12 僕は一人、高笑いする……
召喚者達は勇者の儀式のために大神殿へとむかった。
しかしライには関係なかったので自分の部屋で待機させられた。
「はぁ~。みんな無事に勇者になれたかな……」
みんなと別れて小一時間は経っている。
ー僕だけ儀式に参加できないかぁ……。
ーなんか悔しいなぁ……。
ーみんなの足を引っ張ってそうでいやだぁ……。
途方にくれるライ……。時間だけはあったライは考えごとに没頭した。
ーそういや神殿に向かっていたときに起きた現象はなんだったのだろう?
ーネネちゃんの前に出た僕は確かに魔物に吹き飛ばされた。
ーでも次の瞬間には時間が巻き戻されたかのように吹き飛ばされる前の僕になっていた。
ーそれに頭の中に響いた声はなんだったのだろうか?
ー頭の中で声が聞こえたと思ったら体が軽くなった。
ー短剣を振ったときの現象はなんだったのか。
神殿のなかに入ったあとも周りの人から誰もあのときのことについてライに質問はなかった。ネネも助けたあとに「ありがとう」と言われてからライとはなにも話していない。まるであの出来事がなかったかのようにライに対応していた。
ライはあのときの出来事が夢のように感じた。しかし砕けた短剣が懐にあるのが本当にあったという証明になっていた。
【おぬしが助けたと思われとらんからじゃな】
ライは考えごとをしているとき突然誰かに話しかけれた。しかし部屋にはライしかいなかった。
【はっはっは、周りにはおらぬよ。おぬしの頭の中に話しかけておる】
ーあたまのなか?
【魔物を倒してくれたおかげでおぬしに話しかけれるようになったわ】
ー話しかけられる?
【おぬし赤石に呑まれたことを忘れてはおらぬか?】
ー呑まれた??
【……こんなのがわれの宿主か……まあぁよいわ】
ーえっと……。どちらさんですが?
【われはリブラ、運命の天秤リブラじゃ。おぬしに宿っておる魔物じゃ】
ー魔物!どういうこと!
【勇者になる方法を知っとるんじゃろう?勇者は魔核を喰らって成る。おぬしはわれに喰われた。つまりちと手順は異なるがおぬしは勇者に成ったというわけじゃ】
ー……魔物さんもう少し詳しく教えてくれません?
【察しの悪いやつじゃのう。レグルスの宿主が羨ましく思えたわ。おぬしステータスを開いてみよ】
ーはい。ステータスオープン。
天童ライ
クラス:勇者の出来損ない
HP:100/66
攻撃値:20
防御値:18
敏捷値:22
抵抗値:19
魔術回路:0
スキル:無し
天性才能:無し
ー前見たときとクラスが変わってる。勇者の出来損ない?
ー僕は勇者に成ったの?
【う~ん。勇者とはちと異なるが勇者みたいなもんじゃ。おぬしはわれに喰われたのじゃから仕方ない。そうじゃのう~おぬしがわれを御すことができたとき、おぬしは本当の勇者になれるかもしれんぞ】
ー僕が勇者に成れる。成れるならばなりたい。
【しかしおぬし弱すぎるぞ。このままでは一年もしない内に死ぬぞよぉ】
ーえっ? 死ぬ? なんで?
【ほんとうならおぬしはもう死んどる。でもそこはわれ、われのおかげで少しばかり命を延ばしてやっとるんじゃ。じゃがわれの力でも死ぬのを遅らせることで精一杯でのう~。おぬしの抵抗値が減っとることに気づいとるかのう?おぬしは魔核に喰われとる影響で徐々に抵抗値が減っていっとる。おぬしの命は抵抗値が0になるまでの時間制限があるということじゃ】
ーそんな……。
ー僕は死ぬのか……。
【……おぬしはもっと生きたいかのう?】
ー……生きたい。生きたいよ。
ーまだなにもしてない。
ー女性と手を繋いだこともない。
ーデートもしたことがない。
ーキスもしたことない。
ーもっともっと色んなことがしたいよ。
ー○○○もしたい。
ー○○だってしたい。
【……おぬしちと煩悩が多くないかのう……】
ーどうやったら生き延びられる!?
【簡単なことじゃ。抵抗値を上げればよい。それだけじゃ】
ーえっ? でも抵抗値は上げる方法はまだわからないってシルヴァニアさんが言っていたような……。
【なっはっはぁ、それはそうじゃろうのう。人間にはまだ知られとらん。というかまだ知っとるもんが少なかろう。じゃがそこはわれ、もちろん知っとる】
ー教えてリブラさん!?
【教えてやろう、教えてやろうとも。星の欠片を集めればよい。星の欠片を食べれば、あら不思議、抵抗値が上がる上がる。びっくりアイテム星の欠片を見つけるのじゃ!!】
ー…………。
ーほんとにあがるの?
【なんじゃおぬしわれを疑っておるのか!?】
ーだってリブラは魔物なんでしょう?
ー僕に得なことしてなんか意味あるの?
【おう、おう。意味はある。おぬしが死ぬとわれもこの世界から去ってしまう。せっかくなんじゃからわれも長く生きたい】
ー僕が死ぬとリブラも死ぬから力を貸すってこと?
【そうじゃ、それに既におぬしが死ぬようなことをしたとき力を貸したであろう?】
ーいつのこと?
【ほれ、おぬし牛の魔物の『コルヲ』に吹き飛ばされる経験をせんかったか?そこでほんとうはおぬしは死ぬ予定じゃったんじゃよ。じゃがそこはほれ、われの魔術でちょいちょいと巻き戻してな、そんでもって近くにおった知り合いから力を拝借してやったんじゃぞ?われのファインプレーにおぬしは感謝するんじゃぞ】
ーあれってリブラの魔術だったのか。
ーん? リブラって魔術使えるの?
【もちろんじゃ。われが使えん魔術はないといっても過言ではないぞ】
ー僕にも魔術って使えるようになるの?
【なっはっはぁ、なにをいっておる。われがいま使える魔術はおぬしを通してのみじゃ。われはおぬしの魔術回路に住んでおるからのう】
ー魔術回路に住んでいる?
ーまさか!? 僕が魔術回路測定器で0って診断されたのってリブラのせいか!?
【おっそこは察しがよいのう】
ーということはリブラに言えば魔術を使ってくれるってこと?
【あまりわれの力をあてにするのはやめておいたほうがよいぞ?】
ーなんで?
ー前のときみたいに僕の身体能力上げてくれたりしたら魔物を相手するのが楽になるじゃないか。
【それはのう……。われが魔術を使うとおぬしの抵抗値が下がるんじゃよ】
ー……。
ーつまり……。
【われが魔術を使うとおぬしの寿命は縮まるということじゃな】
ーそんなぁ……。
ーまって!?
ー僕の抵抗値が11減ってるのって……。
【あのときの魔術のせいじゃ】
ーうそーん。
ーということはリブラは僕に力はくれないの?
【力はやれんが、知恵はやろう。われの知恵による助言を聞けるんじゃから、星の欠片なんぞ直ぐに2個や3個ちょいちょいとみつけてやろうもんじゃ】
ーつまり僕はこのままってことね。
【大船に乗った気持ちでおるがよいぞ。なっはっはぁ】
異世界転移生活五日目
知らぬ間に僕の魔術回路に高笑いをする魔物が住み着いてました。




