表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テレポーター  作者: SoLa
第3章 魔法文化祭編〈上〉
68/432

第2話 イチオシ

「それではホームルームを始めます~」


 白石先生の緩い号令の下、懐かしの2年A組で文化祭への話し合いが始まった。


「まずはこのクラスの代表者を選出します。代表者は同時に文化祭実行委員にもなりますから注意してくださいね」


 手元の資料を見ながら白石先生が進めていく。


「では、立候補にしましょうか。こういったものに一番大切なのは技量ではなくヤル気ですから~」


 黒板に軽快なリズムで「代表者 兼 実行委員」と書いたところで白石先生は一同を見渡した。


「やりたい人っ!!」


 バッと勢いよく手を挙げる。

 白石先生だけが。


 ……。

 先ほどまでざわついていた教室内は一変して静寂に包まれていた。


「……え?」


 ただ1人。さあ我に続けとばかりに手を挙げたままの白石先生だけが動き出す。大きなおめめをぱちくりとさせて、もう一度周囲をぐるりと見渡した。


「て、手を挙げて!!」


 バッと。再び白石先生が手を挙げる。が、当然のように続く者は誰もいない。


「え? え、え? な、何でですか皆さん!? 文化祭が楽しみじゃないんですかぁ~!?」


 白石先生が教卓で1人、ぽわぽわと力説する(表現が矛盾しているように感じられるかもしれないが、そうとしか言いようがない)。手をぱたぱたと動かして皆を促してはいるものの一向に誰も乗ってくる気配はない。と、言うより。誰1人として白石先生と目を合わせようとしない。


「……はは」


 笑ってしまう。

 文化祭が楽しみという感情と、責任者兼実行委員への立候補は当然別物。むしろ厄介事が多く回ってくる責任者は、文化祭を遊んで過ごしたいと考える人間からすれば嫌な役回りだろう。


「このまま立候補でいくなら長期戦になるな」


「……でしょうね」


 可憐が小声で賛同してきた。

 既に教室内は声を出すことさえ禁止されているような雰囲気になっている。注目を集めたら終わりだと言わんばかりに。


「ね、ね、ね? どうですか? やってみませんか?」


 見ればきょろきょろと目を走らせながら白石先生が勧誘を続けていた。

 名前で呼ばれていなくとも、自分に声を掛けられていることくらい分かるのだろう。一同皆気まずそうだ。


「うぅ……。推薦と言う形は取りたくないのですけど」


 ヤル気一番と考えるのならその結論は自然な流れであると言えるだろう。


「ほ、本当に誰もいないんですかぁ~?」


 ……。

 白石先生と目が合う。当然ながら俺は生徒会なので力になれない。


「……いないんですかぁ?」


 ……。

 うん。超気まずい。

 他の奴らは俺以上だろう。できるのにやらないのだから。


「な、中条くん」


「不可能です」


 無理です、じゃない。不可能です。今朝も昼も生徒会の会議で会長に念を押されたばかりだ。


『君が目立ちたがり屋なのは知っている。メイド喫茶に命を懸けられる男であることも理解しているつもりだ。だけれど済まない。生徒会役員は実行委員の兼任ができないんだ!!』

『うん、死ね』


 こんな感じでした。


「う、うぅ~」


 唸る白石女史。これ、下手すりゃ泣くんじゃないか?

