11 召喚者達の決断、僕とみんなとの……
先日、ザウラース王国首都アルハゲ城に魔王の軍勢が突如攻めこんできた。その被害は甚大であり、城下町の建物の半数は焼け焦げ復旧のめどいまだたってはいない。この事件はザウラース王不在により、城の警備が少なくなったときを狙われたものと国民に公表された。この知らせを聞いたザウラース王は首都襲来の翌日には準備を整えてアルハゲ城に帰省することとなった。
異世界転移生活五日目
アルハゲ城内議会場にて。
「みなさんが無事で嬉しく思います。きっとレオニードさまも無事ですわ。そんなにみなさんは責任を感じることはありません。むしろ責任はこちらにありますわ」
シルヴァニアはこの議会場に召喚者達ライたちを集めた。シルヴァニアさん以外にも騎士団長、宰相、神殿長など国の偉いかたが集結している。
「こんなときだからこそみなさんのお力が必要になります。勇者の儀式を執り行うことを了承していただきたく思います」
シルヴァニアさんは熱心にライたちを勇者に成るように説得しようとしていた。しかしライはその熱心さは逆に不信感を抱かせた。そう、まるで時間に追われている人のように見えたからだ。
「その前に俺らに教えてないことがあるんじゃないですか?勇者になっても生き残る可能性とかさ?」
レオニードの代わりをするかのように、軸原はシルヴァニアさんと対談している。
「……知っておられたのですね。……その様子だとレオニードさまがみなさまにお話ししたのでしょうか?」
シルヴァニアは誰から聞いたのかわかっていたようだった。
「そうだ。レオニードが勇者のこと、勇者の卵のことを説明してくれた。あんたらはそこのところどう思っているんだ?」
シルヴァニアは一度顔を伏せたが、心を決めた顔をしてライ達に向かって言った。
「勇者に成っても生き残れない人がいるのは確かです。でもみなさんは違います。勇者の卵でも特別なのです」
「……その言葉をどう信じろと?俺たちに隠し事をしていたあんたたちを?」
軸原は睨み付けるようにして、ザウラース王国の偉い人たちをひとりひとり眺めた。さすがに騎士団の方々や宰相などは顔色を変えることはなかったが、神殿の関係者の中には額から汗を流している人が見受けられた。そんななか神殿長カノールが右手を挙げ、発言をした。
「みなさまは勇者になられる方法もお分かりと存じ上げます。確かに普通に勇者に成ろうとしますと生き残ることは奇跡と言えます。しかしそれは普通の方々ならばです」
カノールは軸原に対して強気の姿勢で話す。
「というと普通じゃない特別な方法でもあるのかよ?」
「ございます。近年発見された方法ではありますが、勇者になれる者を事前に調べる方法があるのです」
「その方法とは?」
「先日まことに勝手ながら、みなさまのステータスを確認させていただきました。そのときに実は調べさせてもらっておりました。いままで勇者に成った者のすべてが抵抗値は70以上を上回ってっているのです。つまり一人を除いてみなさまは勇者になれる方々なのです」
カノールがそう言ったあとにシルヴァニア見た。シルヴァニアは頷くと話を引き継ぐ。
「これは我が国のトップシークレットの情報ですが、みなさんに信じてもらうためにも言わせてもらいますわ。そもそも抵抗値とは魔術をどのくらい防げるかという数値ですわ。勇者になるには魔物の魔核を体内に摂取しなければなりません。体内に入った魔核はその食べた者の中で暴れるのです。暴れる魔核を制御することに成功したものは勇者に、制御出来なかった者は命を失う」
シルヴァニアは一言ごと紡ぐように語る。
「なるほどね。死ぬ原理はわかってしまうと単純だったってことか。でもそんなことがわかっているなら俺らじゃなくて他の人を勇者にすればいいじゃないか」
軸原が疑問をぶつけると、シルヴァニアは首をふって応えた。
「できるならばしていますわ。ですが抵抗値は70以上となると滅多におりません。ステータスの攻撃値や防御値は鍛えれば上げることはできます。だけども、抵抗値を上げる方法はまだ見つかっていませんの。我が国の民の抵抗値は高くてもせいぜい50あるかないか、70以上の者を国民から見つけるのは容易ではありませんの。だからこそみなさんに望みをかけて異世界召喚を行いました」
ーそうだったのか。
ー僕たちを異世界から召喚した理由は抵抗値の高い人を見つけるためだったのか……。
ー確かにみんなは抵抗値が高かった。
「あんたたちの言い分はわかった」
「それでしたら……」
「勇者には成る。但し条件がある」
「条件とはなんでしょうか?」
「俺たちの今後の生活の保証をしてもらいたい。勇者に成る者、成らない者すべての人をだ。それが了承できないなら、勇者になってもあんたたちの協力はしない」
軸原がそう言うと、ザウラース王国の面々は僕の顔を見た気がした。
「わかりましたわ。ザウラース王国第二王女シルヴァニアの名前に誓って生活の保証をしましょう」
軸原はニヤリと笑う。
「俺たち10名のうち、勇者になるのを希望するのは全員だ。よろしく頼む王女さま」
ーシルヴァニアさんがどんな返事をしても、あらかじめ僕たちは勇者に成ろうとする気持ちに変わりはなかった。先刻の魔物の襲撃で僕らは神殿内で集まった後に思ったんだ。この世界は弱者には生きづらい。勇者にならなかったら、いつまた魔物が襲ってくるのか怯えて過ごすことになる。そしていつかは死ぬ。そんな結果を受け入れるくらいなら勇者に成ろうとして死ぬのも同じ。怯えた生活から脱却する方法が目の前にあるならそれにしがみついても成ろうとする。僕らはみんなそんな選択をする人だから、この世界に召喚されたんだと思う。
「わかりました。いますぐ勇者の儀式の準備をしますわ」
ーさあがんばろうここが僕らの分岐点だ。
「あっライさまは勇者の儀式を辞退してくださいね。抵抗値が70を越えていませんので」
ー勇者と勇者でない僕とのね。




