26 思考する闘い、勇者は眠る……
邪悪龍は突然の乱入者に喉を唸らせていた。
ーでっかいなぁ。
ー何か手段はあるの?
【もちろんじゃ。ただし、おぬしも命をかけてもらわないといけんぞ】
ーわかってる。
ーここまできて引き下がれない。
【よし。その活きじゃ。それではまず手始めにおぬしは攻撃を掻い潜りあやつに触れるんじゃ】
ー触れる?
ー前みたいに身体強化とかじゃないの?
【あいにくあの魔術はわれの魔術ではなくてのう。レグルスから借りたもんじゃ。近くにレグルスはおらんし、知り合いもおらん 、われの魔術は攻撃的なものではないが、そこはおぬしの運命の歯車のおかげでなんとかなりそうじゃ】
ー借り物ね。
ーでもあのデカブツの攻撃を避けて触れたって自力では無理くさくないか?
【うむ。おぬしの能力では突進しても死ぬだけじゃな】
ーならどうすれば。
【前におぬしが吹き飛ばされたときに時間を巻き戻したじゃろ?あれを使って接近するんじゃ。ただしチャンスは4回、1回巻き戻すごとに抵抗値は2下がる。またとっておきの魔術をこやつに使用するので抵抗値は10ほど減るじゃろうな】
ーわかった。
ーそれ以内に触れてみせる。
「アマラ、僕があいつに触れるのを手伝ってくれ」
「……なにか考えがあるんだな。勝算は?」
「大丈夫だと思う」
「……アーに託すよ」
ー大丈夫だよね?
【大丈夫じゃ。そうじゃ、小娘に止めは任せると伝えとくんじゃ】
「アマラ、止めは任せた」
そう言ってライは邪悪龍に近寄る。迫ってきたライに邪悪龍は近づかれるのを嫌がるようにブレスを吐きかける。
⏩⏩フレイムブレス⏩⏩
ライは前に走りながら避ける。しかしブレスの炎が地面に着弾した直後の爆発に体が吹き飛ばされる。
「あつい。あつい」
転がりこんだライに止めを指すように切り裂く波動が飛んできてライは真っ二つにされた。直後に頭の中で「ガタン」という音が鳴り、邪悪龍に走るところに巻き戻される。
抵抗値2下がりました。ライ抵抗値17。
ーやられた。
ーこんどはブレスだけじゃなくて爆発の余波にも気を付けて接近しないと。
【あやつはまだ邪悪龍に進化したばかりじゃ。攻撃手段はそんなに多くない。ブレス、爪、尻尾この三点を重点的に警戒するんじゃ】
ー三点だな。
ー今度はさらに近づいてやる。
ライは気合いを入れ直して大地を蹴る。前回と同じくブレスが飛んでくる。今度は爆発の余波も考えて大きく避ける。ブレスを回避した直後の切り裂く波動、斜めに放たれた切り裂く波動を仰け反るようにスライディングして避けるが2発目の縦の切り裂く波動に切り裂かれる。また頭の中で「ガタン」と音が鳴り巻き戻される。
抵抗値が2下がりました。ライの抵抗値15。
ーくそ。
ー2発目のために体勢を崩しちゃ駄目だ。
ー軌道はわかった。
ー次は触る。
ライは踏み出す。ブレス、大きく避ける。斜めの切り裂く波動を前に屈みこみ避ける。縦の切り裂く波動を駆け出す1歩で体を半身にして避ける。あと少しで届く、手が届く、邪悪龍が回転して体が横に吹き飛ばされる。
抵抗値が2下がりました。ライの抵抗値13。
【アホウが、尻尾に気をつけろと言うたじゃろうが!】
ーあと少しと思って焦ってしまった。
【これで最後にするんじゃ。これをミスると触れたとしても魔術を発動させることができなくなるかもしれんぞい】
ー必ず触る。
ー冷静になれ。
ー相手の行動を見るんだ。
ライは幾度のシミュレーションをする。時がゆったりと進んでいく感覚、神経が研ぎ澄まされていく。ライはいままでの反省を踏まえて走る。先ほどまでとは異なり、ブレスと切り裂く波動を難なく避けれた。
ーここで焦らない。
ー確実にいく。
あと少しで触れる距離になると邪悪龍は体を回転させて尻尾を振るう。
ーここは無理せず隙間に潜る。
邪悪龍の尻尾の付け根と体の高さから生まれる隙間に潜り避けるライ。
ーここだ。
回転したため体勢を整える邪悪龍。邪悪龍にあと少しで届くライ。指が触れるその瞬間、邪悪龍の体表から火が噴き出す。あまりの熱さに無意識に手を引っ込める。
ー熱い。これじゃ触れない!