 教卓で俯く担任を見て、教室内に1つの波紋が広がるかのように少しずつ焦りが広がる。見るに堪えん。誰か早く何とかしろ。してくれ。頼む。

 ふと、俺の対角線上最前列に席を構える将人と目が合った。サムズアップされる。意味が解らない。それを180度回転させた形で返してやった。

 直後。


「分っかりました!!」


「うわっ!?」


 突如顔を上げて叫んだ白石先生。不意を突かれたであろう将人は、大袈裟に見えるほど飛び上がった。後ろに座る修平やとおるに笑われている。平和なことだ。


「実行委員になってくれた人にはですねぇ、えー、……い、良いことがあります!!」


 ……担任が生徒の前で何か言い出した。


「どんな良いことがあるんですか先生ー」


 からかってくる修平の顔を押しやりつつ、将人が半ば投げやりな口調で問う。白石先生はひとしきり悩んだ後、こう言い放った。


「文化祭で、先生がたこ焼き奢ってあげます!!」


 ……。

 うん、それ単純な買収行為ですよね。ヤル気第一はどこいった。

 流石にそれは無いだろうと周囲を見回してみて気付く。


「……マジかよ、白石先生に奢ってもらえる、だと?」


「い、一緒に屋台まで行くってことだよな?」


「それはもはや、……いわゆる、その、……デートと呼んでもいいのでは?」


 あ、そう捉えるんだ?

 クラスメイトはその提案でめちゃめちゃ揺れていた。但し男子限定で。単純すぎる。

 女子たちは白けた目線で近くの男子生徒を見ていた。


「先生っ!!」


 がばっと将人が手を挙げる。


「あ、やってくれるんですか!?」


 白石先生が嬉々としてそちらを見た。同時に他の男子生徒から呪いの言葉が飛び交う。どうやら先を越されたことが不満らしい。流れを奪われたと考えているのか続けて手を挙げる者は現れない。

 そうか、将人が実行委員か。少し不安な気がしないでもないが、こういうイベントでは大はしゃぎしそうな奴だ。案外良い方向へと転がるかもしれん。

 そんな感じで結論付けようとしていたのだが。


「もう一声欲しいです!!」


 将人の発言は想像の斜め上を突き抜けていた。


「……は?」


 その宣言に誰かが呆けた声をあげる。声に出したのは1人だけだったが考えていることは皆同じだろう。……何言ってんのお前。


「も、もう一声、とは?」


 白石先生がどもりながら聞き返す。将人は偉くもない胸を張ったうえでこう言い放った。


「買ってくれたたこ焼きを、あーんして食べさせて欲しいです!!」


 教室が一気に静まり返った。話し声は疎か物音1つすら無い完全なる静。隣のクラスから聞こえる笑い声のボリュームが一段階上がったのではと錯覚を覚えるほどだった。

 ……前々から馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、まさかここまでとは。あいつとの友人関係について考え直す必要がありそうだ。

 白石先生は目を白黒させながら口がぱくぱくと動いている。


 結論から言うと将人から発せられた馬鹿な提案に対して、白石先生がどうこう言う必要は無かった。

 自分の欲望に忠実な男子生徒とその横暴を止め白石先生の純潔を守ろうとする女子生徒。

 その分かりやすい構図で2年A組の教室は騒乱へと突き進む。







「随分と白熱されていたようですね」


「……お前か」


 休憩時間。5限目と6限目を繋ぐ空白の時間。廊下の窓を開けて外を眺めていたら知った人物から声を掛けられた。隣のクラスだ。こちらの暴動の音はどこのクラスよりも鮮明に聞こえていただろう。


「皆さんそんなにやりたい事があるのですか?」


「……いや、お前が想像してる有意義な話し合いなんざこれっぽちもされていない」


「……?」


 首を傾げた片桐だったが、全てを説明してやるつもりはさらさらない。目線を片桐から外へと戻したことで本人もこれ以上の説明は無いと判断したのだろう。くるりと踵を返して音も無く立ち去って行った。


「帰って寝てぇ……」


 無論、放課後は生徒会の集まりがある為叶えられない希望なのだけれど。







「では、先に出し物を決めることにしましょう」


 休憩時間が終わり6時限目。白石先生号令の下話し合いが再開される。

 結局男子vs女子の抗争は泥沼に陥り、白石先生の言う実行委員になったらある良い事の内容は実行委員候補者と共に保留となった。先に出し物を決めた方が、代表者としてやるべき事もイメージしやすいであろうという考えである。


