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知らぬ間に勇者になりました。ー天秤の勇者になるまでの軌跡ー  作者: 九渡
第二章チャプター1 ー勇者殺しー
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40 周りには女性、眼前には……

 バニラの食堂二階、その一室にて、ライは正座をしていた。そんなライの周りにはアマラとエリィが腕組みをしてそびえ立っていた。

「あのーアマラさん? なんで僕は正座させられているのでしょうか?」

「ウーたちが事件について調べているときに、アーこそなにをしていたのだ? そんな小さな子と仲良くなってなにをしていたのだ」

 アマラはライに対して目を細めて――軽蔑の目線を送りながら問う。

「その……僕もこの子がどなたか知らないのですが……」

 ライは女性から厳しい視線で見られて身体が縮みあがっていた。

「ふーん。あなたにこんなにべったり懐いている子を知らないのですか……犯罪の匂いがぷんぷんですね」

 エリィはライの膝の上にべったりと顔を押し付けて幸せそうな幼女を見て言う。

「僕が一番知りたいよ」

 ライは女性に問い詰められ、いまにも泣きそうな顔である。

「……ねぇ。アーのお名前はなんていうのかな?」

 アマラは幼女に優しく微笑み、幼女の目線に合わせるように膝を折りながら聞いてみた。

 幼女は幸せな時間を邪魔されて、頬っぺたを膨らましながらも口を開ける。

「あなたこそだれよ? ライちゃんのなに?」

「ウーはアマラ。ライとは旅の仲間みたいなものよ」

「旅の仲間ね……あたしはハルカ」

「ハルカか。ときにハルカはライとはどのような関係なのだ?」

「あたしとライくんは小さい頃に結婚する約束した仲なんだからね」

 ハルカと名のった幼女はアマラをじろじろと凝視すると。

「あたしのライくんにあんまり近づかないでよね。メス猫さん」

「メスねこって。はは。ウーは猫族の獣人じゃなくて狼系の獣人なんだけどね」

 アマラはハルカにメス猫と言われて少し頭にきたが、幼い子に怒るのは大人気ないと思い平静を装うように振舞う。

「それで、犯罪者のあなたに心当たりはあるのですか?」

「いや……ちょっと心当たりはないかも……」

 エリィに聞かれてライはハルカのことを思いだそうとするが、心当たりがあるはずがなかった。この世界に来て間もないのだから知り合う機会などあるはずがない。

「えっ……あたしのこと覚えてないの? ほら一緒に小さい頃公園で遊んだり、二人で森の中で一緒に探検したりしたハルカだよ」

「小さい頃って言っても僕はこの……」

 ライは自身が異世界から召喚された人だと言おうしたが途中で言うのをためらった。アマラはリブラから聞いているかもしれないが、エリィには自身の素性を教えたくなかった。なぜならばライは召喚されたことを人に知られたくないと考えていたからだ。自身に関係ないところで目立ちたくなく、面倒ごとが嫌いなライは自分から不必要に面倒ごとになりそうなことを避けたいと思っていた。

「そんな……ライくんがあたしのこと忘れるはずがないよ。ライくんに覚えてもらえてないなんてありえない。あたしはなんのためにここまで……もういい……」

 ハルカはライから距離をとるとマントの中からナイフを取り出し、ライに切っ先を向ける。

「ちょ! ちょっと落ち着いて」

 ライは突然ハルカからナイフを向けられ、正座から立ち上がろうとするが、足がしびれてうまく立つことが出来なかった。

「落ち着きなさいハルカちゃん。その手に持ってるナイフは危ないよ。ウーに渡しなさい」

「おねえさまの言うとおりにしなさい」

 アマラは本気で危ないと思い言っているが、エリィはあわよくば刺されてしまえとでも思っているような様子であった。

「あたしの邪魔するならあなたたちも容赦しないよ」

 そういうと、ハルカの背中から――マントの下から凶悪な殺気が漏れてくる気配が現れた。

「なぁ!? なんだこの気配は……」

 アマラは突如現れた気配に驚き、あまりの殺気に後ずさりをするが、ここは狭い部屋の中、すぐ後ろのベッドまでしか下がることは出来ない。

「みんな死んでしまえばいいんだ……」

 ハルカがつぶやく。目は虚ろで、さっきまでの幸せそうな顔が嘘のようだった。

「……死ね」

 ハルカの背中からなにか触手のようなものが見えると、その触手はグイっとライの頭をめがけて迫る。

 ーあっ。

 ーこれ死ぬわ。

 ライは迫る触手を避けようとするも足が痺れているため反応することが出来なかった。

【おぬし、小さい頃誘拐されたハルカじゃ】

「えっはるちゃん?」

 ライはリブラに声をかけられて声を漏らす。すると迫っていた触手が眼前でピタリと止まった。

「……ライくん……もしかして思い出したの?」

「本当にはるちゃんなの? いやだってはるちゃんは僕と同い年で…えっ!? どういうこと?」

「そうだよ。はるちゃんだよ。あなたの春香はるかだよ」

 ライは目の前にいる幼女が春香といわれても信じられなかった。はるちゃんとは小学校のときのある事件から会うことはなくなったが、はるちゃんはライと同い年――幼女のはずがなかった。

「その姿は……なに?」

 ライが困惑していると、眼前にあった触手をマントの中にずるずると仕舞い込んでいたハルカは。

「うふ。ライくんに会ったときおばさんになってるのイヤだったから、若さそのままにしちゃった」

 照れながら重大そうなことをさらっと言った。

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