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知らぬ間に勇者になりました。ー天秤の勇者になるまでの軌跡ー  作者: 九渡
第二章チャプター1 ー勇者殺しー
37/56

33 二つの事件、アマラの様子は……

 情報屋のビビットはライたちのテーブルに座ると。

「まずこの街の状況について説明するね。船の件についてはそのあと」

 ビビットはいまこの街で起きている出来事について語りだした。

「いまこの街は二つの事件がおきているの。ひとつめは街内での多発する殺人事件。ただの殺人ならここまでで大事おおごとにはならないんだけどね。殺害されている人が人だけに問題視されてるの」

「殺害されている人? まさか」

「そう。殺害されている人は全員勇者なの」

「やはり…」

 アマラは問題を理解したのかしかめ面をした。しかし一人だけ話についていけないライは。

「あのー。ちょっとなにが問題なのかわからないので、教えてくれると助かります」

 申しわけなさそうに右手をあげた。ライにとってかわいい女性に話しかけることはなかなか度胸のいることだったためたどたどしく質問した。

「あれ?わかんないの?」

 ビビットは首をこてんっと曲げた。

「は、はい。一から教えてくれるとありがたいです」

 ライはビビットの挙動のかわいさに胸を打たれながらもビビットに教えてもらおうとする。

「仕方ないなの。魔核について知ってるの?」

「いえ、わからないです」

「そこからなの。まぁいいなの。魔核は魔物といわれる者すべてに備わっているの。というか魔核があるから魔物なの。魔核は魔核同士で吸収しあって成長する特徴があるの。魔核の成長したときの影響はとてもいいものなの。だからそんな魔核を人は欲しくなって生まれたのが勇者。魔核を得た人。それが勇者なの。ここまではわかるの?」

「うん。なんとなく」

 そして勇者は誰にでもなれる者ではなく、命をかけて魔核を体内にいれ、魔核に適応させなければならない。適応しない者は死へと誘われる。いまのライのように。

「なの。なら次は勇者が成長するために魔物を狩るのはわかるの?」

「魔核を成長させようと経験値を得るためかな」

 ライはゲームでよくあるレベルを思い浮かべて答えた。

「及第点なの。勇者になった人はね。強くなろうと魔核を育てるの。確かに魔物を狩っていけば成長するけど、簡単に急成長させる方法がひとつあるの。それが今回の事件、勇者狩り」

「勇者狩り?」

 ライはその言葉から嫌な予感がした。

「簡単にいえば、勇者が勇者を殺して魔核に経験値を与えているの。魔物を狩るよりも数倍の経験値を得られるから魅力的であることは確かなの」

 ライはゴクリと息を呑んだ。

「それってただの人殺しじゃないか。なんのためにそんなことを……」

「なの。魔核を育てるためなの。まぁ、人を殺しても欲しいものだってことなの。昔の人はこの仕組みを利用してレベルアップさせていたこともあったそうなの。怖いの」

「……そんなことをしている勇者がこの街にいるなんて」

 ライが勇者狩りのことで言葉を失っていると。

「それでこの街は厳重な体制をとっているってわけね。それでもうひとつの事件ってなに?」

 アマラはいま起こっている問題のふたつめを聞いた。

「ふたつめは、この街からマジックアイテムが盗まれたの」

「マジックアイテム?それはどんなものだ?」

「世界でもめったにお目にかかれない伝説級のアイテムなの、その名も『神の目プロビデンス』。魔力を使わずに対象のステータスを鑑定する能力を秘めたアイテムなの。それがこの街から盗まれたから船の出入りも禁止しているわけなの。そしてふたつの犯人の目星がまったくないから困りもの。それなのに勇者狩りが街の中や近辺に出没しているからたまったもんじゃないって状況なわけなの。この二つの事件が解決すれば船は動き出すの」

