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テレポーター  作者: SoLa
第3章 魔法文化祭編〈上〉
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第4話 “青藍の5番手”安楽淘汰




「おはよう」


「……おはよう」


 朝。

 寮棟の正面玄関で俺を待ち構えていたのは、将人でも鑑華でもなく花園舞その人だった。仁王立ちでこちらを向く彼女は、朝の穏やかな風景には到底似合わぬ存在感を放っている。

 隣に立っている可憐と咲夜が小さく見えた。


「えーと、何か御用で――」


「一緒に行きましょうか、聖夜」


「――はい」


 にっこりと。

 つべこべ言わず黙って従えオーラを出す舞に大人しく従う俺だった。







 横一列4人で歩く。俺の両隣りには舞と咲夜。咲夜の反対側に可憐がついた。傍から見れば男1人に女3人。後ろから刺されても文句は言えぬ華やかな状態だったが、残念ながら嬉しくもなんともない。むしろ隣に立つ舞から真っ先に刺されそうだ。


「……」


 しばらく無言が続く。

 ちらりと横を歩く咲夜に目を向けてみた。ばっちり目が合う。どうやら咲夜も俺の様子を窺っているところだったらしい。物凄い勢いで逸らされてしまった。


 ……ちょっとショック。

 落ち込んだ気持ちを誤魔化すように反対側へと目を向けてみる。

 舞が凄い剣幕で俺の事を睨み付けていた。


 今度は俺が目を逸らす番だった。

 だが。


「聖夜ぁ? なぁんで目を逸らすのかなぁ?」


 何でだと思う? 原因はお前だ。

 無視し続けようとしたが肩を掴まれ、強引に身体ごと舞の方へと向けられる。


「ちゃあんと目を見てお話ししましょうねぇ?」


 顔を逸らそうとしたら両手で頬を押さえられた。

 至近距離で見つめ合う構図となる。


「……早く用件を言え」


 近い。このままキスでもする気か。平静を装いつつも心臓が高鳴っているのを感じる。舞だって壊滅的な性格さえ直せば目を瞠るような美少女なのだ。この距離は色々な意味で身体に悪い。


「……聖夜」


「……何だ」


 舞の思いの外低い声で邪な思考が吹き飛ぶ。いったい何を言われるというのか。

 ごくり、と。喉を鳴らす音が聞こえた。俺じゃない。舞でもなかったので可憐か咲夜のどちらかだろう。

 何でお前らが緊張してんだよ。そんなツッコミをする前に舞の柔らかそうな唇が動いた。


「貴方、……鑑華美月に誘惑されたでしょ」


 ……。

 目が点になるという言葉はこういう時に使うのだろう。俺は今まさに身を以って実感していた。


「……はあ?」


「すっとぼけんじゃないわよ!!」


「うっさい!?」


「きゃあ!?」


 超至近距離で怒鳴られた為、思わず舞を突き飛ばしてしまった。


「何すんのよ!!」


 それは間違いなく俺のセリフだ。


「何を言い出すかと思えば、……アホか」


「そうやって言い逃れしようったって無駄よ!!」


「何が根拠でそんな自信たっぷりなのお前!?」


 ずびしぃっ、と効果音が付きそうな勢いで突き付けてきた人差し指を払う。

 言いがかりも甚だしい名誉棄損だぞ。


「じゃあ何で昨日はあんな仲良さそうに登校してたのよ!!」

 ……。

 言いがかりでもなかった。


「ふぅん」


 咄嗟に言い返せなかった俺を見て、舞が危ない眼光を放つ。


「沈黙、……ね。つまり何かしらはあった、と」


「何もありませんでした」


「嘘仰い!!」


「面倒臭い!!」


 本能のままに叫んだ。

 昨日は朝っぱらから将人から抱き着かれて、あれやこれやになっていたからアイツに助けを求めただけだ。とはいえ、これを1から説明するの? 聞き終える前に舞が爆発するわ。

