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テレポーター  作者: SoLa
第3章 魔法文化祭編〈上〉
72/432

無題2

 少年が呼ばれた場所は、学園長室。


 そこは少年の良く知る一介の教員が呼び出すには、不自然な場所だった。

 そこは学園内序列1位の少年が呼び出されるには、不自然な場所だった。


 それでも少年は怪訝な表情1つせず、黙々とその場所を目指して歩いて行く。


 昼休み。学園生たちの憩いの時間。

 喧騒に包まれている廊下も、少年の歩く一角だけは必ず静まり返った。廊下でたむろしている学園生たちは、頼んでいなくとも少年に道を譲った。礼など少年が言うはずも無い。頼んでいないのだから。


 周りから向けられる好奇の視線も全て空気と化し、少年は結局誰とも口を交わさぬまま学園長室の前へと辿り着いた。

 学園長室は1階のやや奥まったところにあり、あまり学園生がうろつくような場所では無い。


 少年はさも当然のようにノックする事無く扉に手をかけ、中へと一歩を踏み出した。

 無言のままぐるりと室内を見渡す。

 少年を呼び出した張本人である教員は、来客用のソファに腰掛けていた。

 この部屋の主である学園長は、学園長用のデスクの横で控えるように立っていた。


 そして。

 デスクの上には、室内にも拘わらず白い日傘を差し白いふわふわとしたドレスを着た白い少女が腰掛けていた。


 無音のまま視線が交差する。沈黙を破ったのは白い少女の方だった。


「お久しぶりですね、……ここでは山田とお呼びした方がよろしい?」


「名前なんざどうでもいい。……何の用だぁ? こんな回りくどい手ぇ使いやがって」


 ここに来てようやく少年が口を開く。その嫌悪感に満ち満ちている声色を聞いても、白い少女の浮かべる優雅な笑みは崩れない。


「わたくしがここへ来る理由など、そう無いはずですけれど」


 少年は露骨に舌打ちした。


「……で、何をやらせようってんだ今度は」


「お話が早くて助かります。今回の案件についてはわたくしも少々乗り気ではないものですから」


 白い日傘をくるくると弄びながら、白い少女は窓の外へと目を向ける。


「青藍魔法学園」


「お断りだ」


 一瞬の隙も無く少年は即答した。白い少女の目が少年の下へと戻る。


「お早いのね」


「あそこの管轄は水月(すいげつ)のはずだろうが。なぁんでこの俺様がしゃしゃり出なくちゃいけないんですかぁ? ふざけんな」


 少年は自分の主張を吐き出すだけ吐き出すと、ついでに唾も吐き捨てた。直ぐに自分が今いる場所が学園長室である事を思い出し、革靴でごしごしと絨毯に染みを広げていく。


 白い少女はそれを珍獣でも見るかのような目付きで眺めながら問うた。


「怖いのかしら」


「……何がだ」


 少年の動きがピタリと制止する。その身体から漏れ出す不穏な気配に動じる様子も無く、白い少女は続けた。


「彼と戦うことが」


 何の前触れも無しに、白い少女の腰掛けていたデスクが真っ二つに割れた。


 収納されていた資料が音を立ててぶちまけられる。衝撃によって何十枚もの用紙が学園長室内を舞った。

 そんな光景には目もくれる事無く。


「そいつぁ……」


 特に怪我を負った様子も無くスカートの裾を押さえたままふわりと着地する白い少女に向かい、少年は言う。


「俺様の『事象の上書き(オーバーライト)』を踏まえた上での発言か?」


「そのお答えについては、御随意に。けれど」


 ドレスのふわふわとした装飾をぱたぱたと叩きながら白い少女は答えた。少年が再び口を開くよりも先に白い少女は続ける。


「今回の案件に彼は関係していません。今のところは、になりますが」


「何?」


 少年の眉が吊り上った。


「じゃあ何だってんだ」


「それをご説明しようとしておりますのに。ただ、この部屋はもう埃っぽくていけませんわね」


 言うまでも無く少年のせいである。が、白い少女はその事について特に言及せず流し目で身じろぎ一つしない学園長を捉えた。


「新しい部屋を用意して頂戴。それと、……何か口寂しいですね。案内した後、紅茶か何かをお持ちになって。ああ、それから貴方」


 そう言って、白い少女は来客用のソファに腰掛けている教員を指差す。


「この部屋の片づけを任せます。壊れてしまったデスクは貴方の責任ですから、早急に新調するよう手配なさい」


 嫌な顔1つせず(正確には表情すら変えず)に従う壮年の男性2人。

 その光景を傍観していた少年が呟く。


「……あまりやり過ぎんじゃねぇぞ。記憶に残らずとも痕跡を消せるわけじゃねぇんだからな」


「学園長室のデスクを真っ二つにした貴方の言うセリフですか、それは」


 その指摘には口を噤む他無い少年だった。

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