36 朝はお決まりハプニング、大きな果実のあの子は……
ちゅんちゅんと朝の訪れを知らせる鳥のさえずる音が聞こえる。
ライは部屋の前の廊下で毛布に包まりながら寝ていた。
どんどんばたばた、朝早くから食堂の一階から足音が響いてくる。その足音は急いでいるのか駆け足で階段を登ってくる。
「おねえさまー」
女性が一直線にアマラの寝ている部屋に駆け込もうとする。そう足元に毛布に包まった人物などに目もくれずに。
がん。
女性は毛布に包まったライに気づかず、見事なサッカーボールキックの要領に似たキックをかました。
「きゃあ」
「ぐぅえ」
女性はバタンとライの上に倒れこんだ。そのときにまたライに痛烈な打撃が繰り出される。
「あいたた。なによこれ。なんでこんなところで寝てんのよ」
女性は猛烈に怒りを表していた。久しぶりにおねえさまに会えると思い、朝一に会おうとした矢先に邪魔が入ったからだ。そんな怒りなど知る由もないライはただ単に気を抜いているところに強烈な攻撃を食らい、悶絶することしか出来なかった。
「いたた、いったいなにが」
ライは痛みにより意識が覚醒する。そして身体を起こそうすると顔に巨大なやわらかい弾力の物体に挟まれた。
「えっこれって!?」
「なにすんのよこのヘンタイ!!」
猛烈なビンタを食らったライはまたも地面で悶絶することとなった。
ビンタを食らわせた女性は鼻息を荒くして立ち上がると。
「あんたなんでこんなところで寝てんのよ。ハッ!!まさかあんたおねえさまを狙ってこんなところで待ち伏せを!?おねえさまを狙うだなんて、そんなことはこの『エリィ』が許さないわよ!!」
エリィと名乗った女性はビシッとライに人差し指を突き出しとて宣言した。
「そうよおねえさまはこのエリィのおねえさまなのよ。このあとだっておねえさまとうっふふふ」
エリィは幸せな妄想の世界へと旅立っていく。その幸せな妄想の世界へ浸っていくと、身体をぐるんぐるんとよじり、あまりの身のよじりのためたゆんたゆんの果実がはげしく揺れ、きわめつけにはハアハアと荒い息をこぼして空を仰いでいた。
初対面の女性の奇行を目の当たりにしたライはこのまま留まり目の保養にするべきか、危ない女性のためさっさと立ち去るべきか心の中で揺らいでいた。
ーこんな立派なものを拝める機会はそうそうないぞ!!
ーどうする僕!!
ライが誘惑に惑わされている間にエリィは一足早く正気?に戻ったのか。
「ハッ!? いけないいけない。こんなところで時間を食っている場合じゃないわ。早くこの男を始末しておねえさまのもとに行かなくては!!」
エリィは物騒なことを言うと、腰のポシェットからナイフを取り出し。
「おねえさまに近寄るバイキンは排除よ」
ライに向かって投げようと振りかぶろうとする。
「ちょちょっとまった!!」
初対面の女性からいきなりナイフを投げつけられようとしてライは後悔する。
ーやはり立ち去ればよかった!!
そんな状況が廊下で巻き起こっているとは知らず、カチャリと扉の金具を開けて部屋から出てきたアマラ。
「うるさいわね。どうしたのいったい?」
アマラが廊下に顔を出すと空気が止まった。
「あれ? エリィじゃない?どうしたの?」
エリィは咄嗟にナイフを隠し。
「あのー、おねえさまが街に来たと聞きましたのでお向かいにきましたの」
先ほどまでの妄想の世界に旅立つような危ない様子とは一転、雰囲気がガラリと変わり、一見おしとやかそうな女性へと変わった。
「わざわざ向かいに来なくてもよかったのに、ウーはこのあとハンター協会に顔出すからそのとき会うでしょう?」
アマラは何気なくエリィに応対する。いまのエリィが普段どおりの姿と思っているからである。
「そんな、おねえさまをお向かいするのはあたり前ですわ。そうだおねえさま朝食は食べましたか?もしまだでしたらご一緒してもよろしいですか?」
とてももの静かな動作で受け答えするエリィ、先ほどまでの姿が別人なのではないかと思えるほどに印象が異なるのであった。
「まだね。ちょっとまってて、準備するから、あっライ、その毛布回収するね」
アマラはライが使っていた毛布を持って部屋の中へと入っていった。そしてまた二人きりになる。
「ライですって、おねえさまから呼び捨て、それも親しげに……」
ライからはっきりとはエリィの顔が見えない位置であったが、エリィのぎりぎりと憎むような歯軋りをする音により、このまま二人きりが続けば命の危険があるとびしびし感じとることが出来た。
「……あんたおねえさまとどういう関係なの……」
エリィは振り返らず、ライの顔を見ずにトーン低めで訊ねてくる。
「あ、あのー。旅仲間…かな?
ライがそう勇気を振り絞り言った直後、身体は無理やり壁際に押し込まれ、首元には冷たい感触のナイフが添えられる。
「…あんた…わかってるでしょうね……もしおねえさまに手を出したら……ね」
エリィの顔は無表情であった。いまにも切られそうな感覚に背筋が凍る。エリィの巨大な果実が身体に押し付けられているにも関わらずいまはぜんぜん嬉しい感情は湧いてこなかった。
「は、は……はい。そんな気は一ミリたりとも起こしません」
ライは下半身を震わしながら答える。
「あぁあ! それじゃあおねえさまに魅力がないみたいじゃないの!!あんたよほど死にたいらしいね!?」
ーどういやいいんだよ!!
ライはどう受け答えしても無意味だろうと嘆いた。
そんな危機的状況を無意識に救ったのは、やっぱりアマラ。
「エリィ。準備できたよ。あれどうしたの?」
アマラの気配を察知したエリィの早代わり。
「いえ。ライさんの肩にゴミがついていたので取ってましたの」
アマラに対しおしとやかな仮面を被るエリィ、虚偽を見破るアマラ相手に猫を被れるのだからすざまじい能力の高さである。
「そうか、二人は早くも仲良くなってくれたんだな。アーよ。ウーの数少ない友達だから仲良くなってくれて嬉しいよ。さあ一階で食事にしよう」
「そうですねおねえさま」
アマラは疑うことなくすたすたと階段のほうへと歩いていく。ライもアマラに付いていこうと歩いていると。
「……おいさっきのことおねえさまにちくったらあんたのあそこ切るからな」
横を歩くエリィから厳しい忠告がつぶやかれる。
ライは直感する。あれは切るといったらマジにヤる目だと。