 取り得る手段は1つ。


「あっ!? 聖夜!!」


 一瞬の隙を突いて舞の拘束を振りほどく。全速力で駆け出した。どうせ教室で捕まるだろうが、その時は鑑華本人もいる。鑑華も将人たちとは顔を合わせていたし、説明の時に一役買って出て貰うとしよう。


「逃げるんじゃないわよ!!」


「わりぃ、俺これから生徒会だからさ!!」


 もちろん嘘である。しかし、振り返りながら叫んだその行為が仇となった。


「中条せんぱいっ!? まえまえまえっ!!」


「へ!? うわっ!?」


 油断。気の緩み。視界が一回転した。

 舞たちの驚く表情、青い空と白い雲と経由してコンクリートが一面に広がる。

 身構えようとしたその時だった。ふわり、と。身体が宙に浮く感覚。ゆっくりと自分に掛かる重力が戻ってきた。

 ……これは。


「すみませんね。咄嗟だったもので魔法を使ってしまいましたが」


 振り返る。そこには。

 車椅子に腰掛け俯いている男子生徒がいた。


 俺に話しかけているにも拘わらず、その男子生徒の閉じられた目は開かない。

 ……この人、どこかで。


「聖夜!!」


「中条さん!!」


「中条せんぱいっ!!」


 舞・可憐・咲夜が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか!?」


「あ、ああ、平気」


 可憐に助け起こされる。


「……聖夜、……中条? ……ふむ、なるほど」


 目を向けてみると、車椅子に座る男子生徒は何やらうんうんと頷いていた。

 おっと、まずは謝らなければ。


「あ、あの」


「……“青藍の2番手(セカンド)”」


 さらりと呟かれた一言に、俺はもちろん舞や可憐、咲夜の動きも止まる。その雰囲気を肌で感じ取ったのだろうか。車椅子に座る男子生徒は片手をひらひらさせながらこう続けた。


「ああ、警戒はしなくていいですよ。僕は何かしに来たわけじゃない。この出会いは偶然です。……もっとも、君の武勇伝の数々を耳にしている身としては、興味の対象であったわけだけど」


「……貴方は」


 興味の対象、とは。

 あまり良い印象を持たれていない身としては、好意的な言葉として受け取る事のできない言葉だ。


「僕かい? 僕はこういう者だ」


 肘掛けに置かれていた手が胸元へと伸びる。胸ポケットに入っていた何かが引っ張り出された。


「あ……」


 舞が声をあげる。同時に気付いた。


 エンブレム。

 刻まれし数字は、『5』。


 行かないほうがいい。

 行ったら非公式の場での喧嘩についてやら、喧嘩で壊した施設や備品についてやらで相当拘束される事になる。


 受け取る手筈になっている『2』のエンブレムは既に手中にあったし、ありがたいお言葉だけでなく説教までされるのであれば行ったところで意味を成さない。ぶっちゃけ面倒臭いだけだ。

 そう結論付けた俺は、大和からの忠告をありがたく賜り2人仲良くエンブレムの授与式をすっぽかしていた。無論、その後白石女史から直々に呼び出しを受けそれはも盛大にお説教という名のごほごほっ!! あれ、おかしいな。思い出そうとしたら急に眩暈が……。


 さて。

 だから、会長・蔵屋敷先輩・大和・俺。そしてもう1人誰か別の番号持ちの人間がいるという事実は知っていても、実際に会った事は無かった。その人間が目の前にいる。

 話には聞いていた。


 盲目にして自立できぬ者。それでも、青藍の五本指に堂々と君臨する者。


「“青藍の5番手(フィフス)”、安楽淘汰(あんらくとうた)。以後よろしくお願いしますよ。中条聖夜君」


 誠実そうなその男子生徒は、気さくな態度でそう言った。



「それじゃあ文化祭に向けた話し合いを始めるぜ!!」


 全ての授業が滞りなく終了したところで、俺は旧2年A組のクラスを訪れていた。

 今日は文化祭準備として、学園側から特別に時間を設けられているわけではない。このクラスの責任者である将人からの自発的な呼びかけだった。部活や委員会等を理由に来なかった奴もいるものの、クラスの半数以上が招集に応じたあたり、やはり皆のやる気が窺えるといったところだ。


