31 控える、控えよう……
12の星々と九の星、星は星でも異なる物。
同じなのは箱庭の中で留まることなく流れるだけ。
星々は青天に輝き続ける。視認出来なくなっても星々は空に輝いている。そう雲に隠れていたとしても。
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ザウラース王国領内東部、『ウィンクロード』を走る馬車が1台。馬車には御者が一人と、馬車内に男女が二人いた。男は馬車の乗り心地に苦心しているが反面、女のほうはくつろいでいた。
「アーよ。もうそろそろ馬車に慣れはしないの。ウーが知ってるだけで馬車に乗るのは3回目でしょ?」
紅蓮のような赤髪に埋もれた耳をピョコピョコと前後に揺らしながらアマラは問いかけた。
「乗り物には弱いんだよ。昔からっ乗り物を乗るときは薬を飲んで我慢してたからさぁ」
顔色を悪くしている黒髪の少年ライは心の中でもう一人の同行者に助けを求めた。
ーリブラ。
ーこの世界に乗り物酔いの薬とかって無いの?
【う~む。われは知らんのう。おぬしの世界は色々と科学というのが発達しとったんだのう。羨ましいのう。一度どんなのがあるのかみてみたいもんじゃ】
ライにとり憑いている魔物のリブラは老後のおじさんのような口調なのにも関わらず女性の声で応対する。
ーこの世界が魔術に頼り過ぎてるから発展しなかっただけでしょ。
ーあっちは魔術がなかった分。
ー科学で補ってたんだよ。
【うむ。どちらを選んだかということじゃな】
ライとリブラが頭の中で会話をしていると、アマラは眼を大きくしてじっーとこちらを見つめていた。アマラがあまりにライを凝視していたのでライが気づいたときドキリとした。
「アーはときどきぼっーとしてるときがあるが、いきなり笑うのは少し気持ち悪いぞ」
「えっ笑ってた?」
「うん。考え事をしてると思ったらいきなり笑ってる。傍目からみたら奇人にしかみえない」
「あっ…うん。突然笑ったら不気味だね。その癖は直すようにするよ」
ーリブラお前のせいだからな!!
【われのせいにするでないわ。おぬしがわれと会話していると勝手に笑っとるだけじゃろうが】
ーうー。
ーアマラから変な人にみられたかな。
ライは指摘された突然笑うという行動を恥ずかしがった。
【うむ。小娘なら大丈夫じゃろ】
ーなんでそう思うの?
【うむ。初対面でセクハラした男だから変人ということは理解しとるもんじゃ】
ーそれもう下がるところまで下がってるだけじゃないか!?
「アーよ。また笑ってるよ」
「あっごめん。思いだし笑いかな…はっはっは」
ーもういい。
ー人前でリブラと会話するの少しだけ控えるから。
【うぁはっは。まあいいじゃろ。われはわれでやることがあるのでのう】
ーうん。
ーそういうことで。
【まったく。メンタルの弱い主じゃのう。もうちっと女性慣れしてほしいもんじゃ】
リブラはライに聞こえないように、小娘は勘がよいからのう、と呟いていた。
「お二人さん。仲良く会話してるところ悪りぃが、港町『カイロス』が見えてきやしたぜ」
ライとアマラが乗っている馬車は目的地『港町カイロス』にたどり着こうとしていた。
「カイロスかぁ。久し振りにくるかな。サカナが美味しんだよね。ウーの故郷に行く前にたくさん食べていこうかな」
アマラは唇に指を置き、食べ物のことを思い浮かべているのか目の輝きが増していた。
「魚好きなの」
「サカナ大好き。味が最高」
「なら魚を食べて行くか」
「えっ!? いいの、やった!! たくさん食べたいからウーが狩っておかないとね」
アマラは喜んだと思ったら愛剣を背中に背負い準備体操をはじめた。
「あれ?魚を食べるんだよね?」
「うん。サカナだよ。店に持ち込んで調理してもらえるようにするの」
「持ち込み?釣りでもするの?」
「はっはっは。釣りなんかで狩れないよ。じゃあちょっと行ってくるね」
そういってアマラは馬車から飛び出していった。
ー……。
ーねぇリブラ。
ーサカナってなに?
【うむ。珍味じゃ】
ーどんな生物……。
【地中に潜むワームの一種じゃ】
アマラが向かった方角から「ドーン」という爆発音に似た音が聞こえた気がした。
ー……。
ー前の世界の知識で会話するのは控えよう。




