34 二人きり、部屋でドキドキ……
ライは食堂の二階の部屋で一人でいた。男の意地と我慢により食したワームを平らげると、気分が悪くなり先に部屋で休んでいるのだった。
ーなんとか男の面子は守れたかな。
ライはサカナにより胃がもたれていたので、部屋にひとつだけ備え付けられているベッドに倒れるように突っ伏した。
【予想したとおりの結果になったのう】
ーサカナがあんなに癖のあるものだって知ってたなら何とか食べないように助言してよね。
【なぁはっは。われはおぬしに話しかけるなといわれとったからのう】
ライはリブラがいまの現状を見て愉快に微笑んでいるように感じた。
【そういえばおぬしよ。団子娘の言っていたマジックアイテムの件で気になることがあるのじゃ】
ー団子娘? ビビットのこと。
【ちと、プロビデンスというのに心当たりがあってのう。われの知っとるアイテムとは効果が違うが、もしかしたら星の欠片で作られたアイテムかもしれんのう】
ー星の欠片で!?
【うむ。もし星の欠片のアイテムならばおぬしの抵抗値をあげれるかもしれん】
ライの抵抗値は魔核の侵食によって、日々抵抗値が減少していっている。そして抵抗値が0になったときライは死ぬことになるので、ライは抵抗値を上げれる星の欠片のことを文字通り命がけで欲していた。
ーでもアイテムならどうやって食せばいいの?
【そこらへんは大丈夫じゃ。われの能力のひとつに『接触吸収』があるのじゃ。おぬしの触れた物ならば限定的ではあるが吸収できるでのう。ほれ、先日の邪悪龍の魔術もその能力の強化版みたいなもんじゃ】
リブラは触れたものを自身に吸収する能力がある。生物や守護されていないものであるならば魔術を使用せずに吸収できる。その能力を魔術で強化すれば、触れた対象の能力や、時間、さまざまなものを吸収できるようになる。
ーそんなことできたんだ。
ーそれってどんなものまでなら吸収できるの?
【うむ。魔術をつかうならどんなものでも吸収してみせよう。ただしおぬしの抵抗値がガッツりもってかれるがのう。魔術をつかわんなら有機物はなんも吸収できんのう。せいぜい出来てアイテムの効能などの一部を吸収できるだけじゃな。今回の場合、星の欠片で出来たアイテムならばちょっとだけ吸収できる程度じゃがな】
ーそれでも……。
ー寿命が延びる可能性があるなら……。
ー探してみる価値はありそうかな。
ライはこの街で起きている事件に関わる気になっていた。船は事件が解決するまで動きそうにない。ならば自身で出来ることをしようとした。
ーでもどうやって探したらいいかな。
【そうじゃのう…。おっと来客かの、話はまた今度じゃ】
そういってリブラの声が聞こえなくなるとすぐに、部屋の扉が開けられ、部屋に入ってきたのはアマラであった。
「アーよ。ごめん」
アマラは開口一番ライに謝った。アマラはライが無理をしてサカナを食していたのに気づいていた。しかしライの気遣いにどうすればよいのか食べているときはわからなかったため、食べなくていいよ。と言い出せなかったのだった。
「えっなんのことかな」
ライはいきなり謝られたのでおどおどとした態度しかとれなかったが。
「そ、そういえばアマラはビビットさんが言ってた事件をどう思う」
気まずい雰囲気をなんとか回避しようと話題を変えようとした。
「そうね。明日ハンター協会にでも行って事件の詳細を聞いてこようかと思ってるわ。きっとウーにも緊急依頼が入っていると思うしね」
アマラはビビットからの話しでは聞けなかった事件のあらましを調べておこうと考えていた。
「そういえば緊急依頼ってなんなの?」
ライはハンターになったばかりであったので緊急依頼とはなにか知らなかった。
「そうね。緊急依頼は個人ごとの依頼ではなくて、ハンター協会に所属するものすべてに発注される依頼のことね。まあ、ランクの制限もかかっているときもあるけど、それはむやみに被害を広げないための配慮ね。弱い人が参加したら被害者が増えるだけだし。今回の場合は、勇者狩りに対処するのは制限つきのハンターで、制限なしなのがマジックアイテム盗難ってところかしら」
アマラは緋色のハンターということもあり、数々の緊急依頼を受けてきた経験から内容を説明した。
「そっか、なら僕が依頼を受注出来るのはマジックアイテムのほうだけってわけか」
「それがそうでもないわ。緊急依頼と普通の依頼と異なるところなんだけど制限はかかっていても本人の意思とハンター協会から許可がおりれば受注することはできるわ。ウーがまだ黒色のハンターだったとき、黄色以上の緊急依頼だったのに参加した魔物の大量発生討伐がそうだったよ」
アマラはハンターになったときから、優れた能力が注目されていたので、上のランクの依頼ばかり受注していたことがあったのだ。しかしアマラは例外である。ハンターになる前に高名な師匠の下で鍛えられ、その師匠から影ながらではあるがハンター協会宛に推薦状も添えられていたからであったことをアマラは知らない。
「あのさ、アマラがよかったらなんだけど、今回の事件に参加しない?」
ライはマジックアイテムのプロビデンスに関心があったから聞いた。
「そうね。ウーも参戦しようと考えていたところよ」
そしてアマラはとある理由から勇者狩りに関心があった。二人の興味の対象は異なるが事件に参加しようする利害は一致していた。
二人は今後の方針が決まったので、今夜の休む準備をしようとしていると。
「……。アーよ。せっかく二人になったので言っておきたいことがある」
おもむろにアマラはライの目をじっと見つめ言った。ライは普段アマラのことを女性と認識するのを避けて関わっていたので女性なのに上がることが少なくなっていたが、さすがに見つめられると胸がドキッとする。
「えっ……。なに?」
ライがどきどきして待っていると、アマラは頭を下げて。
「この間の邪悪龍のとき助けてくれてありがとう。遅くなったけどあのときはほんとに助かった」
そして頭を上げると胸に手を当て。
「あのときばかりはもうだめかとおもったよ。ほんとにありがとう」
頬の筋肉を満開にして微笑んだ。ライはそんなアマラの姿を見てさらに胸の鼓動は高鳴った。
「い、いや、あのときは夢中で、ははっ」
あまり感謝されることに慣れていないライは照れくさそうにほほを掻くことしかできなかった。
「それでこんなことをいうのもあれなんだが……もしよければ……」
少しどもりながら言うアマラ。言いにくそうな様子のアマラの一言一句にライは耳を澄ました。
ーもしかしてこの展開は!!
ライはゴクリと喉を鳴らす。この先の淡い展開を想像してしまったのだった。年齢イコール彼女いない歴。そして中学から女性とまともに会話することのなかったライは少女マンガのような展開に期待する。
「な、なにかな。言いにくいことでもなんでもこたえるよ」
ライは胸いっぱい心を震わせ、いつか使えるだろうとひとり鏡の前で練習していた会心の出来のスマイルをした。
「そうかなら、言おう」
いまか、いまかと、次の言葉を待つ。
ーさあこい!!
そしてアマラは最初から気になっていたことを言った。
「アーよ。何かに取り憑かれておらんか?」
「へっ!?」
ライの期待した言葉とは違ったことが言われた。