「まずは紹介しておこう!! 今日は心強い助っ人が来ているぞ!!」


 将人が握り拳を天へと突き上げた。無駄に熱い。


「このクラスの一員である事はもちろん!! 学園序列2位!! そして俺たちの頼れるオブザーバー!! 中条聖夜だ!!」


 拍手喝采である。将人の煽りに感化されたクラスメイト(主に男子生徒)は、奇声を喚き散らさんばかりの大盛り上がりだ。無視するわけにもいかず、愛想笑いを振りまいておく。教卓で一際大きな拍手をする将人に睨みを利かせてみたが、予想通り意味を成さなかった。既に面倒臭さが俺の中の許容値を遥かに上回っている。


 本当なら今日も生徒会館で細々と文化祭の資料作りをしているはずだったのに。

 1、2年のA組の担当となった俺は、担当クラスから要請があれば文化祭準備に立ち会わなければならない。どういった方向性にしていくのか、どこまでなら学園の出し物としてOKなのか。そういった相談をしていきながら企画書を練り直していくのだ。


 でも。

 でも、だ。


「さて、同志である聖夜よ。この崇高なる文化祭の出し物のクオリティを今まで以上に底上げする為にはいったい何が必要かね?」


「まずこのふざけたタイトルから取り下げろ」


 企画書の一番上に堂々と表記されている文字、『喫茶SEIYA(仮)』。正直、見るだけで頭が痛くなってくる。


「す、すみませぇんっ!! お待たせしましたぁ~!! っ、はぁ、はぁ」


 教室前方の扉が勢いよく開かれた。白石先生が肩で息をしながら入ってくる。


「ありゃ、本当に来てくれたんスか先生。無理しないで良かったのに」


 目を丸くしながら言う将人に、白石先生は天使のような微笑みを向けてこう言った。


「私の教え子の皆さんが、……けほっ、一生懸命お祭りを、……はぁ、はぁ。盛り上げようとしているんですけほっ!? ……ふぅ。私だってできる限り協力しますとも」


 最後だけ爽やかだった。良いセリフを言っているはずなのに色々と台無しだ。

 ハンカチで汗を拭いながら「続けてください」と促す白石先生を尻目に、将人は改めて集まったクラスメイトの方へと向き直る。


「んじゃ、まずは当面の問題である衣服の調達についてなんだが」


「おいその前にタイトルを変えろ」


「流石に裁縫で一から作るってのは無理だと思うんだ」


「おい頼れるオブザーバーとやらの意見は無視か」


「ちなみにこの中で裁縫得意な奴っている?」


 俺の意見をガン無視で挙手を求める将人。誰も手を挙げなかった。


「ある程度はできるって言っても、洋服を作るのは無理かなぁ」


「簡単にできるならそっちの道進んでるし……」


 女子生徒たちは苦笑いと共にそう漏らす。無理も無い。


「え、えぇと……。本城君。このクラスはメイドさんの喫茶店をやるって事はもう確定なのですか?」


 いつも立っている教壇を将人に譲っている白石先生は、扉の近くに立ったまま控えめに手を挙げた。


「ええ、それはもちろん」


 将人といえば清々しいまでの断言ぶりだった。男子生徒も無言で首を何度も縦に振っている。意外にも女子生徒から反発の意見は挙がらなくなっていた。羞恥よりも非日常的な衣装への興味が勝ってしまったが故か。それに一応本当に嫌な奴は調理班に回るという手もある。