「それでは何かやりたい物はありますか~?」


「はいっ!!」


 白石先生の質問と共に勢いよく挙手する男子生徒。

 将人だった。無駄に活きが良い。……お前、そのノリで実行委員もやっちまえよ。


 先ほどの出来事が尾を引いているのか、白石先生はやや押され気味に将人を指名する。

 凄まじい勢いで立ち上がる将人。その勢いで後ろへと倒れ込む椅子。後ろでうとうとしていた修平。修平の机に激突する将人の椅子。びくりと肩を震わせる修平。まったく気付かない将人。腹いせか鋭いローパンチを繰り出す修平。脇腹にクリーンヒットし悶絶する将人。こっそりと垂れていた涎を拭う修平。訳が分からないとばかりに後ろを振り向く将人。

 そこでやや遅れて反応したクラスメイトが笑い出した。


「……ふふ」


 隣に座る可憐も笑う。


「可憐も見てたのか」


「ええ。とは言え、私が見ていたものは中条さんとは違いますけど」


「ん?」


「私が見ていたのは中条さんです」


 ……は?


「俺、そんな面白い顔してた?」


 だとするならば、相当恥ずかしいんですけど。


「いえ、そういうわけではありません」


 手で口元を隠しつつクスクスと可憐は笑う。


「とても、穏やかな顔をされていましたから。良かったです。それは、中条さんがこの学園でリラックスできている、と。そう考えてもよろしいのですよね?」


「……」


 思わず言葉に詰まった。同時に顔が火照ってきたのを感じる。


「あら、別に恥ずかしがるような事ではないと思うのですが」


「……難しいお年頃なんだよ」


 視線を外しつつ呟いた苦し紛れの言い訳に、可憐はもう一度笑いを零した。







 放課後。

 ロケットの如くA組の教室へと乗り込んできた鑑華を、生徒会の話し合いを理由にあしらう。それによって起こったざわめきは舞が一睨みで黙らせた。苦笑していた可憐に別れを告げ教室から出る。

 片桐や副会長に会わないよう急ぎ足で階段を下った。


 冗談じゃない。

 いや、これは鑑華に対して言っているのではない。無論、アイツが教室に押しかけてきたせいで大騒ぎになりかけたのも面倒臭かったが、今はそれどころの話ではない。


 2年A組。

 すなわち俺のクラスの出し物が決まった。

 メイド喫茶に。


 冗談じゃない。

 もう一度言う。冗談じゃない。

 ただでさえ不用意な発言のせいで朝から散々馬鹿にされてきたのだ。これで本当に俺のクラスの出し物がメイド喫茶になっただなんて言ってみろ。副会長は修羅になるに違いない。おそらく片桐なんかは口すら利いてくれなくなるはずだ。

 あれもこれも全部、全てが将人のせいである。







『このクラス!! そしてこの学園が誇る我らが2番手・中条聖夜君のイチオシ!! メイド喫茶が良いと思います!!』


 その発言にクラス中がざわめいた。皆の視線が最後部窓際である俺の席へと集中する。男子からは尊敬の眼差しが、女子(主に舞)からは絶対零度の凍てつく視線が向けられた。

 なにこれ死にたい。


『……誤解してたぜ中条。お前は男の中の男だ!!』


『中条君そういうの好きなんだ。ちょっと意外かも』


『中条!! 俺はお前の夢を全力で応援するぜ!!』


『中条君……。転入試験受かったエリートだし、番号持ちだし生徒会だし。だからもっと真面目な人かと思ってたわ』


『中条!! お前は神だ!!』


『中条君露骨すぎー』


『お前は俺たちの魂の代弁者だ!!』


『てゆーか生徒会がそんなイカガワシイもの推奨しちゃっていいわけ?』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『……花園さんとか姫百合さんとかと仲良くしながら、まだ上を目指すんだ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『随分堂々とした夢だねぇ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『メイド服かぁ。ちょっと憧れだけど着るのは恥ずかしいよねぇ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『私もちょっとそ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『えーでも』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『わ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『そ』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『なっかっじょう!! なっかっじょう!!』


