20 アマラの実力、ライの悩み……
ガルドシールの西に位置するアッパード山脈にて、最近になって小型の竜が変な行動をするという報告が協会にあがってきていた。その調査の仕事は至急募集されていたのでアマラは受理する。そして荷物持ちとして近くにいた新人のハンターを連れて馬車で目的地へ行った。
ライはアマラと一緒に馬車に揺られているときリブラと会話しようとしていた。
ーねぇなんでアマラは僕を依頼に参加させたと思う?
【うるさい。われはいま手を離せない作業をしているのじゃ。しばしおぬしとじゃれあっとるひまはないのじゃ】
リブラはライと会話するのを拒否していた。なんの作業をしているのかライは皆目検討がつかなかったが、ときどき体の一部がむず痒い感覚に襲われていたので良からぬことをしていそうで不安であった。
ーリブラは相手してくれないか。
ー直接アマラに聞いてみるか。
「ねぇアマラはなんで僕を同行させたの?」
馬車の中で寝そべって休んでいたアマラは面倒そうに返事をする。
「ん?なんとなく?そこにいたから?ただの気まぐれかな。ウーの得物は大きいからな。出掛けるときは荷物持ちがいないと不便なんだよ」
「そーですか~」
ライは理由を聞いて肩透かしを食らった気分になった。アマラはそんなライの姿をみてもう少し伝えておこうと思った。
「まあぁ、実のところアーをみたときビビっとウーの獣の勘のアンテナが働いたのが理由かな?」
またまたアマラは不明瞭な理由を言った。
「それにアーは各地を旅する予定があるんだろう?ウーは人を探していてな。アーがその人を見かけたら教えてほしいと思ってな」
アマラは寝ころんだ状態からあぐらをかく態勢に移った。
「探している人? どんな人ですか?」
「ウーの妹だ。名はカマラ、ウーと同じ獣人でウーとは違い青髪だ」
「妹さん。行方不明なのか?」
「行方不明ではない。突然現れた男に拐われたんだ」
「……わかったよ。見かけることが会ったら教えるよ」
「うん、そのときはよろしく頼む」
アマラは話終えるとすぐにまた寝転んで休んだ。
ライはアマラが寝息を立てはじめたので自分も休むことにしたが、寝ようとしたすると馬車の揺れでうまく眠りに入ることができなかった。チラッと目を開けてアマラを見ると、馬車の中で眠りこけている。揺れの中で寝るのに慣れているのか、とても気持ち良さそうにイビキをかきながら眠りについている。
ー緋色のハンターにでもなるとこんなふうになるのかな。
ーそれともアマラの神経が図太いだけなのかな。
ガタカダと二人を乗せた馬車は目的地に向かっていった。ライも馬車の揺れに慣れて眠りに落ちようとしたとき頭の中で声が響いた。
【できたのじゃー。おぬし起きるんじゃ!?】
ーなにリブラ?
ーあと少しで眠れそうだったのに。
【ふっふっふ。おぬしのわれに対する不当な評価を変えさせるために魔術回路をいじっておったのじゃ】
ー不当な評価?
ー僕の魔術回路をいじって何してたのさ。
ー僕はいま眠いからあとで聞くね
ーおやすみなさい
ライはそう言うとまた眠ろうとした。
【待つんじゃ。話を聞いてから寝ればよかろうが、おいおぬし寝るでない。起きるんじゃー】
ライは喚くリブラの声を聞きながら安らかに眠りについた。
*****
あるところに、小さな子供の男女二人がいました。二人は森林でよく楽しく遊んでいました。強気で活発な女の子はいつも元気に駆け回っていました。男の子はそんな元気な女の子にいつもつれ回されていました。ある日二人で公園で遊んでいると大きな人が女の子を誘拐しました。泣き叫ぶ女の子、男の子は女の子が誘拐されたときに近くにいましたが怖くて隠れてしまっていたのです。男の子は自分が逃げることで頭がいっぱいだったのです。三日後女の子は無事に保護されましたが、女の子はあの日から男の子とは遊ぶことはなくなりました。そして男の子はあの日から立ち向かうことに恐怖を覚えました。男の子は「なんであのとき助けてくれなかった。なんで逃げたの」という女の子の声の幻聴に悩まされる日々を過ごすようになりましたとさ。
*****
ガタンと馬車が大きく揺れる。ライはその揺れで目を覚まして周りを確認すると、アマラは既に馬車にいなかった。ライは何があったのか確かめるために馬車の中から頭を出す。すると馬車の進行方向に魔物が数体いるのが見えた。
【おおたくさん魔物がおるのう〰】
リブラは危機感がないようなのんびりした口調だった。
ー魔物だよ!?
