9 格好いい背中、天秤は……
城の上空、そこには魔物を埋め尽くすようにいた。
「召喚者さま、こちらです。急いでください」
騎士一号に連れられ僕らは走る。周りには騎士たちが魔物と応戦するため城内を駆け回っている。城や城下町、そこらじゅうから火の手があがっている。ライたちは魔物に出会わないことを祈りながら場内を移動する。そして地下シェルターに近づいていく。
「この階段を降りれば地下シェルターに」
グシャ
先頭を歩いていた騎士一号の顔がトマトのように僕らの目の前で潰される。ライ達は視認する。騎士一号を襲った魔物は鳥のような頭、四メートルはあろう巨体、四つの翼、鋭く尖った爪に滴る血。鳥の魔物は次の獲物を探すように周りを見渡す。魔物の目はライ達を捉えた。ライの背中から冷たい汗が流れる。
ーいやだ。こんなところで死にたくない。
ーば、バケモノから逃げないと。
ライは魔物から逃げようと後ろに下がろうとする。しかし逃げるよりも早く鳥の魔物がライに向かって大きな爪を突き立ててくる。ライの目の前に爪が迫ったとき、横から人影が滑り込んでくる。
ガッキン!!
レオニードがライの前に割り込んで、魔物の爪をレオニードが刀で受け流した。
「下がれ。こいつは俺が引き受ける」
レオニードは修練場のときに手に入れた刀を使い魔物と対峙する。レオニードに睨み付けるようにみつめられた魔物は爪を振り上げレオニードを切り裂こうとするが、レオニードはわずかの隙を詰めるように、振り上げられた爪を掻い潜り、身をさげて横を通りすぎながらも刀で薙ぎ払う。その一刀は鋭く魔物の胴体を断ち切る。一刀のもとに断ち切られた魔物は絶命したのか前のめりに倒れた。
レオニードは切った魔物を気にもせず、辺りを警戒する。
「すぐに次の魔物が来るかもしれないな」
そう言うとレオニードは刀に付着した血を払うかのように刀を振る。
レオニードが魔物を退治したおかげで、ライ達は次の魔物がくる前に地下シェルターに避難しようとするが、不運なことに地下シェルターへの通り道は瓦礫で塞がれていた。
「仕方がないか……ステッラ神殿に行こう。あそこは聖域の魔術により魔物は進入できない構造だ。安全地帯になっているはずだ」
レオニードの言うことを信じてライ達一行はステッラ神殿へ行くことにした。
道中ライ達を見つけては襲ってくる魔物の群れがいたが、そのすべてをレオニードは一太刀で刀の錆びにしていく。魔物の血で汚れたレオニードの姿はまるで鬼のようであった。
ライ達はしばらく歩いていくと神殿の付近まで来られた。神殿の前に着くとそこには神殿を囲むようにして魔物が集まっていたが、魔物の群れは囲ったまま動こうとしていなかった。
よくみてみると、レオニードの言ってたとおり神殿には近づくことができない様子で、魔物は神殿に進入しようとしては見えない壁に弾かれている。つまり神殿は魔物の進入することが不可能な安全地帯を保っていた。
だけれどもそれが意味することは、ライ達が神殿に避難することも困難な状況でもあった。いくらレオニードが鬼のように強くてもみんなを守りながら神殿内へ入るのは厳しい。
レオニードはこのままここに隠れているのは危険と考え意を決して言った。
「俺が魔物を引き付ける。道が出来たら全速力で突破しろ」
「レオニード、おまえ一人でやれるのか」
軸原は剣を持ちながら聞いた。
「……ハッキリ言うと厳しいだろう」
レオニードの弱気な発言に軸原は少し考える。そして早乙女の顔を流して見たあとにレオニードに言う。
「一人より二人のほうが魔物は寄ってくるだろう?」
軸原は剣を上げてレオニードに笑いかける。
「……生き残れる保証はないぞ」
「それはみんな一緒だろ?それに俺は美樹を護るように親に言われてるからな。こいつをしっかり神殿に行かせられるようにしねぇとな」
軸原は真剣な顔をして言う。
「武志…あなた」
早乙女は軸原を心配そうな顔で見た。
「美樹……そんな顔すんな…俺もあとから合流するぜ」
いつもやっているように早乙女の肩を軽く叩いて応える。軸原の行動に感化されたのかカルがレオニードに近寄り。
「そうゆうこっちゃならわても囮になりまっせ。わて体デカイから目立って囮には最適でっしゃっろ?」
軸原とカルの顔を眺めるレオニード。二人の顔からは意思の固さが伺えた。
「……わかった。軸原とカルは俺と共に囮役をする。他のみんなは神殿へ突入だ。男は女性を守りながら走れ、それくらいはしてみせろ。……よし行くぞ」
レオニードは軸原とカルと拳を合わせたあと、三人は囮になるために魔物の群れの前に出た。
「こっちだ魔物ども!! かかってこい!!」
「こんなところで死ぬわけにはいかないんでな」
「わての肉体美に魅せられてみー」
三人は魔物を引き付けるように大声をあげる。それに気づいた魔物は三人に襲いかかっていった。
ー……なんでそんなにカッコいい行動に出られるんだ。
ー死ぬかもしれないんだぞ。
ー騎士一号みたいになるかもしれないんだぞ。
ー逃げろよ…逃げてくれよ…そうじゃないと…
ー僕は……僕は……情けない……。
ー僕が何人いてもあんな行動は選べない……。
ー僕はいつまでたっても平凡なままだ。
ー力があるからあんなことが選択できたのかな?
ー……違う…力があっても僕なら逃げた…そして…。
ーあんな行動が出来るから力があるんだ。
ー僕はいつも勇気がないから……平凡なままなんだ。
ライは三人の後ろ姿と自分の姿を比較していた。
そんななか、三人は徐々に魔物に囲まれていく。レオニードが魔物に切りかかる。軸原とカルはレオニードの背中を守るように場所を取っていた。
三人が魔物を引き付けているが、いつこちらに気づいて襲ってくるのかライ達は怯えていた。そしてそれに耐えきれなくなったユートが神殿に向かって跳びだした。
「ぼくはもういくぞ」
ユートはフライング気味に神殿へ駆ける。それに追随するようにみんなが動きだした。しかしライは反応が遅れた。
「ライくん!! ぼっーとしてないで行くよ!」
ライは早乙女に手を引っ張られながら走った。三人のおかげで通り道が空いている。みんな一心不乱に神殿へ走る。前を見るとユートがいち早く神殿にたどり着いていた。ライもみんなも急いで神殿へ行こうとする。だかしかし焦って走ったために足元がおそろかになる。
「あっ!?」
古井里ネネの脚がもたれ、コケた。コケた拍子に小石の破片が魔物の方に転がった。そしてその音で魔物の数体がライたちに気づいた。
ライの首すじがチクリと傷む。牛に似た魔物は咆哮をあげながら、コケたネネちゃんに体当たりをしようと接近する、そんな映像が頭の中で流れた。
ライは早乙女の手を払い、ネネちゃんの前に立ち塞がった。その瞬間、ライの体は宙に舞った。
……
……
……
……
……
……
……
……
「正義のはかりが傾きました。レグルスとの同調を開始します」
頭の中で無機質な声が聞こえた。




