21 村人の贈り物、リブラの期待……
ライとアマラはアッパード山脈の近隣の村、トジルの村を拠点に小型の竜の調査にのり出した。
「ようこそおいでくださりました。村長のトバトと申します」
ライ達は村長の好意で空き家を貸していただき、一週間ほど滞在することとなった。
アマラから今日一日は暇をもらったライは村の中を散策していた。村の印象はど田舎の農家を感じさせるもので、村人はたったの30人ほどの小さな村だ。
ーねぇリブラ。
ーこの世界の村ってこんなもんなの?
【うむ。都市部を除けばこんなもんじゃろうな】
ーよくこれで生活していけるよね
ー魔物とかに襲われたら一貫の終わりじゃない?
【だからこそ村が小さいんじゃ。村を転々と配置することで被害を分散化しとるんじゃよ。領主にとって一度に人を失うより最小限の被害で終わらせた方がよいからのぉ】
ライはそれがこの世界で生きていく術かと納得するしかなかった。力がない者はこの世界では虐げられるのだから。
【おぬしよ。あんまり深く考えるでないぞ】
リブラはライを気遣い声をかけるが、ライも深く考えても意味がないことを理解していた。
ー大丈夫だよ。
ー僕は危険なことには首を突っ込まないからさ。
ライは心の内で「いままでもそうやって逃げてきたからさ」と思った。
村の中で楽しく遊ぶ子供がいる。子供達はライに気づくと、ライにトコトコと近寄り、
「おにいちゃんお外から来たの?」
「ねぇねぇハンターなの?」
と子供達はライにキラキラした目で尋ねてきた。
【おうおう。子供に大人気じゃよのう】
ーまだ右も左もわからない新米だけどね。
ライは子供の目線に合わせるように、しゃがみこんで子供と向き合う。
「うん。ハンターだよ」
子供はポケットの中をごそごそといじり、ポケットの中から取り出したドングリのプレスレットみたいなものをライに差し出すと。
「これ、あげるから村を魔物から守ってください。お願いします」
と子供は軽くお辞儀をして頼み込んできた。
ライはプレスレットを受けとるべきか悩んだ。今回ライ達は調査の仕事であり、またライ自身はただの荷物持ちとして来ているだけだからだ。子供達はドングリのプレスレットを受け取ってくれないライを見て悲哀な様子になっていく。どうするべきか悩んでいるライを見兼ねてリブラが助言をする。
【受け取るがよい。この子供達はおぬしに期待しとるんじゃ。子供の願いを無下にするでないぞ】
ー……わかったよ。
「ありがとう。ありがたく受けとるよ」
ドングリを受けとると子供達は喜ぶようにお辞儀を繰り返して、また遊びの続きをしにライから離れていった。そして子供が離れるとすぐに村長トバト氏がライに近寄ってきた。
「すみません。子供達がご迷惑をおかけして」
「いえ、別に迷惑になんて思ってません。ただ僕はこの貰ったブレスレットの分の恩返しが出来るか不安で……」
険しそうな顔つきのライに追い討ちをかけるように村長トバトはぼそぼそと語りはじめた。
「あの子供の親なんだが。最近魔物に襲われてのう。この世を去ってしまったんじゃ。親の仇を討ってくれる人が街から来ると聞いてそのブレスレットを作ったのだろうのう」
ライは手のひらが重く感じた。ほんとにこれを受け取ってよかったのか。期待に応えられるのか。ただのドングリのプレスレットがまるで国宝のような重さに変わる。
「なんで、僕にそのはなしを?」
「なんでじゃろうな。私も救いを求めとるからかもしれんのう」
そう呟くとライの側からとぼとぼと離れていった。
【小賢しい人間だのう。小さい村じゃとしてもあれくらいじゃないと村長は務まらんようじゃの】
ー……そうだね。
ーでも受けとるように言ったのはリブラだよ。
ーリブラこそ何がしたいのさ。
【ふっふっふ。われはただの気紛れじゃよ】
ー…そうかい。
ライはリブラが何を考えているのかわからない。ほんとにただの気紛れなのか。それともやっばり魔物だから人のことなんかなにも気にもかけていないのか。
空模様は赤く染まっていく。それは誰かの心模様に似た染まりようであった。
………………。
【……われはのう。おぬしにわれの天秤を傾ける資格があるかどうか知りたいだけじゃよ】




