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知らぬ間に勇者になりました。ー天秤の勇者になるまでの軌跡ー  作者: 九渡
第二章チャプター1 ー勇者殺しー
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39 一難去って、また一難……

 ーさて、どこからあたろうか。

 ライはこの街のことを右も左もわからない。なのでいまのところは手当たり次第に声をかけようと考えていた。話しかけやすそうな人を求めて街中を歩くライだったが、しかし早くも問題が発生していた。

 ーうーん。

 ーいきなり人にはなしかけるってハードル高くない?

 ライが初対面の人に話しかける度胸など持ち合わせているはずがなかった。よくある話しだと酒場や商売人の人に話しかけて情報を仕入れることが多いが、よく考えてみるとまったく知らない人にいきなり話しかけることなんて出来るであろうか。初対面の人にこちらから声をかけるなどという度胸があればライのこれまでの人生はもっと充実したものであったのは明白であり、いまの他人任せな性格はそんな度胸を持ち合わせていないから出来上がったといっても過言ではなかった。

【うむ。おぬしには難関であろうな】

 もちろんリブラも腰抜けとライのことをわずかばかりに、いや過半数は思っていたのでこの展開は予想していた。

 ーどうしよう。

 ーなにかいい案ない?

 ライは街中で何をすればよいか、棒のように立ち尽くしていることしか出来なかった。そんな棒人間に成り果てているライの腰を後ろからソフトタッチでつつく人影がひとつ。ライはつついている人を確認しようと振り返るとそこには。

「街中でたちっぱでなにしてるの?不審者なの?」

 昨日会ったときよりもカラフルな衣装を着ている情報屋のビビットがいた。

「あっどうも」

 ビビットは女性らしさを感じる甘い香りと立ち振る舞いをしている。

「なにか困りごとなの?ならあたしに相談してみるの」

 ビビットはエリィとは違って小ぶりな果実で胸を張りながらそう言った。

 ライはビビットに相談するのは有りだと思った。このまま誰からも情報を得られないよりかは、情報屋であるビビットから話しを聞いたほうが有益としたからだ。

「えと、いま僕マジックアイテムの盗難について調べてるんだ、なにか犯人の目星とか知らないかな?」

「なの。商業ギルドの話しは知っているの?」

「ハンター協会が提示してることまでなら」

「そこまで知ってるならいいなの。あたしが仕入れた情報によると、プロビデンスは相手を鑑定するだけのマジックアイテムじゃないかも知れないの」

「それならどんな効果があるアイテムなのさ?

「なの、詳しいことはあたしもまだ調べ切れてないの。ただプロビデンスはにもしかしたら生物の魔術回路マジックセルと同じような効力を持ってるかもしれないの」

「魔術回路と同じ?」

「魔術回路のことは知ってるの?生物の魔術回路は魔術というデータを先にインプットしておかないといけないの。そしてメモリー代わりの魔術回路は登録してある魔術のデータをアウトプットすることで魔術というものがこの世界に顕現されることになるの。ここまではわかるなの?」

「なんとなくは」

「なの。普通のマジックアイテムは生物の魔術回路とは違って、インプットした魔術を顕現させる回数が決まってるの。でも生物の魔術回路の場合は時間が経てば使用回数が回復するの。そして一番ちがうのがマジックアイテムは一度インプットした魔術はデリート出来ないの。でも生物の魔術回路の場合、インプットしたりデリートしたりと好きなように設定できるの。もしほんとうにプロビデンスが生物の魔術回路と同じ効力を有していたらすごいことなの。さすが伝説級のアイテムなの」

 ビビットは話しをしていくうちに気分が高揚してきたのか腕をぶんぶんと上下に小刻みと振っていた。

「そんなにすごいアイテムなんだね。それは船を出向停止までさせる訳だ」

 ライは漠然としか理解していなかったが、ビビットのはしゃぐ様子から伝説級のアイテムってすごいんだ、と捉えた。ライが知る由のないことだが、この世界で発見されている伝説級のアイテムの大半は国宝クラス。二つ以上所持しているのは大国といわれる国々のみであった。

