23 似た状況、今度はだれが……
龍の体から豪雷のような咆哮を何度も何度も鳴り響かせる。その咆哮は大地を揺るがす。眠りから覚めた龍。龍の体からは漏れ出すように大量の魔素を放出していた。魔素に当てられた山脈の木々は魔素に侵され魔物へと変貌していくものさえあった。竜は進化をするために山脈にいたすべての同種を喰らい尽くした。竜から龍へ進化したために大量の魔力を消費したばかりの龍は食料を求め山脈から這い出す。
トジル村は慌ただしい状況になっていた。突如アッパード山脈の方角から魔物の声が聞こえてきたからだ。山脈に調査をしに行っていたハンターが戻ってきたとき、ハンターによると龍が山脈に現れたとのことだった。龍の出現など、人類生息圏では50年に一度、姿を見かける程度である。そのうえ龍は食料を求め山脈を下山しているとの推測がされた。村は絶望に落とされていた。
「ハンター様方、わたしたちはどうすればよろしいのでしょうか」
村長トバトは村の行く末を憂いていた。
「ずぐに村から避難した方がいいかと。龍は飢えている。手近にある食料になりそうな物を食べながらこちらに接近してきているからね」
ライはアマラが村人を避難避けようと指示する様子を後ろからただ見ていることしか出来なかった。
ー僕たちも早く逃げないと危ないじゃないか。
ライはすぐにでも村から逃げだしたかったが、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。子供達も不安そうな顔をして大人に引っ付いていたが、一人の子供がライに近寄ってきた。
「おにいちゃん、大丈夫だよね。わたしたちたすかるよね。おとうさんみたいにいなくならないよね」
ドングリのブレスレットをくれた子であった。不安そうな顔をしてうつむきながらもライにすがりつくように服にしがみついてくる。
ライは何も言うことが出来なかった。子供を迎えにきた大人がくるまでただ呆然と立ち尽くすのみだった。子供は大人に腕を引かれながらもライの顔を見て去っていく。
ー……。
「おいアー。なに立ちっぱしてるんだ」
アマラはいつの間にかライの隣にいた。
「アーよ。竜から龍への進化を知っていたアーのことだ。龍の対処の方法とか役にたつ知識はないのか?」
ー……。
パコ
ーいてっ
「なんだよ。痛いじゃないか」
「聞いてるのにぼっーとしてるアーが悪いのでないか」
アマラは腕を振り上げて、頬を膨らませていた。
ーリブラなにか対処はないの?
【うむ。邪悪龍は手当たり次第に魔素を含むモノを襲う習性がある。昔は囮に魔術アイテムを設置して、人の住むところから遠ざけておったのう】
「邪悪龍は魔素に引き寄せられる習性があるそうです」
「いちばん近くにある魔素に向かって、あの龍は迫ってきてるってこと。つまりウーを狙ってきてる可能性が高いということね」
ライはアマラが伝えたいことがわかった。
「囮になる気?」
「そうなるだろうね」
アマラは険しい顔をして頭をかきむしった。
「アマラがやらなくてもいいんじゃない」
アマラは顔を振る。
「ここで引き寄せておかないと被害は甚大になるわ。ウーがここから去っても龍は付いてくるかもしれないんでしょ?ウーが逃げれば街に被害が及ぼす、それだけは避けないとね。アーは村人と一緒に逃げな。さすがに荷物持ちが命まで懸けることはないでしょ」
ライは村人と一緒に囮を志願したアマラの背中を見送った。その背中は城で魔物襲来したときに、レオニードが囮を引き受けたときと重なるような景色であった。
ーアマラは強いし。
ーきっと大丈夫。
ーレオニードみたいにいなくなることはないだろう。
ーそうだよ。
ー僕が一緒に行っても出来ることなんかたかが知れてる。
ーアマラは強い。
ー魔物の群れを退治したときみたいにひょっこり戻ってくるさ。
ライは村人と一緒に街へ行く道中、無我夢中に自己を正当化しようとしていた。それは逃げることは決して悪くないと言い聞かせるように。




