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テレポーター  作者: SoLa
第3章 魔法文化祭編〈上〉
80/432

無題6

「流石にいきなり過ぎると思うわけですよ、俺は」


 鬱陶しく生い茂る草を蹴り飛ばす。自分の部屋にいたと思ったらその数秒後には見知らぬ森の中だ。軽いお誘いのようなセリフとは裏腹に半ば強制的に他学園の敷地内に侵入させられた少年は、愚痴るようにそう言った。


「こうでもしないとお前は視察になんて来ないだろう」


 少年とは目を合わせる事も無く呵成は答える。


「千金。お前、奇縁に命じて渡しておいた資料に目は通したのだろうな」


 もともと目が合ってないにも拘わらず、少年は更に顔を背けた。意図せずして呵成の口からため息が漏れ出る。


「……千金」


「関係無いでしょそんなモン。ようは気に喰わねぇ奴らを皆殺しにすりゃあいいだけなんだ」


「分かっているとは思うが無関係者には手を出すな」


 声のトーンが下がった事で、千金と呼ばれた少年から愛想笑いが消えた。


「分かってますよ。せっかく名門校に潜入できてんだ。その地位をはく奪されたくは無いですよねぇ」


「それだけではない」

 千金の問いに呵成は首を振る。


「日本魔法協議会の常任理事を務める『五光(ごこう)』の方々とは、適度な距離を保っておきたいのだ」


「ウチになびいてんの1つしかないじゃないスか」


「そのパイプを切られたくないという事だ。後ろ盾が無くなれば、この国での活動は難しくなる」


「へーへー、そうでしたね」


「千金」


 全てが上の空といった返答に、呵成は露骨に顔をしかめた。


「言っておくが。お前が殺される可能性も視野に入れておくのだぞ」


 その言葉に。

 今度は千金の表情が歪む。


「あぁ? そりゃ何の冗談スか、呵成さん」


 チリッと。場の空気が変わったのを呵成は肌で感じ取った。


「……私は、それなりの手練れを用意したつもりだった」


「はぁ? いったい何の話を……、あぁ……、あぁあぁ、どっかの令嬢を誘拐しそびれた件か」


「噂の『幻血(げんけつ)属性』には期待していたのだが。どうにもガードが堅い。おかげで主だけではなく先方からも苦言を頂戴したよ」


「で?」


「その令嬢を護衛していたのが、今回のターゲットかもしれないという話だ」


「だから?」


「本当に分かってないのか?」


 呵成は、千金からの問いに舌打ちしそうになるのを辛うじて堪えた。


「私が何人あの誘拐の為に人員を割いたと思ってる。それが一夜にして全滅だ。『白い髪で餓鬼の姿をした何か』に負けましただと? 冗談じゃない。そんな荒業、ただの一般生徒にできると思うか?」


「……」


「十中八九、ターゲットは黒だ」


 返答の無い千金をしり目に、呵成は自分なりの結論へ持っていく事にした。


「主の固執する、『旋律(メロディア)』と繋がりがあるってか?」


「さて。そこまでは不明だが……。ともかく。舐めてかかると足元を掬われるという話だ。主も報告を心待ちにしている。あまり手こずるようでは面倒な事になりかねない」


「……あの狂犬か」


 呵成の言葉から嫌な事でも思い出したのか、千金は顔をしかめつつ唾を吐き捨てる。


「相手の実力云々はともかく、それなりに急いだ方がよさそうスね」


「言っておくが、今日はまだ下見だ。下手に手を出すんじゃないぞ」


 やっと理解が追い付いたかと言わんばかりの表情を隠そうともせず、呵成は目の前の少年に余計な事はするなと言外に釘を刺した。もっとも、千金はあくまで話を合わせただけだ。千金にとって、この件は既に無い物とほぼ同義になっている。


「そんな悠長な事言ってていいんスかねぇ」


「お前の魔法は目立ちすぎると言っているのだ。魔力が充満する宴まで待て」


 そう言い、呵成は何もない宙へと手を掲げた。鈴の音が鳴る。同時に円を描くように亀裂が走った。


「何を確認したいんです?」


「教会の位置とその周辺だ。少々厄介な人間がそこにいる」


「厄介ねぇ……。――――あ?」


 一歩を踏み出そうとしたところで千金の動きが止まる。


「どうした」


 当然、それを不審に思った呵成が声をかける。しかし千金はそれに対して首を横に振った。


「俺はここにいますわ」


「何だと?」


 呵成の眉が吊り上る。


「俺、神様嫌いなんですよねぇー」


「……ふざけているのか、千金」


 呵成は、この千金をもともと視察の為に連れて来ていたのだ。ここで行かなければ何の為に呼んだのか分からなくなる。

 が。


「だって、いるんスよね。そこに」


 呵成にとって。

 未だに手綱を握ることができぬ少年は、笑う。


「今、凄ぇ血が騒いでるんスよね。殺しちまうかもしんない」


「――――っ」


 何を馬鹿な、という声が口から発せられることは無かった。目下の人間からの威圧で言葉を紡げなかった自分に驚きと苛立ちを感じながら、呵成は亀裂の中へと足を踏み入れる。


「……好きにするがいい。だが、余計な事はしてくれるなよ」


「へいへい。のんびり昼寝でもして待つことにしますよ」


 夜空から淡く光を放つ月を見上げながら千金は欠伸をした。

 再び鈴の音が鳴り響く。「連れてくるんじゃなかった」という愚痴をも聞き流し、千金は改めて視線をある方向へと向けた。


 近付いてくる気配。

 呵成ではない。呵成はたった今この場から消えたばかりだ。

 つまり。


「……もう探知されたってのか?」


 そういうことになる。青藍魔法学園の敷地の全貌を千金は知らないし興味も無い。それでも、それなりの広さを有していることくらいなら千金も知っている。ましてやここは青藍のどこかも分からぬ森の中。普通に考えてたまたま立ち寄るような場所では無い。

 足音が聞こえた後は早かった。暗闇の中、茂みを掻き分けるようにして1つの影が千金の目に留まる。


 1人の学園生だった。

 青藍魔法学園の制服を着て。

 思わず凝視してしまう程の。

 白髪の学園生だった。


「はぁ、はぁっ!! やっと、……見付けたぞ」


 やっと? 意味が分からない。

 そう思いつつも千金は口角を吊り上げた。

 目の前の学園生は、自分に与えられたすべての情報と合致する、と。


「……“青藍の2番手”。中条聖夜で間違いねぇな?」


「……そうだ。お前は――」


「ひゃあははははははっ!!」


 どうでも良かったはずの事案が、千金の中で再び優先事項として浮上する。相手の言葉など耳には入らない。

 千金は両手を広げて高らかに名乗る。


一獲千金(いっかくせんきん)だ!! ヨロシクな中条ォォォォ!!!!」

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