表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

1

 俺は高校に入るとすぐにバイトを始めた。

 バイト先は親父のつてで知り合った、同じ高校のOBが勤める会社。

 ガテン系の、肉体労働ね。土木作業ってやつ。

 中学出たばっかの貧弱小僧でも、現場にはこまごました作業も多いから、手先が器用な俺は意外に重宝がられた。

 作業員はけっこうじいちゃんが多くて、若いってだけで重宝されてたかもしれない。道具の使い方とか現場の手順とか、じいちゃんたちに比べれば全然覚えるの早かったから。

 まあ、夏休みになる頃にはかなり体も鍛えられてきたけれどね。



 バイトの目的はパソコン。

 昔から憧れてたけれど、親は買ってくれない。

 欲しけりゃ働いて買え、と中学生の俺にも本気で言ってのける親。

 実際、パソコン買う金なんかうちには無かったし、本気で欲しい物があったら働いて買わないと、という覚悟は、ガキのころからあった。

 入学早々、親父が、緊急工事で土日でも現場がある会社で、知り合いが人手を欲しがってるというネタを仕入れてきた。俺は迷わずその知り合いという人に連絡を入れてもらった。

 バイトは体的にはかなりきつかったけれど、楽しかった。バイト先のOBさんにも可愛がられてたし。

 クラス屈指の貧弱君だった俺だけれど、中3の頃から伸び始めた背に、バイトの肉体労働で筋肉が追いついて行く感じで、自分でも、ひょろかった体が少しずつがっしりしていくのがわかって、うれしくて筋トレまで始めたりした。

 小児喘息だったから、それまで体を鍛えるとかいう発想がそもそも無かった。



 肌が白くてひょろいから「幽霊」とか言われてた俺が、いつの間にか現場焼けに薄くても筋肉が付いた体になった夏休み近く、ついに念願のパソコン購入。

 デスクトップの安いモデルだけれど、すげーうれしかった。

 親をひたすら口説いて光を導入させ、その親がPC禁止令出すぞって脅すほど、毎日ネットにふけってた。もちろんエロサイト巡回が多かったわけだが。

 現場とPCの前とベッドの中で一日が終わるような微妙に寂しい夏休みを終えると、俺はガテン系のネットヲタクという、よくわかんない物体になっていた。



 俺がバイトしてたところ、じいちゃんも多いけれど、なにしろ田舎だから、ヤンキーも多かった。いわゆる不良、ね。元族の人も現役もいた。

 OBの人、カケスさんも元はばりばりのヤンキーで、俺が入学した頃でもうちの高校じゃ有名人だった。そんなにレベル高い学校じゃないけれど、周り見たら不良ばっかって程でもないから、カケスさんクラスのヤンキーはかなり珍しかったらしい。

 この頃はもう2児のパパで、いい人だったから信じられなかったけれど。

 うちの親父は別にヤンキーでもなんでもないけれど、カケスさんは前に親父と同じ会社に勤めていて、めちゃくちゃ世話になってたんだという。

 確かに俺が中学生の頃も、よくうちに麻雀しにきてたから、仲は良かったんだろうけれどね。

 で、カケスさんはなぜかうちの親父を尊敬していて、それもあって俺のことをかなり可愛がってくれてた。

 それがなぜかうちの高校のヤンキーたちにも知られるようになっていて、

「カケスさんの義弟」

 みたいな捉え方をされていたらしい。後で聞いてびびった。



 そのおかげで、俺は喧嘩なんかしたこともないヘタレなのに、同級生の不良どころか、3年のヤンキーにまで親しまれるという、ちょっと恐ろしい状態になっていた。

 高校生活での力関係って、中学生の頃より、外の力が影響する。

 んなことはわかっていたけれど、おとなしく隅っこでささやかに生きていたい俺としては、かなりストレスのかかる状況になってた。目をつけられずにすむ利点はあるけれど、それ以上に、ヤンキーたちのやばめな日常につき合わされるのはきつい。



 いきなり始まった喧嘩に付き合わされた時は本当に怖かった。

 連中、俺が部外者だとか思ってないし。

 傍観しようとしていると、いきなり殴りかかってきたりする。

 夏休み明けしばらくしてからだったと思うけれど、そういう喧嘩に巻き込まれて、何発か殴られたこともあった。顔一発、腹とか腕に何発か。

 翌日熱出たけれど、母親が心配するのがうざかったから無理して学校行った。

 そしたら、なんか周囲の見る目が変わってた。

 ただのおとなしいやつじゃない、キレると怖いらしい、みたいな噂があった、と知ったのは怪我も治りかけたころ。小学生の頃からの連れが教えてくれたところによる。

 なんでも、その喧嘩で俺が相手したやつが、わりと喧嘩の強さで知られていたらしい。

 カケスさんに色々やりかたは教わっていたから、それに従って、でも目の前が真っ暗ってくらいぶっ飛んだ意識で死に物狂いで反撃してたんだけれど、実は喧嘩のことはよく覚えてなかった。