『ああああああああああああああああああ!!!! うるせぇええええええええええっ!!!! 将人てめぇこっち来いこらぶっ飛ばしてやる戦争だこの野郎ォォォォ!!!!』


『うわああああ!? 中条がキレた――――っ!?』


『将人逃げろ!! 殺されるぞ!!』


『2番手が暴れちゃ教室持たないぞ!? 取り押さえろ!!』


『放せあの馬鹿殴らせろクソ野郎がァァァァ!!!!』


『メイド好きの暴走生徒会だ――――っ!?』


『メッイッド!! メッイッド!!』


『中条を止めろ!! こいつ目がマジだ!!』


『きゃああああっ!? 中条君待って待ってストップ!!』


『メイドー!! メイドー!!』


『お、おい!? メイドコールしてる馬鹿誰だ!? 火に油を注ぐような真似は――』


『メイドって言った奴もこっち来い並べおら2番手の実力見せてやんよ皆ぶっ飛ばしてやるコイツのようになぁ!!!!』


『ぎいやああああああああああああああああああああああ!?』


『ま、将人――――――――っ!?』


 その後あのお方がブチギレし俺の眉間にチョークが直撃したのは言うまでもない。







 冗談じゃない。何度でも言う。冗談じゃないぞ。

 メイド喫茶? ふざけんな魔法欠片も関係ねぇじゃねーか!!


 発言者である将人が責任者をやるべき、という俺の主張が通り渋々と頬を腫らした将人は引き受けていたものの。それだけで解決できる問題じゃない。白石先生の若干ヒクついた笑みが今でも鮮明に脳裏を過ぎる。あの暴動には白石先生も完全にヒいていた。あれよあれよと出し物も責任者も決まり結果だけ見ればオーライかもしれないが、内容があまりにあまりすぎる。


 どうするんだこれ。やばいやばいやばい。

 昼の生徒会でも副会長に言われたばかりだというのに。


『いーい? 中条君。文化祭というのはね、読んで字の如く来場されるお客様にその学園の文化を提示するお祭りなの。間違っても可笑しな企画持ってこないでよ?』

『……はい』

『ただでさえこちらは手一杯なの。毎年毎年、生徒会を試してるんじゃないか、私たちのウケを狙ってるんじゃないか。そんな企画がたくさん来るんだけどね?』

『……はい』

『せめて生徒会役員がいるクラスくらいは一発OKの企画書を提示して貰わないとこちらが持たないというか。分かってくれるわよね?』

『……もちろんです』

『うん。ありがとう。これが私の杞憂であることを切に願っているわ。間違っても。間違っっっっても! メイド喫茶なんてイロモノは持ってこないでよ?』

『……はい』

『うぅ~ん。萌え萌えなメイドも立派な日本文化だと俺は思うんだけどびゅひゃべひゃ!?』

『か、会長ーっ!?』


 ……。

 思い出しただけでも恐ろしい。加湿器を顔面に投げつけられて鼻血だけで済ませる自信が俺には無いぞ。

 手にしていた企画書を握りしめる。ぐしゃりと音がした。


 生徒会館へと繋がる階段はとても長い。一段一段を踏みしめる。目的地へと近付くにつれて徐々に徐々に重くなる足は、決して疲労だけが原因ではないだろう。

 副会長曰く。

 各クラスから集められた企画書は、役員が分担して受け持ち文化祭に向けて面倒を見ていくらしい。専属のインストラクターというわけだ。

 ならば話は簡単。俺のクラスは俺が受け持つ。これしかない。ひっそりと内密に当日を迎える。せめて引き返せないところまで来てしまえば、副会長もとやかく言ってこないだろう。