「そのお洋服の事なんですが、もしかしたら揃えられるかもしれません」


「えっ!?」


 教室がざわめく。驚いたのは俺も一緒だ。だが心境は違う。調達が不可能という理由からただの喫茶店への降格を期待していた俺からすると、とてもいらない発言だ。

 白石先生が抱えていた資料を将人へ差し出した。


「……これは?」


「昔の文化祭で行われた3回目の……、つまり最後に生徒会に提出する完成版の企画書です。その中であるクラスが……」


「メイド喫茶やってるっ!!」


 白石先生の説明をぶった切り将人が吠える。


「なっ!?」


「何だと!?」


「マジか将人!!」


「神はいた!!」


 将人の反応に男子たちが色めきだった。


「し、白石先生っ!! こ、このメイド服は今どこに!?」


「そ、それが~」


 白石先生の視線が将人から俺の方へとスライドする。……こういう時に感じる嫌な予感は当たるんだこれが。


「この学園の資材置き場に備品として保管されているらしいのですが、どの資材置き場なのかは分からなくて……。定期的に生徒会が備品チェックをしているようなのですが……」


 男子の視線全てが俺へと集まった。


「聖夜、よろしく頼むわ」


 将人の一言と共に教室が拍手で包まれる。本日の議題は満場一致で可決され、解散の流れとなった。

 マジか。難易度高すぎだろ。ただでさえメイドという言葉に過剰反応する副会長様がいらっしゃるというのに。







「いいところに目を付けたね」


 2年A組での集まりを終えた俺が生徒会館へと足を踏み入れると、都合の良いことに中で出迎えてくれたのは会長ただ1人だけだった。

 気が進まなくても頼まれてしまった以上は仕方が無い。メイド服の件を会長に聞いてみると、案の定と言うべきかやはり第一声は否定的な内容ではなかった。


「確かにメイド喫茶をやったクラスはある。過去の資料を漁ったのかい? 実に勤勉な事だ」


「……会長、知ってて何も教えてくれなかったんですね」


「もちろん。あの場には紫がいたっていうのもあるけど、何より君が否定的のようだったからね」


 ……。

 何だかんだで人の事を良く見ている。


「まさかこの件に関して君の方から切り込んでくるとは思わなかった。予想外だよ」


 朗らかに笑いながら会長はゆったりと会長席に身を沈めた。


「いえ、見付けたのは俺じゃ無く……」


「……ああ、なるほど。見付けられて(、、、、、、)しまったのか(、、、、、、)。どうりで突破口を見付けた割に苦々しい顔をしていると思った」


 そう言いながら、会長は机の上に乱雑に置かれていた紙の束からホチキス留めされた資料を抜き取った。


「それは?」


「お望みの備品チェックリスト、さ」


 パラパラと紙を捲っていく。


「その過去のクラスはよくメイド服を揃えられましたね。限られた予算でやり繰りできたって事は、やはり裁縫したんですか?」


「いや、無謀にも生徒会や学園の目を盗んで自腹で揃えたのさ。外出許可証の発行さえ受ければ、学園外への買い出しも可能な時期だからね」


 会長は苦笑しながら「発覚した時にはもうやり直しができない時期まで来ていたらしい」と付け加えた。中々豪胆なクラスだったようだ。


「……それが今も」


「うん、あるね。君が聞いた通り年に何回かに分け、備品確認という事で生徒会は保管されている物を全てチェックしているんだ。項目の中にあったのを記憶しているよ。察しの通り異質(、、)なものだからね。記憶に残りやすい」