 ビビットはあらかた説明を終えたのか水を口に運んだ。

「なるほど。状況は理解した。だがひとつ気になることがあるかな」

 アマラはそういうと前のめりの姿勢をとった。

「なにかな?」

「なんでウーたちに声をかけたかということね」

 そのことばを聞いたビビットは含み笑いをしてライとアマラを眺めた。

「それはねなの…」

「それは……?」

 ビビットは指をおでこにおいて、トントンとすると。

「情報屋の勘なの。有名な真紅の勇者さんならこの事件を解決することができるかと思ったの。さいきん伝説の龍を退治したって小耳に挟んだりしたの」

 ニコニコしながら答える。ビビットは情報屋としては優秀なのか、先日起きたばかりの邪悪龍の件を知っている様子であった。邪悪龍の件はむやみやたらに周りの人々の不安をあおらないようにガルドシール内部で処理し、上層部の人のみ知りえる情報としていた。それなのにビビットはどこからか情報をしいれていたのだった。

「情報屋の勘ね……。察するにこの街のハンター協会で緊急依頼でも発生してるんじゃないかしら。その状況をウーが知る前にウーたちとのつながりを持ちたかったとかかしら?」

 アマラは勇者狩りが発生したときのハンター協会の対応を知っていた。そのためハンター協会が緊急依頼をしていると推測が立てられたのだった。

「にゃは。それもあるかもなの。アマラさんは勇者狩りとの縁が深いですし、今回の問題には率先して参加すると思ったの」

「勇者狩りと縁ね……。確かにアーのいうとおりよ。ウーは勇者狩りは見逃さない」

 アマラは鋭いまなざしでビビットをにらむ。

「アーはどこまでウーの事情を知っているか知らないけど、深入りすると……わかっているわね?」

「おお。怖い、怖い。深入りはしないの。あたしは優秀な情報屋なの」

 アマラににらまれたビビットはわざとらしく肩を震わせて腕を左右に広げた。場が重い空気に包まれていると調理場からバニラが料理を持ってきて。

「喧嘩するならよそでやりな。うちの店で揉め事はごめんだよ」

 サカナを調理した料理をテーブルにドンと置き場の空気を一転させた。

「これ以上ここにいると怖いことになりそうなの。またあたしの話が聞きたかったらいつでも協力するの」

「見返りは?」

 アマラの問いにビビットは首を左右に振り。

「あたしのお得意様になってくれるかもしれないお客様なの、仲良くなるまでは無料にしとくの。こんなことめったにしないなのだから今後もよろしくなの」

 そういってビビットは店を左右に腰を振り甘い香りを振りまきながら出て行った。

「変な人もいるもんだね」

 ライはビビットの印象を大まかに変な人と認識したが、かわいかったので変な人でもいい、また機会があったら話しをしたいと思っていた。そんな考えをしているライにアマラは。

「……アーよ。ああいうのが好みなのか?」

 少し不機嫌そうに頬膨らましながら言う。

「えっ…。いや別に、タイプではないかな」

 タイプではなかったがかわいかったので目が引かれていたことは確かであった。しかしそのことをアマラにいうとなぜか怒られそうな予感がしたので伏せて言った。

「そうか……。まあいい。せっかくバニラがサカナを調理してくれたんだ。野暮なことは追求しまい。さっさとサカナを食べてしまおうか」

 アマラは両手に食器を持ってサカナにかぶりついた。ハムハムと美味しそうに食しているが。

 ーうーん。

 ーなんか間違えたかな?

 ライはアマラの耳がヘタっているのをみて自身の選択を間違えたと思った。次は間違えないようにしようと考えて、アマラが美味しそうに食べているサカナを口に運んだ。

「うぐ」

「どうだ。美味いでしょう?」

 アマラは目を輝かせて同意を求めてきたが。

「……うぅ」

 ライは味を受けつけずにのどをうな鳴らすだけであった。

 ーはやくもせんたくをまちがいそう……。

 ライはアマラの目をみることができそうになかった。


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