「なの。この話しは本題でないの。本題はプロビデンスの行方なの」

「そうだね。いま誰が所持しているか」

 ビビットはさっきまでの高揚した態度から内緒話をするような態度へと変えると。

「あたしの調べだと、犯人は単独犯の勇者が怪しいとにらんでいるの」

 ライの耳元でささやいた。ライは甘い香りと異性が近くにいるという状況に一瞬ドキッとしたが、不思議なことに、最初は驚いたがすぐにビビットが近くにいても気持ちが揺らぐことはなくなった。

「なんでそう思うの?」

「犯行に使われた経路が狭すぎたの。複数犯ならもっと道幅を広く作る必要があったの」

「道が狭いのか…それでほかには?」

「なの。宝物庫に侵入したにも関わらずプロビデンスのみを盗んでたの。複数犯ならたくさんの思惑が交差して、ほかの宝にも手をつけるものなの。お金やアイテムの分配を考えるとひとつのみを盗んだから単独犯が怪しいの」

 確かにビビットの言っていることは一理あった。現代でも強盗団などの複数犯の場合、大量に金目の物を盗み、その後盗んだものを換金するものである。また今回の場合はプロビデンスという有名なアイテムなことから金に換金する目的とは思えない。例外として誰かの依頼で盗んだ場合もあるが、その可能性も低そうである。伝説級のアイテムを盗もうとしているのに、盗みを依頼したものが協力もせずに、一人分の穴の通路で盗ませるとは考えずらい。

「なるほどね。それでなんで勇者が怪しいと思ったの?」

「それは簡単なの。単独犯だった場合、勇者じゃなかったらこんな芸当無理に等しいからなの」

「はあぁ。さいですか」

 単独犯と推理したときとは運伝の差で論理が安着であった。

「うーん、犯人を勇者に特定するなら案外簡単に見つかりそうだね」

「それがそうでもないの。どうやって勇者と特定するかが難しいの」

「えっ? でも相手を鑑定すれば簡単に見つかるんじゃないの?」

 前にライはザウラース城にて、知らぬ間にステータスを鑑定されていたので思いついた。

「なの?人のステータスを鑑定する魔術なんて最上級に分類される魔術、そんな使い手とそう簡単に会えないの」

「そうなの?」

 人のステータスを鑑定する魔術は希少な魔術回路、補助系分析類最上級に分類される高等魔術であった。ライたちが異世界に召喚されてすぐに第二王女シルヴァニアたちから鑑定されなかったのも、この魔術の使い手がめったにいないからである。

「だから、もぐりの勇者がいたらわからないの」

「そっか。そう簡単にはことは進まないか」

「そういうもんなの」

「でもありがとう。結構有力な情報だったよ。さっそくアマラたちにも伝えるよ」

「お役に立ててよかったの」

 ビビットはにこりと笑い右手を差し出した。

「これなに?」

「情報料いただくの」

「えっ!?お得意さまになるかもしれないから無料だってこのあいだ言ってたじゃないか!?」

 にやりと微笑むとビビットは。

「それは真紅の勇者アマラのことなの。きみは違うの。名前も知らないような無名な人をお得意さまなんかに出来ないの」

「そんあぁ。てっきり無料だと思ったからきいたのに」

「それはそっちの勝手な勘違いなの。あたしは情報屋なの。情報を売り物にしてるのだからそうやすやすと無料なんかにしないの。そんなことしてたら食い扶持がなくなるの」

「……お代はいくら……」

「情報料1万バルになります」

「ちょ! ちょっと高いよ!?」

 この世界に流通しているお金は『バル』と呼ばれる通貨が使用されている。お金の価値は簡単に言うとドルのようなものである。そしてザウラース城から出て行くときに旅の路銀としてシルヴァニアたちから支給されたのは5千バルほどであった。このあいだの邪悪龍の依頼の代金を含めても1万バルという大金を支払うことは出来そうになかった。

