22 調査の結果、這い出る者……
アマラとライが小型の竜の調査に乗り出して三日、未だなにも成果はなく、ただときだけが過ぎていっていた。
「うーん。竜の調査に来たのに、まず目的の対象に会うこともなく三日かぁ。これは少しヤバめかも。最悪成果無しで終わることになりそうだね」
事前情報で得た小型の竜の目撃情報の場所をくまなく散策していたが竜の姿形も見かけない。というよりも魔物の姿自体が山脈から消えていた。
「なんでここら一帯魔物がいないのかねぇ? それがもしかしたら小型の竜の変な行動の理由につながるかもしれないなぁ」
アマラとライは山脈にて軽食を食べて休憩しながら今後の行動について作戦会議をしていた。
「山脈に魔物がいない理由につながりそうな、いままでの事例とかないの?」
「事例ねぇ。まずこの山脈は自然豊かで食料豊富、さらには魔素自体も充分満たされている地域だからなぁ。基本こういう場所は魔物の発生ポイント。魔物の生息地としては最適なんだよね」
アマラはいまわかる山脈の状況を分析していく。
「そんなに立地条件がいいのに魔物がいないなんておかしいよねぇ」
「そんなのよ。ウーが知る限りではこんな現象はじめてだよ。いったいこの場所に何が起きているやら」
アマラは「うーん」と唸りながら顔を固くしている。あの様子ではこのまま考えていても進展はなさそうだった。
ーリブラは今回みたいなことに心当たりある?
【………………】
ーリブラ?
【おおすまん。なんじゃ?】
ーいや。心当たりあるかと思ってさ。
【心当たりのう……。あると言えばある。じゃがそれは最終的なことじゃからなのう】
ー最終的?
ーなに?どんなこと?
【うむ。もしかしたらじゃ。ほんとになっとるかはわからんのじゃが、魔物が進化しようとしとるんじゃないかのう】
ー進化? 魔物の?
ーそれってどういうこと?
【それを説明する前にじゃ。確認しとかんといけんことがあるぞ。おぬしよ小娘に今回の竜の種族を聞くんじゃ】
リブラに言われたライは軽く頷き、唸っているアマラに聞いてみた。
「アマラ、ちょっと知りたいことがあるんだけど、今回の小型の竜の種族とか名前って知ってるかな?」
ライが聞くとアマラは「は?」と不思議そうな顔をする。
「アーは依頼書を読んどらんかったのか?」
「あっ。すみません読んでなかったです。教えてくれませんか」
アマラは溜め息を吐いて応えていく。
「仕方のないなアーは。依頼書を読みこんでおくのはハンターの基本だぞ。今回は許すけど次回からはちゃんとするんだよ。今回の依頼対象はミクロスデンス。別名小さな牙と呼ばれている。基本は群れで行動していて、大型の獲物を狩る竜だ。比較的竜の中では弱い。だかたまにだが個体で行動する奴がいる。そういうのは相手にしないのが賢明だな。このミクロスデンスは変な習性のひとつとして群れで共食いをすることがあげられている。個体で行動しているのは群れを共食いした奴で通常のミクロスデンスより凶暴で、こんなるとミクロスデンスは手がつけられないようになる。街ではこの個体が発見されると、ずぐに国に報告するような義務があるほどだ」
「今回の依頼ってもしかして、その共食いしたミクロスデンスが現れたかの調査だったの?」
「そうだね。その可能性を含めての調査だろうね。それでそれがどうしたの?」
「いや、そのちょっと待ってもらっていい?思い当たるのがあるかもしれないんだ」
ライの曖昧な物言いにアマラは首をかしげた。
ーリブラどう?
ー気になってたことわかった?
【おぬしよ。これは最悪の事態かもしれんぞ】
ーえっ?
【あの日が再来するかもしれんぞ。ティラノシールが暴れまわった日々がのう】
ーティラノシール!?
ー昔に暴れまわってガルドって勇者が退治した?
【そうじゃ。ミクロスデンスは進化する竜でのう。本来は弱いのじゃが。突然変異の個体は共食いをして、魔核のレベルをあげることで龍へと進化するんじゃ。その龍はティラノシールと同一種族『邪黒龍』と呼ばれる凶悪な龍じゃ】
ーそれってやばくないか?
【ほんとうに邪悪龍が生まれておったらヤバイのう。じゃが山脈にいた魔物がいなくなったことと、最近になってミクロスデンスが変な行動をしていたこと、この事からも可能性は高めじゃ。早めに対策を取らんとここら一帯無くなるやもしれんのう】
「アーよ。どうした? 顔色がわるいぞ?」
アマラはだんだんと顔色が悪くなっていくライを心配になり声をかけた。
「アマラ、まだ不確定だけどヤバイ事態かもしれない」
「なにかわかったのか?少しのことでもいい。はなしてみ」
ライは生唾を呑み、緊迫したような声色で言う。
「ティラノシールが生まれたかもしれない」
ライがそういうとアマラはさっきまで緩くなっていた顔つきから真剣な眼へと変わる。ライの言葉を一言一句逃さないように耳を傾ける。
「ミクロスデンスが竜から龍に進化した可能性がある。進化した先の龍は邪悪龍、ティラノシールと同じ種族なんだ」
「竜から龍に? そんなことがありえるの?」
アマラは信じたいような表情をしながらもライの言葉を否定することなく考察する。
「ミクロスデンスが龍になるなんて初耳だけど、もしその話が本当ならこの辺りの現象にも説明がつくわね。龍のいるところに魔物は寄り付かない。確かに龍の住む場所にここは似ているわ。ヤバイわね。ウーだけじゃ龍に対処出来ない」
アマラはティラノシール、邪悪龍が現れた前提で考えはじめていた。
「僕のいうことを信じるの?」
「ん? アーはウーに嘘をついたのか?」
「嘘はついてないよ。でも突拍子もないことなんでしょ?」
アマラはライの目をじっー見つめる。見つめながら破顔一笑する。
「アーは嘘をついてない。ウーの獣の勘がそういってる」
ライはアマラの笑った顔を見て、心が暖かくなったような気がした。
【うむ。小娘は知らぬ間に加護を使っとるようじゃ。嘘を見抜く加護か……。あやつの加護かのう、】
アマラは小さな頃から生き物の嘘を、偽りを見抜く目を持っていた。ライがアマラに対して嘘をついてはいけないと薄々感じていたのもこの目があったからだった。
「アーが嘘を言ってないなら、ティラノシールの対処をたてないといけないね。事態は一刻を争うことになりそうだ。村に戻って馬車にハンター協会への手紙を運んでもらおう」
アマラとライは山脈の調査を早々と打ち切り、村への帰路へ行こうとする。たがしかし、あまりにタイミングがよく、だれかが仕組んでいるかのように動き出す。
ギャオオオオォオオオオォオオ!!
豪雷のような咆哮が、山脈の中から轟かせながら這い出してくる一体の龍。
「ちっ。遅かったみたい。村に急ぐわよ」
ライとアマラは全速力で駆け出した。




