35 触れる三人、知られる秘密……
「へっ!?」
ライはなにを聞かれたのか最初はわからなかった。しかしほんの数秒間沈黙するとじわじわと理解する。アマラはリブラのことに感づいていることに。
「変に思ったのはアーと初めて会ったときなんだけど、なにがおかしいのか最初はわからなくてずっと観察してたんだ。でもこの間の邪悪龍との闘いのときに確信したの。あなたの気配がひとつじゃないって。それでなんなのか考えてたら、むかし魔物の悪霊型に取り憑いつかれてる人に似ているなぁと思ってさ。でどうなの? 変な質問で悪いけど、アーはそのことをどう思ってるの?」
アマラは心配そうに目をたれさせて聞いてくる。
ーどうする。
ライは悩んだ。リブラのことをアマラに伝えていいかどうか。伝えるならばどこまで説明するか。しないならばどうやってごまかすか。頭のよくない知恵を回転させて考える。
「やはり、言いずらいことなのか。それとも……」
アマラは背中に背負っている愛剣に手をかける。アマラはライが悪霊に操られている可能性も視野に入れた行動をとろうとしていた。
「待って。大丈夫だから」
ライはアマラが剣に手をかけたので静止するように手を前に突き出したが内心はあわただしく慌てていた。そしてこのまま説明しないでリブラのことから逃れることはライの口八丁では出来ないと悟る。
「言うから。説明するから剣から手を離して」
「むぅ……」
アマラは疑惑を持ちながらもライの言うとおりに剣から手を離す。
「先に言っておくがウーに嘘は効かんぞ。ウーの獣人特性は対象の虚偽を見破ることが出来るからな」
アマラは自身の目を指差しながらそういった。アマラは半獣半人の存在。この世界の獣人には普人族と違って種族ごとに特殊な能力がある。アマラは半獣ながらも獣人が持つ種族特性を持っていた。その能力は『虚偽を見破る程度』の能力。対象が嘘をついたときに発する微小な反応を感知する能力だ。
「そうなの」
ライはアマラの特性を聞いたために嘘をつくという方法は取れないと考え、そしてじわじわと逃げ道が塞がれていく気がしていた。どうすればと必死に考えるライ。そんなライを見かねたリブラが。
【おぬしよ。別に小娘にわれのことを言ってもあまり支障はないのじゃ。それどころかこちらの力になってくれるやもしれんぞい】
ーそうなの?
ーでもこの間あまりリブラのことをばれないようにとか言ってなかった?
【その件は小娘なら大丈夫じゃ。ほれおぬしよ、小娘と手をつないでくれないかのう?そうすれば問題解決じゃ】
ライは言ってもよいとわかると、強張っていた身体を弛緩させる。そしてリブラの提案を疑うことなくすんなりと了承した。
「アマラ、その、説明するからちょっと僕と手をつないでくれないかな?」
悪霊に取り憑かれているかもしれない人から、いきなり手をつながないかと言われて簡単に手つなぐ人はそうはいないだろう。だがアマラは少しだけ渋るとライと手をつないだ。
「これでよいのか?」
【うむ。はじめましてじゃな。われは運命の天秤リブラ。このライの守護者じゃ】
「なぁ!?」
リブラの声はアマラに聞こえるようになっていた。
「あれ?もしかしてリブラの声が聞こえたの?」
アマラはライと接触しているため、リブラの声が届くようになっていた。リブラはライに寄生している。そして寄生しているライに声が聞こえるのはリブラが体内にいるから、リブラと接触しているからだ。リブラはライの身体を伝ってアマラに話しかける。
「……聞こえた。……リブラと言ったか。アーはライの敵か、味方かどっちなんだ?」
アマラはリブラのことを認識した、そしてリブラのことを見極めようと問いかける。
【ふっふっふ。われはライの味方じゃよ。われがこやつに憑いておらんかったら、おぬしも、こやつもいまここにおらんかったじゃろうしのう】
「どういう意味よ」
【まあせかすでないわ。おぬしよしばし小娘と二人で話があるでの。そのまま手つないでおるんじゃぞ】