 それだけ怖かったんだけれど、相手は俺の前に一人相手してて、疲れてたところに俺の相手で、予想外の狂った攻撃に呆れたのか、それともカケスさんの「親父さんには内緒な」という指導がよかったのか、一応俺が勝ったって事になった。

 生まれて初めて喧嘩した結果は、周囲にヤンキー認定されるという嬉しくないオマケつき。



 それでも俺がヤンキー街道をひた走らずに済んだのは、まずは俺がヘタレだったこと。

 喧嘩なんか二度としたくないって思ったし、巻き込まれるのも勘弁。

 それから、DQNカコイイ! とか思ったことは一度も無かったってのもある。

 あからさまに不良ですってかっこしてる同級生を呼び捨てで呼ぶのってかなり抵抗あるけれど、俺は普通に呼べた。だって、連中の方がそれでいいよって雰囲気になるんだから。

 そのせいで連中のグループの人間みたいに見られることもあったけれど、でも決定的な違いがあった。

 今、こうして文章書いてるけれど、これ。

 文章書くことに抵抗感がなくて、それがひそかに自慢だった。

 何か取り得があると、人間なかなか堕ちては行かないようで。落ちこぼれの逃げ込む先というヤンキーの姿に、ああはなりたくないって思っていた。

 今考えると嫌な奴だけれど、でもその考え方があったから、俺はそこそこ勉強も頑張ったし、不良との付き合いも距離感を保っていられた。



 二学期も後半になると、夏休みデビューした奴が結局落ち着いてみたり、逆に弾けてみたり、夏の恋が終わって次の恋を探す奴が出てきたりして、色々と人間模様が面白くなる。

 俺はというと、喧嘩騒ぎ以来の不良デビュー説も「なんかやっぱ普通じゃん」と薄れはじめ、恋があるわけでもなく、地味で波風の立たない生活に少し物足りなさも感じつつ、でもそれが心地良かったりという毎日。

 進学校じゃなかったから、校内行事がわりと多めなうちの高校。

 伝統的に校内行事には本気で取り組む空気があって、梅雨前にあった体育祭も異様に盛り上がってた。

 特に、名物なんていわれてる騎馬戦。毎年病院送りが出るという恐ろしい競技で、今年も一人骨折者が出ていた。

 それでも学校側がプログラムから削除しないのは、なにしろ地元のOBたちがそれを楽しみにしていたから。OBの市会議員たちが腕組みしながら見物していれば、学校側だって簡単に中止できないらしい。さすが田舎。

 二学期後半になると、今度は文化祭の準備で盛り上がってくる。

 その盛り上がりも、帰宅部で委員会活動にも参加していない俺にはあまり関係がなくて、素通りできるはずだった。

 そういう中に入っていけないのは寂しいけれど、だからといって自分から手を上げて入り込もうとする積極性も無かった。

「麻雀しねー?」

 というヤンキーの誘いを受けたり断ったりという生ぬるい日常の中に埋没していたし、休みの日は相変わらずバイトをしていたから、平日くらいだらだらしていたい、という矛盾したことばかり考えていた。

 帰宅部の学生の平日なんて、だいたいそんなもんだと思うし。



 そんな事もいっていられなくなってしまったのは、いよいよ本格的に文化祭準備が始まろうとしていた頃。

 うちの学校では、クラスから一人、文化祭の実行委員というものを選んで、生徒会に差し出すのが決まりになっていた。クラス委員二人のうちの一人も同時に差し出されて、生徒会執行部の手足となって働かされる。

 だいたい文化部員は部活にかかりきりで実行側に回るなんて不可能で、体育会系だってその時期は何かしら大会があったり、文化祭に独自の企画を持ち込んだりで忙しい。

 生徒会だって部活持ちが多いから、どうしても手薄になる。

 そこを、帰宅部の人数で埋めようというわけだ。

 なんか嫌な予感はしていたけれど、見事的中。

「どうせお前放課後とか暇だろ」

 という担任の鶴の一声で、俺は文化祭実行委員という称号を頂戴するはめになった。

 そりゃ暇だけれどさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