 隠し通すしかない。

 これは問題の先送りなんかじゃない。れっきとした正当防衛だ。

 さて、どうやって言い訳し隠し通そうかと我がクラスの企画書に目を落とそうとした時だった。


「なっかじょーうくんっ!!」


「――――っ!?」


 不意に肩を叩かれる。

 条件反射で裏拳をぶち込みそうになる左手を右手で無理矢理抑え込み、振り返った。


「……ふ、副会長か」


「ん、どしたの? 怯えた目しちゃって」


「い、いや別に……」


 あと一歩で貴方の顔面をぶち抜くところでしたとは絶対に言えない。

 一瞬だけ怪訝な顔をした副会長だったが直ぐに気持ちを入れ替えたのか「そお?」と一言添えた上で。


「中条君早いわよ。同じ生徒会なんだから待っててくれてもいいじゃない」


 と、苦言を呈してきた。


「あ、あはは。いや、文化祭に向けてクラスも動き出してるし、居ても立ってもいられなくってさ」


「ほぉう? それはいい心掛けね」


「……確かに。それが本心なら大したものです」


「会話に割り込むなり突っかかってくるな」


 副会長の後ろからひょっこりと顔を出してきた片桐を睨み付けてやる。


「おや? 何か落としてますよ。もしかしてそれ企画し――」


「うおおおおおおおおおおっとおおおお!? 危ない危ないいいいい!!」


 にゅっと手を伸ばしてきた片桐の手を払いのけ、やや強引に落ちていた紙の束を掴み取る。どうやら先ほどの裏拳の時に落としていたらしい。


「……そんなに私に借りを作るのが嫌ですか」


 ちょっとショックを受けていそうな片桐がそんな事を言う。うんざりした。


「……いや、この程度に貸し借りなんてねぇだろ」


「その割には随分と必死に拾っていたようだけど?」


「そ、そうかな? そんな事は無いと思うけど」


 俺の返答に副会長が目を細めた。


「……怪しいわね」


「え」


「怪しい」


 ジト目に変わっていた。明らかに俺の手にある企画書に視線が向いている。


「いやいや怪しいとかそんな事は無くてですねこれは俺のクラスの皆が一生懸命に考えて書き上げた大切な企画書なわけで万が一にでも風に飛ばされては敵わないと思った次第でですね決してやましい気持ちなどあるはずもなくこれは俺のやる気の表れなわけですよはい」


「……」


「……」


 嫌な沈黙が流れる。

 一向に表情の変わらない片桐を見て、これは流石に胡散臭かったかと思い隣の副会長へと目を向けてみる。

 すると。


「素晴らしいわ中条君!! その精神はとても尊いものよ!!」


 予想に反してめっちゃ褒められた。


「その頑張りに全力で応えようとする姿勢こそが生徒会役員のあるべき原動力なの!! まったくそれなのに兄さんときたらもう!! 少しは中条君を見習って欲しいものね!!」


「そ、そうスか」


 恐縮です。


「……ふむ」


「何だよ」


「いえ、何でも」


 片桐の思わせぶりな目線を避けるように視線をずらす。片桐が1つため息を吐いた。


「副会長、行きましょう。後は生徒会館でしたらいかがです?」


「え? あ、ああそうね。ごめんなさい。それじゃ行きましょうか」


 長い長い階段のど真ん中で力説していた事にようやく気付いたのか、副会長が顔を赤らめながらそれを誤魔化すように先導して歩き出す。

 俺もそれに従おうと一歩を踏み出したところで。


「貸し1、ですよ」


「何の話だ」


 副会長に聞こえぬようそっと呟かれた片桐の言葉に反応する。


「副会長に怪我を負わせたら許さないですからね」


 ……。

 どうやら先ほどの裏拳未遂はしっかりとコイツにバレていたらしい。


「……もちろん、不審者の警戒を怠らないのは結構な事ですが」


「はぁ? 何の話だ」


「っ」


 俺のはぐらかしたセリフが癪に障ったのか片桐がギロリと睨み付けてくる。しかし、それ以上お互いが何かを口にする前に横やりが入った。


「お~い、早く来ないと置いてっちゃうぞ~!!」


 見れば階段の少し進んだ先で副会長がぴょんぴょん飛び跳ねている。


「……この話は終わりだな」


「今のところは、ですが」


 お互いに上辺だけの笑みを作り合い、会話を止めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