16 新しい出会い、褒められることでは……
ザウラース王国領内南にある『サラリー街道』、ザウラース王国首都アルハゲ城と街を繋ぐ道である。サラリー街道は商人が行き交う通り道として重宝されていたが、近年魔物が出現するようになり商人達の足取りが失われつつある街道であった。そこに一人で歩く、いや走る少年がいた。
まだ城から少ししか離れていないから油断していた。
地図に街道って書いてあったから比較的安全だと思っていました。
「だれかたすけてぇー」
只今ライは魔物に追われている。初めての旅路で浮かれて、楽しく鼻唄を口ずさんでいたら、運悪くヨダレを垂らした狼の魔物の集団と出くわしてしまっていた。
かぶっ
「ああ! 尻を噛まないでぇ!」
尻を噛んだ一体を合図のように、他の個体も噛んでくる。狼たちはライを味見するかのように甘噛みを繰り返す。
ーああっ、僕は美味しくないですよー。
かぶっガブガブ
狼に噛みつかれ服はボロボロになっていく。
「大丈夫か! そこのおとこ!」
剣が振られた、ライに群がっていた狼は「きゃうん」と鳴き声をあげてどこかへ去っていく。狼の去り際のよさを不思議に思いながらも、ライを助けてくれた人を見た。
そこにいたのは、深紅の髪を靡なびかせ、手には剣を持った女性であった。
「生きているかい?」
「ああっ、はい」
「それならよかった」
女性は剣を背中に背負う、背負った剣は巨大であった。それはまるで剣というよりも鉄の塊、女性が剣を地面に突き刺せば、女性が隠れられるほどの巨大な剣であった。
「街道だからといって一人旅はおすすめできないねぇ。ウーはハンターのアマラ、アーの名前は?」
「僕は天童ライ、旅人です」
「それにしても酷い格好だね」
着ている衣服が狼に噛まれ穴だらけ、ライは追い剥ぎにあった少女のように震えた。
「そんな格好でこの先を進めないでしょ。ウーの馬車に乗せてやるよ。ついてきな」
アマラはライを手招きしてくれた、頭に付いているふたつの獣耳を揺らしながら。
ライはアマラたちの馬車に乗せられている。
「そうか。アーもガルドシールに向かっていたのか、それなら行き先は同じだわ。旅は道連れ、このまま馬車に乗って行きなさい」
「何からなんまで、ありがとうございます」
ライはアマラと一緒に居た男性のかたの予備の服を渡してもらい、馬車のなかで白湯を飲んで寛いでいた。
「旅行記を書くために旅してるって言ってたが、さすがに一人旅は無謀すぎるだろう。ガルドシールに着いたら護衛のハンターでも雇うんだな。そうじゃなきゃこれから先、命がいくつあっても足りなくなるぜ」
アマラと同行しているハンターの男性からそう言われてしまった。
「そうですね。考えておきます」
「それにしても、『ローウルフ』の奴等が人を襲うなんて珍しいね。普段は温厚で人なんか襲ってくるような奴等じゃないのになぁ。アーなんかしたの?」
「いえべつになにも、僕とあったらヨダレを垂らしていきなり襲ってきたので」
「不思議だねぇ」
アマラは深紅の髪に埋もれている獣耳を揺らしながら考えこんだ。
「あのーすみません。アマラの頭にあるモノって……」
「あたま?ああ。ウーみたいな獣人と会うのが初めてなのか。ウーは犬の獣の一族なんだよ」
「獣人?」
僕は頭の中で誰かに問うように考えた。
【この世界には獣の血と人間の血を持ったハーフみたいなもんがおるんじゃ。そこのアマラは犬の獣の血を受け継いでおるんじゃよ】
ー魔物とは違うの?
【魔物とはまったくの別物じゃ。第一、魔物は魔核を持っとるから魔物と呼ばれておるんじゃ。獣人は魔核を持っとらんから魔物とは呼ばん】
ー獣人で魔核を食った人は?
【それは勇者じゃろうが。それにのう、この世界には普人族にんげんや獣人族の他にも、竜人族、魚人族など多種族がいっぱいじゃ】
ーそれってエルフもいるってこと!?
【エルフ ?う~む、深林族のことかのう】
ーおお! この世界を旅するのが楽しくなりそうだ。
「そんなにじろじろ耳を見るな。恥ずかしいだろうが」
「ああ、ごめんなさい」
ーライはアマラの獣耳を凝視していたようだった。
ーそれにしてもアマラは犬の獣人って言ってるけども尻尾がない。そんなに獣人は獣の特長をもってないんだろうか?
「なにかウーに聞きたいことでもあるの?」
「いや~。獣耳があるなら尻尾も付いてるのかなっと思って」
「尻尾?尻尾なら服の中に入れてるよ」
「ああ、付いてるんだ。……それなら尻尾を見てみたいな」
「えっ!? …………………………」
ーーーーーーーーーーーーーー。
その一言を言った瞬間、馬車の中に静寂が生まれた。
ー……あれ? 僕なんか不味いこと言った?
【……おぬしドスケベじゃのう…】
ーえっスケベ!?
ーなんで尻尾見たいって言っただけじゃない。
【……おぬしが言ったことを人間に例えると「お姉さん服脱いでお尻見せてよ、ゲェヘッヘ」と同じことじゃよ。少し考えてみればわかることじゃろ。尻尾はお尻から生えとるんじゃぞ。尻尾をみたいとここで言うということは衣服を脱げと言うことと同義じゃ】
ーまじか!!
「あっごめんなさい。あの深い意味はなくて」
ライはアマラに謝罪をする。その姿を見たアマラは緊張をといてライをみた。
「……まあいいよ。ウーは温厚だからね。それに獣人と会うのが初めてだったということでサービスしとくよ」
アマラはそういって、馬車の中から出ると馬の運転者の所に行った。
ーうわぁ。
ーあれまだきっと怒ってるよ。
後悔の念に駆られていると男性のハンターがライの肩を「トンっトン」と叩いて、
「ナイスガッツ!! あのアマラにセクハラするなんてすげぇぞ。俺らには到底真似出来ないぜ」
と親指を立て、ライを褒め称えた。
ー……。
【……おぬしに教えておくが、あの小娘、凄腕の勇者じゃぞ】
ー………。
ー僕の旅はこの先どうなるんだろうか。