「えっ二人で?」
【そうじゃ。乙女の語らいに男は入ってもよいことはないもんじゃ】
そういってリブラの声が聞こえなくなった。しかしアマラと会話しているのか、アマラの顔は驚いたり、厳しい顔をしたと思ったら頬を染めたり、そしてこちらを見てもじもじしたりととコロコロと表情を変えていた。
ーなんか僕だけのけ者みたい。
ライはアマラとリブラがふたりだけで会話をしていたため疎外感を感じていた。そんな状態が数十分ほど過ぎたとき。
【おぬしよ。話は終わったぞい】
リブラの声が再び聞こえてきた。
「どうなったの?」
【うむ。これからもよろしくと言ったところかのう】
ちらりとアマラの顔を窺がうと。
「リブラの言うとおり。今後もよろしく頼む」
アマラは先ほどまでの表情とは打って変わってスッキリした顔をしている。
「どこまで僕のこと話したの?」
ライは自身の現状をどこまで説明したのかが気になった。
【うむ。召喚者であること、魔核、抵抗値、旅の目的、星の欠片、いままでのこともろもろじゃな】
リブラは包み隠さずライのことをアマラに教えたようだった。
「そっか。アマラはこんな僕だけどいいの?」
ライは自身のことを知られたので不安になっていた。はっきりいって面倒ごとであることを自覚しているからだ。
「さっきもいったけど。今後もよろしくだよ。それにウーの目的と少し被っているからさ」
アマラはニコッと頬を吊り上げて言う。
「アマラの目的? 妹さんのこと?」
「そう。リブラが言うには星の欠片で出来てるアイテムに、人物を見つけるのがあるって言うからさ。もしかしらアーに付いていったら、そのアイテムに出会えるかもしれないってさ」
アマラの目的は妹のカマラを見つけること。それがライといると達成できる可能性。それがわずかでもあるならアマラはライと同行するのを拒否する理由はなかった。
ーほんとにそんなアイテムあるの?
【あるぞい。われの持ち物じゃった羅針盤『光をもたらす物』ならば人物ごときすぐに見つけることは出来るじゃろうのう】
「リブラの持ち物? リブラってこの世界に居たの?」
【なにを言うておる。われも魔物じゃ。生前はこの世界におったに決まっとるじゃろうが】
「……そうだ……よね」
ライはリブラのことを魔物だと考えることが薄れていたため疑問に思ったのだった。
【ところでじゃ。おぬしたちよ】
「ん? なに」
リブラはからかうような口調で。
【いつまで仲良くにぎにぎと手をつないでおるんじゃ】
「あっ!?」
「えっ!?」
ライとアマラはリブラに言われて咄嗟に手を離す。
ーよくよく考えたら僕。
ー女性と手を……。
先ほどはきっぱくした状況だったので気にせずに手をつないでいたが、握手とは違い、長い時間女性と触れていたことを意識した瞬間に恥ずかしくなってきていた。
【ひゃはっは。役得じゃったのう】
ーうるさいリブラ。
ライはアマラのことをちらりとみるとアマラも少し恥ずかしそうに頬をそめていた。そしてアマラは恥ずかしそうにしていると、のそのそと歩き、ベッドにある毛布を手に取るとライにポンと手渡してきた。
「ライよ。さっきは同室でもよいといったが、やはり男女が同室は問題がありそうだわ。悪いけど廊下で寝てもらえる」
そういってライの背中を押し部屋から追い出すと、カチャリと中から扉を閉める金具の音がした。
「なんで……?」
ライはどうして追い出されたのかわからず呆然としていると。
【うぁはっは。うぷぷ】
内に住む魔物が楽しそうに高笑いをしている。
ーリブラ……。
ーなにかアマラにいったの?
【なんのことかのう??われはおぬしがどうゆう人物か伝えただけじゃぞい】
ー……ちなみにどんなの?
【なーに。おぬしが耳フェチだとか、後ろ姿から見たお尻にドキドキしていたとか、ほんとうのことをいったまでじゃ】
「あーリブラー!!」
アマラがリブラと二人で話しをしていたとき頬を染めていた理由がわかったライであった。
訂正。
普遍族から普人族へ。




