37 女難はいつから?、ふたつもみっつも同じ……
バニラの食堂一階でひとつのテーブルを囲い朝食を食べる三人。
「おねえさまはこの街でいま話題になっています事件を知っていらっしゃいますか?」
おしとやかモードのエリィはアマラと楽しく食事を取っていた。
「勇者狩りとマジックアイテムの盗難事件のことね」
朝から骨つき肉をほおばるアマラはビビットから聞いた事件のことを言う。
「さすがおねえさま。情報のお耳が早いですわ」
「その事件のことなんだけど、ウーたち二人も探してみようかと思ってるのよ」
「まあ、おねえさまが参戦しますならこんな事件あっというまに解決しそうですね」
「そうだといいけど。……とりあえず今日はハンター協会に足を運ぶわ」
「それならばわたくしもお共致しますわ」
エリィとアマラは二人で会話をしている。そんなふたりを他所にひとり黙々と朝食を取るライは暇だったのでリブラと会話をしていた。
ーリブラ。
ーこのエリィって女性はこのままついてきそうな感じだけど大丈夫かなぁ。
ライはエリィのことを恐れていた。というかアマラと関わってきた男性でエリィのことを恐れていない人はいないに等しい。アマラと親しくなろうとしてきた男性はいままでひそかに影でエリィによって始末されてきているからだ。
【この猫娘は面白いのう。われはこういう娘は好きじゃよ。だから大丈夫じゃ】
ーぜんぜん説得力がないんだけど。
ー当事者じゃないから楽観的にみてるでしょ?
【なにをいう。おぬしの女難はいまにはじまったことではなかろうに。いままでどおりではないのかのう?】
リブラの言うとおり。ライは女性との運がない。つまり女難である。それというのも神々の呪いという数々の呪いの中に女難の呪いというのが含まれているからだ。
ライは小さい頃から女性にいじめられてきている。仲良くしていた女友達は罰ゲームで仲良くするフリをしているだけであったり、中学のころは学校中の女性から無視されてきた。だからこそ高校は男子校に行くしかない状況にまでなった経歴がある。
ーうぐぅ。
ーそうだけどさぁ。
ーアマラはまだいいけど、エリィとは同行したくないよ。
だからといってライは女性が嫌いというわけではない。むしろ大好きである。ライは女性に少しでも優しくされるとコロリと恋に落ちるほど女性のことが好きだった。しかし逆に活発な女性が苦手である。そしてエリィのような特殊なタイプはもちろん苦手だ。
【なーに。小娘と仲がよいのじゃ。おぬしがへまをしなければよいのじゃ】
ーだから不安なんだよ。
ーエリィの地雷を踏みそうでさ。
ライは運のめぐり合わせが悪い。裏返しにしてある53枚のトランプをめくり、ジョーカーをめくると負けるゲームならば、ほぼ負けるほどに運がない。だからライは自身がへまをしないことなどありえないと思っている。
【大丈夫じゃ。結局は結果オーライになるもんじゃ】
ーくそー。
ー人事だと思って気安く考えてくれちゃってさ。
「アーよ。それでよいか?」
ライがリブラと会話していると割って入ってくるようにアマラが話しかけてきた。
「ん? ごめん。話しきいてなかった。なんのこと?」
「仲がいいことは良いことだが、ウーの話しも聞いててもらいたいものだな」
「??」
アマラはライがリブラと会話していたので聞き逃していたと理解していたが、エリィはリブラのことを知らないため、アマラの言いたいことが理解できていなかった。
「エリィも一緒に事件を手伝ってくれるの。それでもいいって聞いたのよ」
「うーん。ウっ!! はい。いいです!!」
ライがどう返事しようか悩んでいると、つま先に鋭い痛みが走る。それがエリィが足を踏んできたからと悟ったライは、これ以上被害を被らないように反射的に返事をして、エリィの脅威から逃れようとする。
「そうか、なら朝食を済ましたら早速ハンター協会に行こうか」
「はい。おねえさま」
ライとしてはエリィの今後の行動に一抹の不安を抱えるも、ライ一行はハンター協会へと向かうのであった。
港街カイロスの郊外、青いマントを羽織り、街に入ろうとする者が一人。
「ここかな?」
青いマントの下にある顔はまだ幼く、身体もすらっとスマートな体系の女性であった。魔物が跋扈する郊外を一人で歩くなんて傍から見たら無茶だと言いたくなるほどに若い。
だがそんな幼女のような女性は周りに魔物が居ても気にせず、郊外をルンルン気分で、いまにもスキップし始めるんじゃないかと思うほど浮かれていた。この幼女が魔物のことを端から目もくれないのも当たり前である。この幼女は魔王で構成されている『九曜』と呼ばれる団体の一角なのである。
「やっと会えるね。ライちゃん」
幼女は長年待ちわびたかのような、溢れんばかりの笑顔をする。そう、ライと呼ばれる者を恋焦がれるたびに。。
「はやく会いたいな。うんうん。どんなふうに成長してるかな。小さい頃もカッコよかったし、絶対イケメンになってるだろうなぁ。ふふ。楽しみ。また楽しく遊ぼうねライちゃん」
その笑顔は狂喜に満ちたものであった。
港街カイロスにさらなる問題が近づいていることなど、このときは誰も知らない。そしてライに更なる女難が加わることは確定事項でもあった。
「うふ。ライちゃんをいっぱい抱き締めてやるんだから」




