24 リブラから告げる言葉、男は女を……
「ねぇ、ハンターのおにいちゃん、おねいちゃんひとりのこってどうするの?おにいちゃんもいっしょにたたかわないの?」
子供がライに何気なく声をかける。
「お兄ちゃんはね。ハンターのお姉ちゃんと違って強くないから、一緒に戦わないんだよ」
「そうなの?でもおねいちゃんひとりだとさびしそうだよ。おとうさんがいってたよ。おとこはおんなのひとをまもらないとダメだって」
「そうだね。君のいうとおりだと思うよ。でも僕は守る力がないから……」
ー力がないから僕は誰も救えない。
ーいつも逃げることしかできないんだ。
ライは拳を強く握り、空を見上げることしか出来なかった。
【おぬしよ。ほんとうにこのままでいいのかのう?】
ーなにが言いたいの?
【おぬしのせいで小娘は死ぬかもしれんのに、それを見捨てて逃げてよいのかと聞いとるんじゃよ】
ー僕のせい?
ー龍が現れたのは偶然でしょ?
【違うぞい。おぬしがこの地に来たから龍は生まれたのじゃよ】
ー……どういうこと?
【おぬしは自覚しとらんようじゃからのう。ここらで言っておこうかと思うてな】
ライはリブラが何を言いだしたのか分からなかった。
ー自覚?
ー僕になにかあるの。
【よーく聞くがよいぞ。おぬしが、今回の召喚者達がこの世界に召喚されたのはおぬしのせいなんじゃ】
ー召喚されたのが僕のせい?
【そうじゃ.さらにアルハゲ城に魔物が襲ってきたのも、今回の竜の異変も全ておぬしがもつ、呪いのせいじゃ】
ーすべて僕のせい……。
ーいきなり何を言うんだよ。
ー呪いってなにさ.
【おぬしはあらゆる呪いをかけられておる。説明するよりおぬし自身の目でみてみるのがよいじゃろう。ほれ、ステータスを開くがよい】
ーステータス…オープン
天童ライ
クラス:勇者の出来損ない
HP:100/77
攻撃値:20
防御値:18
敏捷値:22
抵抗値:19
魔術回路:0
スキル:無し
天性才能:無し
ー前みたときとステータスに変わりはない。
ーこれがどうしたの?
ライは自身のステータスを見ても変化はなかったので内心ほっとした。
【よーくみるんじゃ。下の欄に隠れておるのがあるじゃろう?】
リブラに言われて半信半疑でステータスの下の欄を凝視して確認をしてみるとボヤけた部分が表れはじめた。そのボヤけた部分をよーく目を凝らしていると。
状態異常
神々の呪い
ー神々の呪い?
ーなにこれ……。
ステータス表示に新たな項目として状態異常、神々の呪いを確認したときライの心臓の鼓動が強まった。
【これが理由じゃ。おぬしは神々の呪いに侵されておる。これはあらゆる災厄がおぬしに降りかかる呪いじゃ。じゃかおぬしは神々の呪いと共に自身は生き残る呪いにもかかっておるのじゃ】
ー僕に災厄が降りかかる
ー僕と一緒にいると災厄に巻き込まれる。
ーでも僕は生き残る……。
ーそれって……。
【そうじゃ。おぬしは周りに呪いを撒き散らして生きておる。おぬしいままで生きてきて、事件に合うことが多かったのではないか?】
ライは思い当たる節があった。小さい頃から事件を目撃する機会が何回もあったからだ。そのため安易にリブラが言うことを否定することが出来なかった。
ー僕が原因…。
ー飛行機が落ちたのも。
ー召喚にレオニードたちを巻き込んだのも。
ー城に魔物が襲ってきたのも。
ー龍が生まれたのも。
ーそしてあの子が事件にあったことも……。
ー僕がいなければ起きなかったかもしれないのか……。
【おぬしが動けば災厄がおこる。そんな星の下に生まれたのがおぬしじゃ】
ライはリブラに突きつけられた真実に心が曇っていく。いつも悪いことが起きたら逃げてきた人生。周りが事件に巻き込まれても関係ないと知らんふりをしていた自分。自分が生きているために周りに不幸を撒き散らしていたなど思いもよらなかった。心臓がきゅっとする。この呪いを受け入れてしまうと心が崩壊しそうな感覚に襲われる。
ー僕のせいじゃない。
ー僕のせいじゃない。
ー全て呪いが悪いんだ。
ー僕のせいじゃない。
ライはいままでの出来事から現実逃避するように、呪いのせいにして現実から逃れようとしていた。
【ほんとうにおぬしは、そう思っておるのかえ?】
リブラに問いかけられ、ライは自身の人生を振り返えると、近くで起きた事件の被害者の顔が脳裏に浮かびあがったため、深く物事を考えまいと脳がブレーキをかける。
ーそうだろ。
ー呪いがかかっているのが悪いんだ。
ー巻き込まれたのが悪いんだ。
ー僕のせいじゃない。
ライは現実を否定する。全て自分のせいと受けとめてしまうと心がもたないからだ。
【……。アマラに面と向かっていまと同じことを言えるのかのう?】
ーアマラに……。
ー………………。
ー僕は……。
ー言えない。
ライはアマラに自身の心中を伝えることは出来ない。アマラは嘘を見抜く。ライは嘘をついていると自覚しているから伝えられない。そうライはわかってしまったのだ。否定して逃げていても何も動かないことを。
【では、おぬしはどうするんじゃ。このまま龍から逃げるのかえ?そしていままでどおり逃げることを選択するのかえ?】
ー僕は……逃げたくない。
ーでも僕には力がないよ。
【これからも難題にぶち当たれば力が無いと逃げるのかえ?】
ー……もう逃げたくない。
ーここで逃げたらもう変われない気がする。
【うむ。いまはおぬしに力がない。どうするんじゃ】
ー……リブラ。
ー力を貸してくれ。
【言ってる意味がわかっておるのか?われが力を貸すということはおぬしの寿命が短くなるということじゃぞ?】
ーそれでも……。
ー力を貸してくれ。
【うむ。ならば承知した。われ、運命の天秤リブラは呪われし者ライに力を貸そうぞ】
ーありがとう。
【礼はすべてが終わってから言うもんじゃ】
ーうん。そうだね。
ライは村人達と歩むのを辞めた。
「すみません。僕が付いていくのはここまでです。みなさんは急いで街へ避難してください」
村長トバトへ告げると来た道を引き返す。
「ハンターさん。どこにいかれるのですか」
トバトはライを引き留めようとするが。
「やり残したことがあったので村に戻ります」
ライが返答すると、子供が近寄り。
「おにいちゃん、おねいちゃんをまもりにいくの?」
子供はライをみて疑問をあげた。
「ああ。君のいうとおり。男は女の人を守らないと行けないからね」
ライは心につっかえていた溜まった感情から解放され、晴れやかな顔で村へ足を歩み始めた。




