。でも勇者というのはある種の称号のようなものだ。ウーが名乗っている真紅の勇者も称号。人によっては勇者という表記が無いものもいる。ましてやなり立ての勇者はクラスを付けていないものが多い」

「うん。そのとおり。でも勇者と勇者でない人の区別は魔核があるかどうか。勇者になった人は魔核の表記が必ずあるでしょう。だから勇者狩りは魔核の表記がある人を狙えばいいだけになる」

 この世界の勇者は体内に魔核を有しているかどうか、命をかけて魔核を手に入れる勇気がある者のことを勇者と呼ぶ。ステータスにあるクラスはただの名乗りや称号、その人がどのような人であるを示すだけのものだ。ライがステータスの名前の表記を変更したように、自身の意思で誰でも簡単に変更することが可能なものである。        


「そうね。勇者狩りの目的は勇者から魔核の魔素を奪うこと。別にステータスに勇者って表記してなくても問題はないのでしょう。でもライさん。あなたが勇者狩りに襲われる理由にはならないわ。それともまさかあなたは魔核を有しているのですか? たしかあなたは先ほど勇者ではないと言ってなかったかしら?」


「うん。僕は勇者じゃない。でも僕には魔核がある」

 ライの体内には魔核がある。いまもライの命を削り続けている魔核が存在するのだ。


「意味がわかりません。それは……ライさんが勇者ということではないの?」

 エリィは魔核があることが勇者であると考える。もちろん世間一般的にも同じ認識である。しかしライの認識は違う。ライ自身は魔核に食われているだけ、勇気もへったくれもない。体内にある魔核に食われているままだと勇者とは呼ばない――勇者とは思いたくない。だからライのステータスのクラスには『勇者の出来損ない』と表記されている。そのクラスこそがライはいまはただの人であると思っている証明である。


「ううん。僕は勇者じゃない。でも魔核はあるんだ。詳しくは聞かないで欲しいな」

 ライはエリィに自身のことを伝えたくなかった。ライは身の内をなるべく人に知られるのを避けたい。


「エリィ」

 アマラは聞きたそうにしていたエリィをおさめるように声をかけた。アマラ自身はリブラからライの身のうちを聞かされた。しかしリブラからだ。きっとライの口から身のうちが語られる可能性は無いと思ってのことである。

 それでも聞きたそうなエリィであったが、アマラの前で無理やり聞こうとするのはばかれたので聞くのを諦め、その代わり作戦を聞こうとする。


「それで、具体的な勇者狩りをおびき出す作戦はどうするのでしょうか?」

「それは簡単、僕がいまから街中を歩きまわるだけだよ」

『はっ??』

「もちろん。ただ歩き回るんじゃなくて、考えて歩き回るから。そして僕が襲われたらアマラとエリィに犯人を捕まえて欲しいんだ。ね。簡単な作戦でしょ?」

 ライが自身満々に言った作戦が余りに単純でアマラとエリィは聞き間違えたかとわれを疑う。


「アーよ。それは作戦なのか? そんなので勇者狩りが現れるとは到底思えないのだけど……」

「うん。大丈夫。高確率で勇者狩りは来るよ」

「その自信の根拠はどこから出てくるのでしょうか……」

 アマラとエリィは流石に飽きれた顔をした。


「根拠は三つ、僕が魔核を有していること、僕が弱いこと、そして――」

【神々の呪いを有していることじゃな】

「みっつめは秘密かな」

 ライは笑う。いままで不幸なことが起きたあと、自身を苦しみから救済するためにしていた笑顔を。


 ――でも、今回は違う。

 苦しみを失くすために笑うんだから。


 ライにかかっている『神々の呪い』。これまでライを苦しめていた呪い、人に命を狙われる呪い、夜に襲われる呪い、事件に巻き込まれる呪い、数多あまたの呪いをライは初めて有効活用しようとしていた。


【深夜に一人歩き。おぬしにとっておあつらえむきな状況。襲われぬわけがないじゃろうな】


 ライはひとり街中を彷徨う。

 案の定ライは襲われる。

 これが天童ライという男の運命。

二話前の説明のお話でした。次は勇者狩りを捕縛している場面になります。



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