27 目が覚めると、暗躍する者たち……
窓から日射しが入り込む。ライは目が覚め、起き上がろうとするが体の節々が痛んだ。
ーあれ。
ーここどこだろう。
周りを見渡すと見たことがない部屋で寝ていたことに気づいた。
【起きたようじゃな】
ーここは?
【ガルドシールの宿屋じゃ。あのあとハンター達が救援に駆けつけて来てのう。治癒魔術をかけられたあと、おぬしから事情を聞こうとここまで運ばれたんじゃ】
ー治癒魔術。
ライは手を見ると邪悪龍を触ったときに火傷した手のひらが完治していた。
ーお礼を言わないとな。
ーでも誰にいえばいいんだろう。
【治癒魔術をかけたのは小娘じゃよ】
ー小娘? アマラが治してくれたのか。
【くっししし。たっぷりとお礼を言うがよいぞ】
ーなんだよ。
ー変な笑いかたするなよ。
【あの状況を見ておればこんな笑いも起きようもんじゃ】
ーあの状況?
【われからは言えんのう。小娘に直接聞くがよい。くっししし】
ライはリブラのにやついた笑い声に苛立つが、リブラに何も出来ないので言い返すことが出来なかった。何気ない一時をリブラと過ごしていると「ガチャ」という音がなり扉が開かれた。
「おお、起きてたのか」
ハンター協会の受付をしていたガンナが部屋に入ってきた。ガンナは部屋にあった椅子にドカッと座ると。
「アマラから龍の一件は聞いた。いちおうお前にも事情を聞くが、いま大丈夫か?」
「あっはい。僕がわかることでよければ」
ガンナは前のめりになり質問をはじめる。
「まず,龍が……―――」
ライは龍との出来事を話した。なるべくリブラのことを伏せるようにガンナの質問にひとつひとつ答えていった。ひととおり質問を終えるとガンナは黙りこみ,考え込んだあとに。
「うーん。まぁアマラが言ってたことと大差はないなぁ」
ガンナは椅子にもたれるようにダラリと体を預けるが、体をぷらーんとする反面、眼だけは鋭い眼差しで。
「でもなんかおめぇ隠してることねぇか?」
「えっーと…」
ガンナから放たれる迫力、心臓を鷲掴みされるような視線にライは気圧されることしか出来なかった。ライが思った以上におどおどしていたのでガンナは問いかけるのを辞めた。
「ふぅ。まあぁいい。人には言えねぇことの一つや二つあるもんだな。よし、ちょっくらおめぇが目を覚ましたことをアマラに伝えてくるからちょっと待ってろ」
そういってガンナはすたすたと部屋から出ていった。
ライは内心ビクビクしていた。もっと強く詰問されていたら何でもかんでもベラベラとすべてを白状してしまうほどに気弱になっていた。
【うむ。おぬしもう少し気を強く持てんのか?たかがあんな程度の凄みに怯むなど情けないのう】
ーうるさいなぁ。
ーあんな目付きで睨まれたことがなかったんだから仕方ないだろう。
【はぁ。情けない。情けない。おぬしがわれを傾けるのはまだまだ遠そうじゃ】
ーくそ。
ーいつか見返してやるからな。
【おうおう。首を長くしてまっとるぞい】
ライとリブラは憎まれ口を叩きあいながらも穏やかな時間は流れていった。部屋を出ていったガンナはアマラにライが目を覚ましたことを伝えたがアマラはその日ライの部屋を訪ねることはなかった。
*****
アッパード山脈内部。色とりどりのマントを羽織った7人の者が魔方陣を前にして佇んでいた。
「今回の実験は失敗に終わったわね」
「邪魔者さえ現れなければ上手くいったものを」
「ケケケ、あんなよわっちぃ奴らに負けるような龍なんか俺らには必要ねぇべぇよ」
「そういうな。邪悪龍が成功していたら我らが悲願の成就にどれだけ貢献したことか」
「失敗は失敗だ。今回の件で学んだことを次に繋げればいい。それで、次の実験はどうなっているんだ?」
「……イマノトコロジュンチョウ」
「そうか、我らも合流しに行くか」
「おれぁあんまり水のあるぅところにゃあちかづきゃたくねぇべぇよ」
「それならあなたは欠片を集めに行けばいいんじゃない?」
「単独行動はするな。我らはただでさえ魔神に狙われているのだぞ」
「はーいはーい。あたし邪悪龍の倒した少年が気になりまーす」
「なんだいきなり」
「一人ぐらいいなくなってもいいでしょ?あたしはあの少年を見張りまーす」
「……ノイン。それは天啓か?」
「うん。あの少年を味方につければ、あたしたちの悲願は成就できると思うの」
「そうか。ノインは少年を見張れ。我らは次のステップに移行する」
「ありがとう。アインス」
闇の中で蠢く集団がまたひとつ、不幸な少年を巻き込もうとしていた。




