10 時は戻る、天秤の片鱗……
古井里ネネがコケた。
牛に似た魔物が咆哮をあげ、突進してくる。その直線状には古井里ネネがいた。
ーあれ、この光景はさっきも……。
ライは不思議な感覚に襲われる。
〰動きな小僧。
〰代償は支払われた。
〰いまのおまえには目の前の命を救える力がある。
ライの頭の中で声が響いた。
聞くもの全てををひざまずかせるほどの威圧的な声。
ライはその言葉を疑うことなく受け入れる。
ー力……いま力があるなら僕は……。
ー護りたい。
〰ゆけ小僧。
〰お主の天秤に我の力を貸してやるのだ。
〰無様な姿を晒すな。
その声に後押しされるようにライは古井里ネネの元へ駆ける。ライは体が軽く感じた。さらに周りの風景がまるで停まっているかのように動く。どんどんと体全身に力が湧きあがってくる。
ーこれなら……イケる。
ライは懐から短剣を取りだすと、取り出した短剣は紅く煌めくモノに包まれていた。ライは気にすることなく短剣を牛の魔物に振りかぶる。そして短剣の剣先から紅い刃が放たれ、前方の物体全てを切り裂いていく。地面が、魔物が、建物が裂けていく。その刃は留まることなく断裂していく。
あまりの威力に刃を発した短剣は「ぱりん」と音が鳴り砕けていった。
〰我が助力はここまでだ。
〰我は宿主の元に戻らせてもらう。
〰我が力を借りたければまた天秤を傾けるがよい。
そして威圧的な声が聞こえなくなると体が重くなった。いつもの自分の体に戻ったのだった。
ライの近くにはネネがへたりこんでいた。ネネは立ち上がるとライにお辞儀をする。
「あ、ありがとうお兄さん」
ネネはそういってまた神殿へ向かった。ライもネネちゃんの後ろについていくようにして歩いた。ライとネネは神殿まで魔物に襲われることなく無事に着いた。
ライは不思議に思い魔物を見渡すと、先程まで暴れまわっていた魔物が動きを停め空を仰いでいた。動きを停め、何秒間もなにもすることなく佇む。すると突然魔物たちが動き出したと思ったら空を翔び、城から離れていった。
こうしてライたちの魔物との初遭遇は終わりを迎え、生き残ったことをみんなで喜んだのだった。
このときレオニードの姿が見えないことに気付くことはなく。
*****
「よもや偽造の星核の近くに本物の星核があるとは思いもしなかった。偽造の星核を放っておくのは忍びないが戦果はあったのだ。これをアンタレス様の手土産として今回は引き下がるとしましょう」
そこには魔物の集団に運ばれるレオニードの姿があった。