ーなんでそんなに落ち着いてるの?
【ほれアマラが魔物にむかっていっとるじゃろ】
アマラは数体の魔物に大剣を担いで単身突進していく。アマラは舌舐めずりをして魔物を一瞥する。
ーさーてどのくらいまで耐えてくれるかねぇ。
担いだ鉄の塊を振り回す。魔物は剣に当たると、切られるというよりハンマーで殴打されているかのような衝撃を受けた。アマラは1体吹き飛ばすともう1体と魔物の群れの中で暴れまわっていた。アマラは倒せば倒すほど体が高揚していくのを感じていく。
ーすごい。
ライはアマラの戦いぶりに感心した。
レオニードのときは、魔物を一刀で断ち切り闘いながらも舞っているようなイメージを受けたが、アマラの闘いは荒々しいイメージを植え付けられた。
【うむ。凄腕の勇者とはわかっておったが、ここまですさまじいとは予想以上じゃ、】
ライはアマラと魔物の戦いを観戦していた。
「いやーいつみてもアマラの戦いぶりはすごいわ」
馬車の操縦者はアマラを何度か乗せたことがあり、アマラの戦いを何度か見たことがあったようだった。
「あのーすみません。他の勇者もあんなに強いのですか?」
ライは勇者に興味がわき、馬車の操縦者に聞いてみた。
「アマラは特別だよ。二つ名の異名をいくつも持ってる人なんてそうそういない。赤い悪魔、巨獣殺し、鉄の台風、色んな呼ばれかたをしているが、代表格は真紅の勇者って呼ばれてるわな。ハンターランク緋色最年少の期待の星だ」
馬車の操縦者はアマラのことを信頼しているのか魔物が襲ってきているのにも関わらずまったく慌てていなかった。あの程度の魔物に不覚を取るアマラではないと知っているからだ。
ハンターランク緋色に若冠18歳でなった勇者。大陸中に名を轟かせている勇者の一人、それがアマラという女性であった。
しばらくすると、アマラは魔物の群れをものともせず、近所のお使いを済ませたかのように馬車に戻ってきた。
「ん? どうしたんだ?」
アマラはライがじっと見つめてきたので聞いてみた。
「お疲れ様。アマラは強いんだね」
「まあね。強くなければ生きていけなかったからね」
アマラは顔にヒトコマだけ陰を落とすが、すぐにいつものニヤついた笑顔になった。
「ウーと知り合いになれてアーは運がいいぞ。ウーは強いからな」
アマラはライをおちょくるように腰を突いて、また寝ころんだ。
ーほんとにアマラは強い。
ーこの世界で生きていくということはアマラのような強さを得ないと駄目なのかな。
【あほめ、別に強さだけが生きていく方法ではないじゃろうが。この馬車の操縦者のように支える者になるという道もあるのじゃぞ】
ーそれはわかってる。
ーでも僕は…強くなりたい。
【そうか……。おぬしの人生じゃ好きにせい】
ーうん。
ーでも僕は人生を悩む前に先に星の欠片で寿命を延ばさないとね。
【そうじゃのう。それがおぬしの第一目標じゃな】