 その割には「どこだったかなぁ」とリストをひっくり返している。


「……よくもまあ捨てずに今まで保管していましたね」


「困った事に、隙あらば紫が廃棄しようとするのさ。それを止める事が今の俺の仕事だと思っているよ。お、あったあった」


 会長は開かれた資料を見て少しだけ含み笑いを漏らした後、俺に対してこう言った。


「ま、冗談はさておき、お目当ての物はここだ。備品保管室『四』。つまり新館最上階だね」







 備品保管室『四』。

 ……いきなりラスボスに出くわした。


「あら、中条君?」


 こんなところで奇遇ね、みたいな感じで副会長が振り向く。

 我がクラスの出し物に必須の戦闘服が眠る保管室には、無事に文化祭を迎えるうえで避けては通れぬお方がいた。


「どうしたの中条君。わざわざこんなところに用事?」


 手にしていたダンボールの箱を置いて、こちらへと寄ってくる。

 どうすんだこれ。回避するにはまだまだ圧倒的に経験値が足りてない。どう考えても相対するには早過ぎた。


「えぇとだな……」


 何と言っていいか分からん。

 ここは新館の最上階。ほぼ物置がメインの階だ。たまたま通りがかったとか間違えましたとかは通用しない。


 くそ、あの男。

 知ってて俺をここに寄越しやがったな。何が善は急げだ。帰ったら速攻でぶっ飛ばす。


「……中条君?」


 何も言わない俺に副会長は首を傾げた。不信感を持たれるのは非常によろしくないわけで。


「か、会長が……」


「兄さん?」


「あ、ああ。会長が言ってたんだ。副会長がここで荷物整理か何かをしてるって。ちょうど今手が空いてたからさ。何か手伝える事があればと思って……」


 こんな感じでどうでしょう。とっさに口から出た内容としては悪くは――、


「私、兄さんに伝えてたかしら?」


 ――悪かった!!


「独り言でも聞いてたんじゃないか? それかそれっぽい資料とかを会長が見てたとか。あの人、そういうところ良く気が回るから」


「……そう言えば。生徒会館を出る前、兄さんの机にあった保管室の備品チェックリスト用紙に目を通したわね」


 ほら来た!! 見えたぞ勝機!!


「で。何してたんだ?」


 ここまで来ればこっちのものだ。ボロが出る前にとっとと話題を変えるに限る。

 副会長の後ろ。保管室内を見渡してみる。大きな作りの部屋であるとは言い難いが、様々な備品が収納されている棚が乱雑に立ち並び、一目ではどこに何があるのかなど全く分からない状態だった。


「私が担当してるクラスから備品の問い合わせがあってね。現物を確認したいって言われたから取りに来てたの」


「……なるほど」


 副会長の説明に頷き、改めて保管室内を見渡してみる。これといってグループ分けされているようでもなく、備品は片っ端から入れられる所に入れられているように見えるが。


「特にジャンル別に収納されているわけではないわ。本当はまとめていきたいんだけど、いくつもの保管室に滅茶苦茶に仕舞われているこの状態じゃあねぇ」


 人手がいくらあっても足りないということか。


「私たちができた唯一の苦肉の策。それがこれよ」


 副会長が指差した場所を見てみる。それは棚に貼られている1枚のシール。『Fー13』と書かれていた。


「アルファベットと数字で場所を記す。これが保管室備品チェックリストに全て書かれているわ」


 上下左右、周りの棚を見てみれば、確かにこのようなシールが至る所に貼られていた。


「……はぁん? 確かにチェックリストでその備品さえ見つけてしまえば、後はこれで場所を特定できるってわけか」


「そういうこと」


「んで、副会長が探してる物はどこにあるんだ?」


「えぇとねぇ……」


 副会長が指し示した先には無造作に積み重ねられた段ボールの山。


「あの向こう」


「……」


 目印のシールによってある程度場所は絞り込めるようになったものの、増える備品に整理が追い付いていない。居場所が無い備品が常に散乱している保管庫。

 結局、整理をしながら先に進む副会長に付き合っているうちに日が暮れてしまった。

 ちなみに、メイド服は見当たらなかった。







 さらにちなみに。

 今日は生徒会出張所に寄って帰るという副会長に別れを告げて、俺はもう一度生徒会館へ顔を出した。目的はもちろん1つしかない。会長である。


 幸運にも会長はまだ生徒会館にいた。1人で。俺を見るなり謝ってくる会長。今回のは流石にやり過ぎたと反省したのかと思っていたら、謝罪内容は俺の想像とまるで異なっていた。


『ごめんごめん。メイド服が保管されてるのは、保管室「三」だったよ』


 俺は笑顔で会長が手にしていた書類をひったくり、内容も見ずに隣にあったシュレッダーにぶち込んで帰宅した。


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