44 女の談話、アマラの内心……
ライが夜風に当たっている時間軸のお話。
「おねえさま。あのライという男は何なのですか」
バニラの食堂一階で夕食を食べていたエリィとアマラはのんびりと二人で食事を取りながら談話していた。
「おねえさまが他の人とともに行動しているなんて珍しすぎます。というか初めて見ましたわ」
アマラは普段個人行動しかしない。いても運び屋や馬車の操縦者など一時的な同行しかいままでしていなかった。なぜならばいままでパーティに誘ってくる人すべてに虚偽の影が付き纏っていたからだ。アマラの容姿、腕前、アマラは自分を見る視線が痛く感じていた。友達のエリィでさえ虚偽の影を纏っている。しかしエリィはその虚偽を全面に出してくるから他の人より付き合うことが出来ていた。
「ライはそうね……なんかほっとけない気がするのよ」
その点ライはなぜだかわからないが虚偽の影が薄かった。というより嘘を吐こうとすると顔で直ぐにわかった。ライ自身は隠そうとしているのかもしれないが何を考えているのか顔にすべて表れている、周りの人から見たら一目瞭然、すぐにわかる。ライは嘘を吐くのが下手な人なのだ。、きっと世渡りが下手なタイプ、でもだからこそアマラはライと同行してもいいと思えた。ころころ表情が変わるなんてまるで犬みたい、そう育ての親に少し似ている気がしたから。
「なんですかその顔……おねえさまのそんな顔初めて見ます」
アマラはライのことを話していると自然と顔がほころんでいた。
「そうな変な顔してる?」
「いえ。そうではありません……」
「エリィこそなんであんなにライのこと気にくわなそうなのよ?」
エリィはライのことが憎く思えた。エリィとアマラは小さい頃に出会い、アマラの強さに憧れてエリィもハンターになろうと志した。強くなってアマラと一緒に旅をする。それだけを目標にいままでハンターをしていたのに誰ともわからない男に横からその座を奪われ、さらにはアマラが見せた幸せそうな顔、そんなものまで横から掻っ攫われたのだからエリィは内心ライに対して敵対意識しか持つここが出来ずにいた。
「……おねえさま。わたしはライという男がお姉さまの横を歩く資格は無いと思っています。あの男もいままでの人といっしょで、きっとおねえさまの名声と腕だけが目的です。そうです。旅人とかいっておねえさまを利用しているだけですわ」
エリィはまくし立てるようにライを非難しようとする。
「そうね。でもライに限ってそれはないと思うわ」
アマラはあっけらかんとした態度で言う。
「なぜそう思うんですの……」
エリィが不思議そうな顔で問うとアマラはくすっと笑い答えた。
「ライはウーよりも強いわ。だから利用してるのはむしろウーのほう」
「なっ……」
エリィは絶句した。ライがアマラより強いといわれてありえるはずが無いと思ったからだ。アマラは世界でも有数の実力者、ハンターのなかでトップ10に入る腕前、それより強いはずがない。そんな人物ならば無名なはずがない。でもライなど聞いたこともない。今朝こっそりと懐をさぐったときに拝見したライのハンターランクは白色。勇者はハンターに登録したときから黒色から始まる。つまりライは勇者でもない。それなのにアマラより強いなどと言われて信じれるわけがなかった。
「あの男は勇者ではないのですよ。まさか魔導師なのですか……いえそれでもありえませんわね。ただの普人族の魔術回路の限界は上級まで、それでもおねえさまにはかなうはずがありえませんわ」
「そうね。ライは勇者でも、魔導師でもないわ。でもウーより強いのは確実よ。だってウーはライに命を救われたんだから」
「おねえさまの命を救っ……た」
エリィはわけがわからなかった。アマラは王級の魔物でも単独撃破できる。そんな人物から命を救う状況、アマラが危機的状況に追い込まれる相手がいたこと、邪悪龍の件を知らないエリィにとって予想も出来ない発言であった。
「エリィの見立てどおりライの身体能力は低いと思うわよ。でももしいまウーとライが戦ったらウーは負けると思う」
「……あの男はなにか特殊な能力でもあるのですか?」
エリィは思案する。種族特性のような特殊能力、神の信仰により得られる加護、希少な魔術回路、ライがアマラに勝つならばなにかしらの特別な能力を有していると考えたのだ。
「ふふ、それはウーからは言えないわ。アー自身で感じ取るといいわ」
アマラは邪悪龍のときにみせたライの体捌き、進化を逆行させた力、そしてリブラのことを言わない。きっとライも言って欲しくない話であると思ったからだ。アマラは嘘を嫌う、嘘を言われると信用を裏切られた気分になるから、もしここでリブラのことをアマラ自身がエリィに言ったらライは裏切られた気分にさせるかもしれない――だから言わない。
「わかりました。わたし自身の目であの男を判断しますわ」
「そうして。きっといつかエリィもウーと同じ結論に達するわ」
アマラのライへの信頼度の高さに、エリィはさらにライのことを嫌いになっていく。
「まあ。ライの話はここまでにして、ウーたちは事件のこと考えないと」
「そうですわね。今日街を歩き周っても同じ情報ばかりで何も成果はありませんでしたし、どうしましょう」
アマラとエリィは頭を抱える。街にはありふれた情報や憶測しかなかった。そんな情報は誰もが知っていることばかり、なにか犯人の決定打になる情報ないものか、いままで聞いた話を談話しながら整理していく。そのようにして進展ない会話をしていると、店の扉が開きこちらに向かって声がかけられた。
「アマラ」
名前を呼ばれたアマラは声がしたほうを振り向くと、そこにはライがいた。
「ん。アーよどうした? あの子のそばにいたのではなかったのか?」
アマラはライが外に夜風を浴びに行ったことを知らなかったのでなにげなく聞いた。だがすぐにライの様子が違うことに気づく。
「アマラ、エリィ、大事な話がある」
ライは真剣な眼差しで言う。アマラはその表情に見覚えがあった。邪悪龍に単身突撃したときの顔、自身の心が揺れ動いたときの顔。
「アーよ。それはどんな話」
アマラに問われライは芯のこもった瞳で返す。
「今晩で事件を終わらせる話だよ」
アマラは自身の考えに間違えはないと思う。やはりライはウーよりも強い、と。




