19 受付の男と、女の笑顔は……
ハンター協会の扉はウエスタンのスイングドアであった。スイングドアを押して通り抜けると、そこには屈強な人達がテーブルや壁にある依頼書や指名手配の用紙を確認する姿があった。受付には人だかりが出来ており、直ぐにはハンター登録をすることは出来なそうであった。
ー受付の列に並んで待つとしますか。
「だから、そんな不確定な情報で魔物を退治に行けないの。何も情報がないのに人員を増やせない?ちゃんとした安全マージンがないと私たちのパーティはうごけないわ」
「そうは言いましても――――」
僕の並んでいる行列は先頭にいる人と受付の人か揉めているようだった。
ーう~ん。
ー並ぶところ間違えたかな?
ライは隙をみて空いている受付の行列へと移った。妙に他の受付と違ってあまり人が集まっていない行列に並んで数分後やっと受付の人までたどり着く。
「今日はなんの用で?」
受付の人の態度は悪く、顔にシワを寄せながら話しかけてきた。ここの受付に人が少なかったのは受付の対応が悪いからだろうと思った。
「あのーハンター登録しに来ました」
「ハンター登録? 依頼じゃなくてか?」
受付の方はライをじろじろ見て、値踏みするように観察する。
「まあいいかぁ。この登録用紙に書いて提出してくれ」
登録用紙を渡されたがライはそこに書いてある文字が読めなかった。
「すみません。文字が読めないんですが…」
「なに!? …めんどくせぇが仕方ねぇか。おれが代筆するから口頭で言え」
この受付の人は口は悪いが根は優しいのかもしれないと思った。
「すみません」
ライは名前、運動経験、スキル、クラス(勇者出来損ないではなく一般人を)等を伝えた。
「うーん。おめぇなんも生かせそうなやつがねぇな。まあぁ今後の成長に期待ってところか……。ちょっと待ってろ.免許証を渡すからよ」
そういって後ろの戸棚から白いカードを取って、ライに渡してきた。白いカードに書いてあることはわからなかったがナンバーみたいなので識別してることはわかった。
「これでおめぇもハンターだ。一言忠告しておくが、はっきりいうと白のハンターは誰でもなれる免許だからな。調子に乗ってバカなことを起こすなよ」
そういってライに注意を喚起する。
「あの聞きたいことがあるんですが、ハンターランク緋色になるにはどうすればいいんですか?」
「緋色だぁと?おめぇハンターランクについてまったく知らねぇな?」
「あっ……はい……教えてくれませんか?」
「まあぁいいか、目標があることはいいことだからな。まずハンターランクは上から順に『紫』『緋』『紺』『碧』『黄』『黒』『白』と色分けされてある」
そういうと、ライに分かりやすく理解出来るようにハンターランク図解表を見せてくれながら説明をしはじめた。やはりこの受付の人は親切な人なんだとよりいっそう感じた。
「白は誰でもなれる。はっきりいうとそこらにいるガキでも持ってるわな。白から黒へ、ランクを上げていくにはある程度の実績が必要になる。そうだなぁ目安としては低ランクの魔物を一人で狩れるようになったら黒だな。黄と碧はその積み重ねでなれるランクだ。だけどな『紺』からは別格だ。現在『紺』のランクの大半は勇者に成った奴等で埋め尽くされてる。碧と紺が普通の人間との境目みたいなもんだ。その『紺』の一握りしかなれないのが『緋』だ。はっきりいって都市に一人いるかいないかだな。この街でさえ3人しかいまはいねぇ。『紫』なんて実在してるのは二人しかいねぇ」
ー……リブラ。
ー僕が緋色になるのは厳しそうだね。
【うむ、そのようじゃのう】
「そういやおめぇ、勇者でもねぇのに、ハンターランクを上げたい目的でもあんのか?」
「星の欠片についての情報が欲しいんですけど、雀の涙で聞いたらハンターランク緋色以上じゃないと閲覧出来ないらしいので」
「星の欠片ねぇ。俺もあんまり詳しく知らねぇな。まあぁおめぇをみてると緋色なんかどうあがいてもなれねぇだろうな」
この人は口が災いして受付の人気がないことがわかった。
「そうですよね……何か方法ありませんか?」
「うーん。緋色のパーティに入って閲覧するとかならいけんじゃねぇか?おめぇが緋色のパーティになれるとした精々荷物持ちとかしかねぇけどな。その前に緋色の奴と知り合うことが難しいわな」
受付の人は口に手を当てて髭をいじりながら、期待をもたないように言ってきた。
「あれ? アーこんなとこでなにしてんだ?」
ライは最近聞いたような声がしたので声のした方に振り返ると、そこにはアマラが立っていた。
「いや~。ハンター登録をしにきたんだよ 」
「なんだアーはハンター登録もしてなかったのか。ほんとに世間知らずな旅人だなぁ」
そういってアマラはライをおちょくるような口調で笑った。
「そういうアマラは何しにきたのさ」
「ウーは仕事の終了報告を『ガンナ』の旦那にしにきたんだよ」
ガンナと呼ばれた受付の人はライとアマラの顔を交互にみていた。
「おい坊主、アマラと知り合いだったのか」
ガンナは意外な様子で聞いてきた。
「さっき助けてもらった仲です」
「ガンナの旦那、こいつおもしろいんだよ。ローウルフの集団に身ぐるみ剥がされて震えてたんだ」
アマラはライを小馬鹿にするようにガンナに報告する。
「ローウルフだって!? そりゃ珍しいな。アイツは滅多なことじゃ人を襲わねぇのにな。おめぇメス犬と勘違いでもされたのか」
ガンナもアマラと一緒に笑っていた。
ー僕にとっては死活問題だったのに笑うなんて酷すぎるよ。
「あっー久しぶりに笑ったよ。そうだおめぇアマラと知り合いなら星の欠片の件を頼んでみろよ。アマラは緋色のハンターだからな」
「えっ? なんのこと?」
アマラはなんのことかわからなかったので、ガンナにいままでの経緯を聞いてみた。聞いたあとにアマラはライの目をみつめた。
「なんで星の欠片の情報を知りたいの?」
「僕の状況を改善するために星の欠片が必要不可欠だからかな?」
ライは抵抗値の件は言わずに、嘘を練り込まないように言った。ライは何故だかアマラに対しては嘘をついてはいけない気がしていた。
アマラはライの目をじっーと見つめる。
「うん。手伝ってやってもいいよ」
「ほんとに、ありがとうございます」
「でも、タダでとは言ってないよ?」
アマラは唇を吊り上げるようにして笑った顔をした。