「そうはいってもあたしはこの金額一律で情報屋を営んでいるの。君だけ安くしたりしたら他のお客さんに失礼なの。払えないならあたしも出るとこでるの。それとも同行者の方に支払ってもらうの?」

 ビビットの術中に見事にはまったライであった。

 ーどうしよう。

 ーどうしよう。

 悪徳借金取りに取立てをされているかのような心境のライは、だらだらと背中から水分を噴き出たせる作業をするのみであった。

「さあ。どうするの?」

 ビビットに詰み寄られ、ライの顔から血の気が徐々に引いてきていると。どこからかビビットの目の前に巾着袋が差し出された。

「お姉さん。はい1万バル。これでいいんでしょう?」

 お金を差し出したのはライが見たこともない幼女であった。

「……確かに1万バル入ってるの」

「それじゃあもう用はないよね?」

 幼女はビビットにドヤ顔をした。

「毎度ありなの。また情報屋ビビットをよろしくなの。召喚者さんまたよろしくなの」

 そういってビビットはお金の入った巾着袋を両手に持ち、甘い香りを残して去っていった。

「………」

 ー召喚者さんって。

 ー絶対に僕のこと知ってたじゃないか。

 ライはビビットを、情報屋は用心しなければとつねづねと心に刻み込んだ。

「ねぇ。きみこの世界に召喚された人?」

「あっうん。この間この世界に召喚されたんだ。あのーそれで助けてくれてありがとう」

 ライを助けてくれた幼女にお礼を込めて正直に言った。

「べつにいいよ。あんなはした金いくらでもあるし」

 ライは幼女がどこかのお嬢様なのではないかと思った。幼女を見ると外見をすっぽりと隠すことが出来るほどの大きなマントに、着ている服はこの世界でも高そうなしっかりとした生地の洋服を着込んでいた。

「あのさ。私もきみと同じでこの世界に召喚されたんだ」

「えっ!? そうなの!?」

「うん。それでなんだけどきみに聞きたい事があるの」

「なに。何だって聞いてよ。僕が答えられることなら何でも言うよ」

 ライは助けてもらった恩を返そうと元気よく応えた。

「うん。今回の召喚者の中に天童頼武羅って人いなかった?私その人を探しているの」

「え!!」

 ライは知らない幼女から自身の本名を言われてとまどった。

「知ってるの?知ってるなら教えて!!」

 懇願するような幼女を見たライは。

「……僕が天童です。きみはなんで僕を探しているの?」

「う……そ……」

「うそじゃないです。僕が天童頼武羅です。なんできみは僕の本名を知っているの?この世界に来てから誰にも言ってないのに」

 幼女はライが嘘をいっていないことを悟りうつむく、そして幼女の目からぽたぽたと涙が流れ始めた。

「ちょ、ちょっと。なんで泣くの!?」

 ライはいきなり幼女が泣き出したのであわあわと焦りだした。

「……っ……と……や……と……」

「なに? なに言ってるの?」

 幼女がなんといっているのか聞き耳を立てていると。

「やっと会えたーライちゃん」

 幼女はガバッと大胆に飛びついてきた。

「なに? なに? 知り合い? きみだれ?」

 幼女にぎゅうぎゅうに抱きつかれているライ。そこに偶然に通りかかる。

「アーはやはりリブラが言ってたとおりロリコンとかいうのだったのか」

 愕然としたアマラと。

「気持ちが悪いです」

 アマラの後ろに控えるようにしている、エリィが汚物をみるような目でこちらを見ていた。

「だれか説明してー」

【うむ。われの言ってた通り、おぬしの女難は昔からのようじゃな】

 この場でリブラだけが冷静に状況を把握していた。


やっと主要キャラが出揃って参りました。

説明の話数を抜いてここでやっと10万字。

ライの冒険はこれからだ!!


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