【バカもん。ここで引き下がってどうする!! チャンスは今しかないんじゃ!!】
リブラに背中を押され、もう一度触れようとする。
ーイケる
そこに邪悪龍が直接ツメで切り裂きにくる。ライの眼前に迫るツメ。
ー避けたら触れない。
ー避けたらもうチャンスがあるか……。
一一度くらいは耐えろ僕!
邪悪龍に熱いが触れた。だがライにツメの凶刃が……。
⏩⏩光盾よ行け!⏩⏩
ライに迫るシメの軌道に光盾が現れた。ライの後ろから追随していたアマラの魔術が邪悪龍のシメを一瞬だが防ぐ。
【よくやった小娘! ここから締めじゃ。さあはじめよう。運命を切り開く世界を】
⏩⏩天秤の時間軸⏩⏩
リブラの魔術が邪悪龍に発動される。
【こやつから離れろ! ライ!】
リブラに言われて邪悪龍から離れる。邪悪龍はリブラの魔術により苦しそうに唸る。魔素が体外へと排出されていく。鱗がボロボロと剥がれていく。大きかった体がみるみると小さくなっていく。
ーなにをしたの?
【こやつが進化したのが今日だったのが幸いしたのじゃ。こやつを進化する前に巻き戻しておる。こやつが進化したのが明日であったならばこの手は使えんかったのう】
まあ、そこはおぬしの生きるための呪いのおかげじゃかな、とライに聞こえないようにリブラは呟く。
ー進化する前に戻す。
ーということはまだ倒せてはいない?
【そうじゃな。じゃがここからの仕事はおぬしではない。小娘の仕事じゃ】
ライはうなずく。
「アマラいまだ。いまなら邪悪龍は弱体化してる」
ライがアマラを見ると既にアマラは大剣を構えていた。
「なにが起きたのかわからんが、任せろ、これでお仕舞いにしてやろう」
⏩⏩白鳥の北十字⏩⏩
アマラの愛剣から放たれた魔術の放出は弱体化した邪悪龍、進化前のミクロスデンスへと変わり果てていく者を断絶していく。ミクロスデンスごときがアマラの切り札である白鳥の北十字に耐えきれるわけがなく、細切れとなって消え去っていった。
「やったのか……」
【お疲れ様じゃ】
抵抗値が11下がりました。ライの抵抗値1。
ーあっヤバイ……。
【予想より多く減りおったようじゃな】
ライの体が重くなる、体が痙攣しはじめて、上手く体を動かすことができない。いまにもライの命の灯火は消え去りそうなほど弱まる。ライは体の重さに耐えきれなくなったのか前のめりに倒れこんだ。
「アーよ。どうした!?」
いきなり倒れたライが心配になりアマラは駆け寄る。
ーリブラ……。
ー僕どうなるの…。
【……。よくやった……。】
ー……そっか。
ー僕にしては頑張ったよね。
【ゆっくりと休むがよい】
ーありがとうリブラ……。
ライは深い眠りへと誘われた。
……………。
「アーよ。死ぬでないぞ」
ライの魔核がレベルアップしました。
魔核LV1→6
ライの魔核はリブラに吸収されました。
魔核LV6→1
邪悪龍に吸収されていた星の欠片を吸収しました。




